「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・紅丹抄 7
麒麟を巡る話、第526話。
紅丹党の台頭。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
内部の問題にかまけ、白猫党に対して積極的な姿勢を執らない央南連合に対し、央南東部の者たちは次第に、連合に対して反感を覚え始めていた。
「新聞読んだか?」
「読んだけど、……笑っちゃうよな」
「何がおかしいんだよ」
「読み比べてみたんだけどさ、西部の橘喜新聞と東部の青東新報を。
橘喜の方もさ、確かに白猫党の奴らがどうだこうだって話は書いてるんだけどさ、自分らの社長の話とかは全く触れず。記事自体も地方欄にちょろっとだよ。
だけど青東は一面記事の見出しにこうだよ。『橘主席 “軍は動かさない”明言 問われる央南の安全』だってさ」
「露骨だなぁ、橘喜」
「経済欄も露骨だぜ?
大体さ、今じゃ誰だって玄銭暴落の原因は『白猫党が東部を侵略してるせい』だって知ってんのに、橘喜と来たら暴落の原因は『西方の作物が』とか、『央北の為替が』とか、見当違いの理由ばっか挙げてんだよ。
本当、腐ってやがる。もうこれ、『橘喜』じゃなくて『汚忌』だな」
「ああ、本当に汚い女だよな、橘主席」
「……でさ。あのうわさ、聞いた?」
「どの?」
「その、白猫党に襲われてる東部で、何か別の軍が動いてるって」
「なにそれ」
「こんだけ動かさない動かさないって言ってるから、間違いなく央南連合軍じゃない。州軍ってことも考えられるけど、白猫党の攻撃で壊滅状態だって話もよく聞くし、多分違う。
それ以外の勢力が、白猫党相手に戦ってるらしい。実際、青州の大月とかはそいつらが奪還したって話だぜ」
「へー……」
「何て言ってたかな……。確か青東新報か何かに、取材記事があったと思うんだけど」
「あー、何か読んだ気する。その新聞、まだ持ってたかも。……あ、これこれ。
そうそう、紅丹(くたん)党だってさ。謎の女流剣術家『辰沙先生』ってのを筆頭に、焔流の奴らを中心として結成したんだって」
「胡散臭いなー」
「いやいや、それでも白猫党の奴らに好き勝手されるよりは全然ましだって。同じ央南の人間が奪還してくれてるんだから、俺は支持するな」
「うーん」
央南連合が諸問題で信用を落とし、白猫党が侵攻を続ける、その間隙を縫うようにして、この頃新たな政治結社「紅丹党」のうわさが、東部を中心に広がり始めていた。
特にこれまで連戦連勝、緒戦負け無しと言う無敵ぶりを誇った白猫党が占拠した都市を瞬時に奪還したと言う武勇伝は、紅丹党に強い信頼感を与えていた。
その紅丹党は現在、自らが奪還した都市、大月に本部を構え、さらなる勢力拡大を目指していた。
「状況は依然、あたくしたちにとって有利なままです」
その紅丹党の幹部会議において、辰沙は弁舌を振るっていた。
「白猫軍については、あれ以降進軍した様子は無いとのこと。恐らくこれまでにない展開に幹部陣が面食らい、次の手を打ちあぐねているのでしょう。言い換えればこうした事態に対し、彼らは免疫が無いのです。
相手が茫然自失、ただただ突っ立っているだけと言う今、あたくしたちが何を仕掛けようと、難なく成功する可能性は非常に高いと言えます。……と、これがまず、一つ目。
もう一つ、あたくしたちにとって有利なのは、央南連合の混乱に付け入ることができると言うこと。現体制において既に東部が離反し、残った西部も内部分裂しかかっています。ですが、あたくしと懇意にしているある人物が連合の中枢におり、しかもこの混乱を収められる策を有しております。
そしてあたくしとその人物とで、密約をかわしております。彼が主席になった暁には、紅丹党を此度の戦いの旗頭にすると。
即ちあたくしたちが、央南連合軍を率いる権限を手に入れられるのです」
自信満々に、そして雄弁に展望を語る辰沙に、幹部たちは一様に賛辞を贈る。
「素晴らしい!」
