「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・紅丹抄 6
麒麟を巡る話、第525話。
腐臭漂う連合。
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6.
非難の風は、西大海洋同盟と央南連合の間にも吹き荒んでいた。
「いつになったら到着するんですか、ナイジェル総長は!?」
「ですから、到着の直前に東部の主要港湾都市が封鎖され、そこからの敵船団に阻まれ……」
「そんなことはもう何度も聞いています! 我々が聞きたいのはいつ到着するか、いつ、この混迷しつつある状況を打破できうる対策を授けていただけるか、です!」
会議の面々から詰問され、連合の主席、橘飛鳥は表情を堅くして黙っている。
「現在、西大海洋上を航行中につき、ナイジェル卿の乗る船は、あらゆる通信手段の範囲外にあります。即ち現在、ナイジェル卿とは連絡が付かず、彼から意見を聞くことも不可能です。
だからと言ってこのまま手をこまねいているわけには行きませんぞ、橘主席!?」
「……では」
自分の名を呼ばれ、そこでようやく飛鳥が口を開く。
「こんな事態も想定し、ナイジェル総長より策を伝えられております」
「ほう……」
「まず、白猫党が武力を伴って央南圏内に出現した場合、高い確率で同盟の要である自分の行動を阻みに来るだろうと、ナイジェル卿は予測しておりました。
そしてその場合、白猫党はどこに拠点を持ち、どこから攻めてくるか? ナイジェル卿はその予想をまとめています」
飛鳥は席を立ち、かばんの中から書類を取り出して、黒板に貼り付けていく。
「こちらがその予想される拠点と、侵攻箇所の一覧です。これによればしばらくは、東部地域を中心に攻めて回るだろうとされております」
「それは何故です?」
「東部は三方を海に囲まれており、敵の海軍勢力にとっては攻めやすいからです。また、連合に強い影響力を与えうる商家や軍閥も少なく、守りも万全とは言えません。
逆に西部となれば西側に屏風山脈があり、そこからの侵攻は困難。また、我が橘家や黄家をはじめとして大きな勢力が多数存在するため、容易に攻めることはできません。
そう考えれば西部より東部、誰もがそう結論づけるでしょう」
「ふむ、確かに」
「少なくとも今年中においては、彼らは東部に留まっているはずです。いくらなんでも今年一杯、ナイジェル卿を海の上に縛り付け続けることは難しい。ナイジェル卿にしてみれば、央南に入れないのであれば戻る、それだけのことですから。
いずれナイジェル卿は数日以内に北方へ戻り、我々にさらなる献策をしてくれるでしょう」
ここで話を切り上げようとした飛鳥に、東部を本拠にしている有力者たちが手を挙げる。
「お待ち下さい、主席。ではナイジェル卿の指示があるまで、白猫党に対して何ら手を打たないと言うのですか?」
「うかつに動き、情況が悪化するよりも、有識者より然るべき判断を授けてもらう方が賢明と思われます」
「何を馬鹿な!」
飛鳥の言葉を皮切りに、場は騒然となる。
「今まさに襲われ、征服されていると言うのに、この期に及んで海の向こうの人間を頼りにすると言うのですか!?」
「そんなふざけた判断など、我々は到底納得しませんぞ! 早急に現実的、建設的な対策を実施していただきたいのです!」
「いや、しかし主席の主張ももっともだ。万一、我々が独自に動き、失態を犯した場合、不要な責任を負う危険性もある。それよりもこうした状況・情勢を熟知した人間に判断を仰ぐ方が堅実、かつ確実だろう」
「不要な危険性!? ふざけないでいただきたい! 今まさに危険にさらされている人々が少なからずいると言うのに、保身に走るおつもりですか!?」
「いや、保身と言うのではなく、あくまで全体的、巨視的に、全体の被害を少なくすることを考えれば……」
本拠を襲われ、自身の抱える資産や人民が危うくなっている東部陣が対策を乞うも、直接被害を受けたわけではない西部陣は、彼らとは真逆の、消極的な主張を繰り返している。
特に西部陣の中心であり、連合の主席である飛鳥にとっては、自身のコネクションや利権が東部に存在しないため、積極的に介入する意味が無い。
また、かねてからの「裏取引」問題がまだ片付かないでいる今、他に話題があれば――それが自身にとって大して害の無いものであれば尚更――「できる限りそちらに目を向けていて欲しい」と言う思惑もあり、飛鳥は軍を動員する姿勢をほんの少しも見せなかった。
「ともかく現時点における最善策は、状況の静観でしょう。
敵軍の兵力および技術力は極めて高いものであると報告されています。今ここで、いたずらに我々の軍を投下したとしても、成果が挙げられる可能性は低いものと考えられます。無策同然の命令で兵士を犬死にさせて、それでよしとされる方はまず、いらっしゃらないはずです。
実際に動くべきとされるならば、まず先に情報収集を行い、より詳しい情況を把握することが先決です」
西部陣、そして主席である飛鳥のあまりに非協力的な姿勢に、東部陣は少なからず落胆していた。
そしてそれが、後の破局――央南連合分裂の契機となった。
