「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・紅丹抄 5
麒麟を巡る話、第524話。
苛立つシエナ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
大月侵攻戦にて起こった数々の出来事は、各方面に著しい衝撃を与えた。
まず、白猫党。
《目に見えて、軍の士気が下がっております》
ロンダ司令の声には若干ながらも、憔悴している雰囲気が漂っている。
《緒戦で不覚を取り、あまつさえ撤退したことなど、これまで我が軍には無かったことですからな。
それに加え、これまで絶対無敵、不敗、守護神の如く慕われてきたアオイ嬢が敗北すると言う、あまりにショッキングな一件が……》「その辺でいいわよ。ソレ以上の愚痴は、聞く気無いから」
報告を受けるシエナも、苦々しい表情を浮かべている。
「とにかく現状で確かなコトとして、ダイゲツ以外の主要都市は押さえてあるんでしょ?」
《はい。そちらに関しては今のところ、敵性勢力の出現は確認できておりません。ですが、また彼奴らが現れた場合、……到底、守りきれる確証は無いと言わざるを得ません。
甚だ不本意ですがヴィッカー博士に、最新鋭の防衛兵器を開発していただくよう要請しようと考えております》
「そうね。アタシから言っておくわ。必要ならアオイに協力してもらって、博士本人を央南にすぐ送るから」
《了解いたしました》
通信が切れたところで、シエナはギロ、と背後の葵をにらむ。
「……で、アレはマジなの?」
「どれ?」
「色々あるけど……」
シエナは額に手を当てたり、拳を握ったり開いたりしながら、苛立たしげに問い詰める。
「マジでアイツ?」
「うん」
「なんで? この数年うわさも何にも聞かなかったのに、なんでいきなりアタシたちの邪魔しに来たの?」
「知らない」
「で、あのクソ女に負けたって、本当にホントなの?」
「うん」
葵がそう答えた瞬間、シエナは自分が座っていた椅子を蹴っ飛ばした。
「っざけんなあああッ!」
「……」
シエナは葵に詰めより、彼女のシャツの襟をつかんでギリギリと音を立てて握りしめる。
「痛いよ」
「アタシはね、アンタがドコのダレにも負けたりあしらわれたりしない、絶対に無敵なんだって信じて、アンタの言うコトに従ってやってたのよ!?
ソレが負けるって、一体何なのよ!? しかもあのクソ女に!? アンタ、昔勝ったじゃないの!? 余裕綽々で!」
「うん」
「このままじゃ、全部おじゃんになるじゃないの!
白猫党がこのまま央南侵攻に失敗したら、間違いなくアタシは責任を問われる! そうなればイビーザやロンダがアタシに反目しかかってる今、確実に党が真っ二つ、真三つに割れるわ!
そうなったら全部おしまいよ――世界の舞台に片足乗っけてたアタシたち白猫党は一転、みっともない内部抗争に突入するコトになるわ! 味方同士で、ドロッドロの泥沼戦を始めるコトになるのよ!?」
「……」
いまだ襟を締め付けるシエナに、葵は若干顔を青ざめさせつつも、淡々と返す。
「手を離して」
「アンタまだそんな、平気な顔をしてられると思ってんの!?」
「思ってるよ」
「何でよ!?」
「これも前々から『見えてた』ことだから」
「……!?」
ようやく襟から手を離したシエナに、葵は立ち上がって説明を始める。
「あたしがあの人に負けることは、前々から分かってた。彼女は超人になってるから。今のあたしには、まだ勝てない。
でももう一つ、『見えてる』ことがある。あたしが今度あの人に出会った時、あたしはあの人を八つ裂きにしてるよ」
「……本当?」
「あたしが言ったことに、嘘があった? 不足はあったかも知れないけど」
シエナは黙り込み、蹴っ飛ばした椅子を元の位置に戻し――しかし依然としてイライラとした口ぶりで、こう尋ねた。
「信じていいのね?」
「あたしを信じて党首になったんでしょ?」
「……そうね。いいわ、信じてあげる」
シエナは葵に背を向け、そのまま部屋から出て行った。
残った葵は、ゆるゆるになった自分の襟元に手を当て、短くため息をついた。
「結構気に入ってたんだけどな、このシャツ」
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苛立つシエナ。
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5.