「流石は先生だ!」
「ふふ、それほどでも」
取り巻く歓声に、辰沙はにこにこと笑って応えていた。
三者三様の事情と感情がぶつかり、混ざり合いながら、央南は連合成立以来、最大の転換期を迎えつつあった。
白猫夢・紅丹抄 終
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紅丹党の台頭。
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内部の問題にかまけ、白猫党に対して積極的な姿勢を執らない央南連合に対し、央南東部の者たちは次第に、連合に対して反感を覚え始めていた。
「新聞読んだか?」
「読んだけど、……笑っちゃうよな」
「何がおかしいんだよ」
「読み比べてみたんだけどさ、西部の橘喜新聞と東部の青東新報を。
橘喜の方もさ、確かに白猫党の奴らがどうだこうだって話は書いてるんだけどさ、自分らの社長の話とかは全く触れず。記事自体も地方欄にちょろっとだよ。
だけど青東は一面記事の見出しにこうだよ。『橘主席 “軍は動かさない”明言 問われる央南の安全』だってさ」
「露骨だなぁ、橘喜」
「経済欄も露骨だぜ?
大体さ、今じゃ誰だって玄銭暴落の原因は『白猫党が東部を侵略してるせい』だって知ってんのに、橘喜と来たら暴落の原因は『西方の作物が』とか、『央北の為替が』とか、見当違いの理由ばっか挙げてんだよ。
本当、腐ってやがる。もうこれ、『橘喜』じゃなくて『汚忌』だな」
「ああ、本当に汚い女だよな、橘主席」
「……でさ。あのうわさ、聞いた?」
「どの?」
「その、白猫党に襲われてる東部で、何か別の軍が動いてるって」
「なにそれ」
「こんだけ動かさない動かさないって言ってるから、間違いなく央南連合軍じゃない。州軍ってことも考えられるけど、白猫党の攻撃で壊滅状態だって話もよく聞くし、多分違う。
それ以外の勢力が、白猫党相手に戦ってるらしい。実際、青州の大月とかはそいつらが奪還したって話だぜ」
「へー……」
「何て言ってたかな……。確か青東新報か何かに、取材記事があったと思うんだけど」
「あー、何か読んだ気する。その新聞、まだ持ってたかも。……あ、これこれ。
そうそう、紅丹(くたん)党だってさ。謎の女流剣術家『辰沙先生』ってのを筆頭に、焔流の奴らを中心として結成したんだって」
「胡散臭いなー」
「いやいや、それでも白猫党の奴らに好き勝手されるよりは全然ましだって。同じ央南の人間が奪還してくれてるんだから、俺は支持するな」
「うーん」
央南連合が諸問題で信用を落とし、白猫党が侵攻を続ける、その間隙を縫うようにして、この頃新たな政治結社「紅丹党」のうわさが、東部を中心に広がり始めていた。
特にこれまで連戦連勝、緒戦負け無しと言う無敵ぶりを誇った白猫党が占拠した都市を瞬時に奪還したと言う武勇伝は、紅丹党に強い信頼感を与えていた。
その紅丹党は現在、自らが奪還した都市、大月に本部を構え、さらなる勢力拡大を目指していた。
「状況は依然、あたくしたちにとって有利なままです」
その紅丹党の幹部会議において、辰沙は弁舌を振るっていた。
「白猫軍については、あれ以降進軍した様子は無いとのこと。恐らくこれまでにない展開に幹部陣が面食らい、次の手を打ちあぐねているのでしょう。言い換えればこうした事態に対し、彼らは免疫が無いのです。
相手が茫然自失、ただただ突っ立っているだけと言う今、あたくしたちが何を仕掛けようと、難なく成功する可能性は非常に高いと言えます。……と、これがまず、一つ目。
もう一つ、あたくしたちにとって有利なのは、央南連合の混乱に付け入ることができると言うこと。現体制において既に東部が離反し、残った西部も内部分裂しかかっています。ですが、あたくしと懇意にしているある人物が連合の中枢におり、しかもこの混乱を収められる策を有しております。
そしてあたくしとその人物とで、密約をかわしております。彼が主席になった暁には、紅丹党を此度の戦いの旗頭にすると。