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腐臭漂う連合。
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非難の風は、西大海洋同盟と央南連合の間にも吹き荒んでいた。
「いつになったら到着するんですか、ナイジェル総長は!?」
「ですから、到着の直前に東部の主要港湾都市が封鎖され、そこからの敵船団に阻まれ……」
「そんなことはもう何度も聞いています! 我々が聞きたいのはいつ到着するか、いつ、この混迷しつつある状況を打破できうる対策を授けていただけるか、です!」
会議の面々から詰問され、連合の主席、橘飛鳥は表情を堅くして黙っている。
「現在、西大海洋上を航行中につき、ナイジェル卿の乗る船は、あらゆる通信手段の範囲外にあります。即ち現在、ナイジェル卿とは連絡が付かず、彼から意見を聞くことも不可能です。
だからと言ってこのまま手をこまねいているわけには行きませんぞ、橘主席!?」
「……では」
自分の名を呼ばれ、そこでようやく飛鳥が口を開く。
「こんな事態も想定し、ナイジェル総長より策を伝えられております」
「ほう……」
「まず、白猫党が武力を伴って央南圏内に出現した場合、高い確率で同盟の要である自分の行動を阻みに来るだろうと、ナイジェル卿は予測しておりました。
そしてその場合、白猫党はどこに拠点を持ち、どこから攻めてくるか? ナイジェル卿はその予想をまとめています」
飛鳥は席を立ち、かばんの中から書類を取り出して、黒板に貼り付けていく。
「こちらがその予想される拠点と、侵攻箇所の一覧です。これによればしばらくは、東部地域を中心に攻めて回るだろうとされております」
「それは何故です?」
「東部は三方を海に囲まれており、敵の海軍勢力にとっては攻めやすいからです。また、連合に強い影響力を与えうる商家や軍閥も少なく、守りも万全とは言えません。
逆に西部となれば西側に屏風山脈があり、そこからの侵攻は困難。また、我が橘家や黄家をはじめとして大きな勢力が多数存在するため、容易に攻めることはできません。
そう考えれば西部より東部、誰もがそう結論づけるでしょう」
「ふむ、確かに」
「少なくとも今年中においては、彼らは東部に留まっているはずです。いくらなんでも今年一杯、ナイジェル卿を海の上に縛り付け続けることは難しい。ナイジェル卿にしてみれば、央南に入れないのであれば戻る、それだけのことですから。
いずれナイジェル卿は数日以内に北方へ戻り、我々にさらなる献策をしてくれるでしょう」
ここで話を切り上げようとした飛鳥に、東部を本拠にしている有力者たちが手を挙げる。
「お待ち下さい、主席。ではナイジェル卿の指示があるまで、白猫党に対して何ら手を打たないと言うのですか?」
「うかつに動き、情況が悪化するよりも、有識者より然るべき判断を授けてもらう方が賢明と思われます」
「何を馬鹿な!」
飛鳥の言葉を皮切りに、場は騒然となる。
「今まさに襲われ、征服されていると言うのに、この期に及んで海の向こうの人間を頼りにすると言うのですか!?」
「そんなふざけた判断など、我々は到底納得しませんぞ! 早急に現実的、建設的な対策を実施していただきたいのです!」
「いや、しかし主席の主張ももっともだ。万一、我々が独自に動き、失態を犯した場合、不要な責任を負う危険性もある。それよりもこうした状況・情勢を熟知した人間に判断を仰ぐ方が堅実、かつ確実だろう」
「不要な危険性!? ふざけないでいただきたい! 今まさに危険にさらされている人々が少なからずいると言うのに、保身に走るおつもりですか!?」
「いや、保身と言うのではなく、あくまで全体的、巨視的に、全体の被害を少なくすることを考えれば……」
本拠を襲われ、自身の抱える資産や人民が危うくなっている東部陣が対策を乞うも、直接被害を受けたわけではない西部陣は、彼らとは真逆の、消極的な主張を繰り返している。
特に西部陣の中心であり、連合の主席である飛鳥にとっては、自身のコネクションや利権が東部に存在しないため、積極的に介入する意味が無い。
また、かねてからの「裏取引」問題がまだ片付かないでいる今、他に話題があれば――それが自身にとって大して害の無いものであれば尚更――「できる限りそちらに目を向けていて欲しい」と言う思惑もあり、飛鳥は軍を動員する姿勢をほんの少しも見せなかった。
「ともかく現時点における最善策は、状況の静観でしょう。
敵軍の兵力および技術力は極めて高いものであると報告されています。今ここで、いたずらに我々の軍を投下したとしても、成果が挙げられる可能性は低いものと考えられます。無策同然の命令で兵士を犬死にさせて、それでよしとされる方はまず、いらっしゃらないはずです。
実際に動くべきとされるならば、まず先に情報収集を行い、より詳しい情況を把握することが先決です」
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そしてそれが、後の破局――央南連合分裂の契機となった。
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