大月侵攻戦にて起こった数々の出来事は、各方面に著しい衝撃を与えた。
まず、白猫党。
《目に見えて、軍の士気が下がっております》
ロンダ司令の声には若干ながらも、憔悴している雰囲気が漂っている。
《緒戦で不覚を取り、あまつさえ撤退したことなど、これまで我が軍には無かったことですからな。
それに加え、これまで絶対無敵、不敗、守護神の如く慕われてきたアオイ嬢が敗北すると言う、あまりにショッキングな一件が……》「その辺でいいわよ。ソレ以上の愚痴は、聞く気無いから」
報告を受けるシエナも、苦々しい表情を浮かべている。
「とにかく現状で確かなコトとして、ダイゲツ以外の主要都市は押さえてあるんでしょ?」
《はい。そちらに関しては今のところ、敵性勢力の出現は確認できておりません。ですが、また彼奴らが現れた場合、……到底、守りきれる確証は無いと言わざるを得ません。
甚だ不本意ですがヴィッカー博士に、最新鋭の防衛兵器を開発していただくよう要請しようと考えております》
「そうね。アタシから言っておくわ。必要ならアオイに協力してもらって、博士本人を央南にすぐ送るから」
《了解いたしました》
通信が切れたところで、シエナはギロ、と背後の葵をにらむ。
「……で、アレはマジなの?」
「どれ?」
「色々あるけど……」
シエナは額に手を当てたり、拳を握ったり開いたりしながら、苛立たしげに問い詰める。
「マジでアイツ?」
「うん」
「なんで? この数年うわさも何にも聞かなかったのに、なんでいきなりアタシたちの邪魔しに来たの?」
「知らない」
「で、あのクソ女に負けたって、本当にホントなの?」
「うん」
葵がそう答えた瞬間、シエナは自分が座っていた椅子を蹴っ飛ばした。
「っざけんなあああッ!」
「……」
シエナは葵に詰めより、彼女のシャツの襟をつかんでギリギリと音を立てて握りしめる。
「痛いよ」
「アタシはね、アンタがドコのダレにも負けたりあしらわれたりしない、絶対に無敵なんだって信じて、アンタの言うコトに従ってやってたのよ!?
ソレが負けるって、一体何なのよ!? しかもあのクソ女に!? アンタ、昔勝ったじゃないの!? 余裕綽々で!」
「うん」
「このままじゃ、全部おじゃんになるじゃないの!
白猫党がこのまま央南侵攻に失敗したら、間違いなくアタシは責任を問われる! そうなればイビーザやロンダがアタシに反目しかかってる今、確実に党が真っ二つ、真三つに割れるわ!
そうなったら全部おしまいよ――世界の舞台に片足乗っけてたアタシたち白猫党は一転、みっともない内部抗争に突入するコトになるわ! 味方同士で、ドロッドロの泥沼戦を始めるコトになるのよ!?」
「……」
いまだ襟を締め付けるシエナに、葵は若干顔を青ざめさせつつも、淡々と返す。
「手を離して」
「アンタまだそんな、平気な顔をしてられると思ってんの!?」
「思ってるよ」
「何でよ!?」
「これも前々から『見えてた』ことだから」
「……!?」
ようやく襟から手を離したシエナに、葵は立ち上がって説明を始める。
「あたしがあの人に負けることは、前々から分かってた。彼女は超人になってるから。今のあたしには、まだ勝てない。
でももう一つ、『見えてる』ことがある。あたしが今度あの人に出会った時、あたしはあの人を八つ裂きにしてるよ」
「……本当?」
「あたしが言ったことに、嘘があった? 不足はあったかも知れないけど」
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「信じていいのね?」
「あたしを信じて党首になったんでしょ?」
「……そうね。いいわ、信じてあげる」
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