即ちあたくしたちが、央南連合軍を率いる権限を手に入れられるのです」
自信満々に、そして雄弁に展望を語る辰沙に、幹部たちは一様に賛辞を贈る。
「素晴らしい!」
「流石は先生だ!」
「ふふ、それほどでも」
取り巻く歓声に、辰沙はにこにこと笑って応えていた。
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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Comment ~
NoTitle
自分もそういうの、作ってみたいですね。そういうの好きですw
シチュエーションとしては、例えばどこかの街や小国が白猫党の襲撃を受ける、と言う感じで。
ルールとしてはポールさんのアイデアも採用して、
1.防衛側(街や国)は3ターンまでの行動を攻撃側(白猫党)に伝え、その通りに動かなければならない。その代わり防衛側には「地の利」として、その3ターン中は2倍の行動力(移動速度)などが与えられる。
2.防衛側の布陣は攻撃側にすべて晒される反面、攻撃側の布陣は各ユニットが行動するまで防衛側には知らされない。
3.攻撃側にはチェスの「クイーン」的な、最強のユニットが1単位存在する。しかし1回行動させる度に3ターン分のコストが必要。何故ならすぐ寝るからw(つまり、葵です)
これが実現できれば、「白猫夢」としてはかなりリアルなものになりそうです。
シチュエーションとしては、例えばどこかの街や小国が白猫党の襲撃を受ける、と言う感じで。
ルールとしてはポールさんのアイデアも採用して、
1.防衛側(街や国)は3ターンまでの行動を攻撃側(白猫党)に伝え、その通りに動かなければならない。その代わり防衛側には「地の利」として、その3ターン中は2倍の行動力(移動速度)などが与えられる。
2.防衛側の布陣は攻撃側にすべて晒される反面、攻撃側の布陣は各ユニットが行動するまで防衛側には知らされない。
3.攻撃側にはチェスの「クイーン」的な、最強のユニットが1単位存在する。しかし1回行動させる度に3ターン分のコストが必要。何故ならすぐ寝るからw(つまり、葵です)
これが実現できれば、「白猫夢」としてはかなりリアルなものになりそうです。
NoTitle
ひとくぎりついたらシミュレーションゲーム作りたくなってきました。基本システムは簡単なのをどこかから見つくろってきて、地図を書いてコマ並べて、双月世界の白猫党戦役を追体験するやつ。白猫党の優位を再現するため、全プレイヤーは、移動についてあらかじめ三手番先までメモをして白猫党プレイヤーに見せなければならない、というシステムを使う。
白黒コピーで作って大阪のコミティアで矢端想さんにお願いして売ってもらうとか野望が野望が。
野望だけはふくらませていつもポシャる男(^^;)
白黒コピーで作って大阪のコミティアで矢端想さんにお願いして売ってもらうとか野望が野望が。
野望だけはふくらませていつもポシャる男(^^;)
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NoTitle
基本的に白猫党1人に対して地方勢力3人でやるというシチュエーションで、白猫党は誰も勝たなければ勝ち、他の3人は白猫党を打倒したときに、「他の2人の地方勢力よりも勝利ポイントが多かったら勝利」。で、「白猫党を攻撃して土地を奪還しても勝利ポイントは得られず、ポイントを得るには他の地方勢力プレイヤーの領土を奪うことにより得点するしかない」というルールにして、策謀裏切りなんでもありのみんなのギスギス感を楽しもう、という(笑)
部隊の戦闘システムは個人個人にこだわりすぎていると果てがなくなるので、思いきって「特殊な個人はスタック制限に関係なく補給なしで使える戦力ユニット」ということにして……。
いかん本当に作りたくなってきた(笑) 地図があったらヘクスシートを重ねかねん(^^;)