「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・背談抄 1
麒麟を巡る話、第527話。
占領地懐柔。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
緒戦で紅丹党に出鼻をくじかれたものの、白猫党は東部主要都市を占領後、予定されていた通りに、次の行動を開始した。
「つ、つまり?」
《申し上げた通りです》
青州の州都、青江。
その街の主、ひいては青州の統治者である長浜氏は、連合の会議から本拠地に戻るなり、白猫党から通信機を渡され、話をしていた。
会話の相手は勿論、白猫党の党首シエナである。
《繰り返しになりますが、我々は何が何でも『我々の手で青州を統治したい』、などとは考えておりません。有識、かつ良識を持つ方が元々の領主であるならば、その方にこれまで通りに統治をお任せして然るべき、と考えております。
そして我々が行った調査により、ナガハマ大人はその評価に値する方であるとの確証を得ております。であれば、これまで通りに統治権をお任せしたいと考えております》
「そう、です、か」
長浜は複雑な表情を浮かべつつ、シエナの言葉に聞き入っている。
「しかし……、無論、何かしらの交換条件と言うか、見返りは要求されるのでしょう?」
《ええ、ソレは無論》
「……やはり」
長浜は周りに並ぶ白猫党員を見渡し、ため息をつく。
「はあ……」
《如何されましたか?》
「ため息も出ると言うものです。
そもそもこうして街を襲い、占拠すると言う時点でまともな事態ではないと言うのに、その張本人であるあなた方から、取引めいた話を持ち掛けてくるとは。
盗人猛々しいと言う他ありません」
《ソレについては申し訳がない、……としか。とは言え、ソコまで非道を働いたつもりはありません。
事実、我々は無抵抗の者を嬲ったり、抵抗した兵士を殺害したりと言うコトは一切しておりません。主要施設と街道の封鎖も行っていますが、大人ご自身が戻れる程度には、警戒を緩めておりますし。
実際、今現在は何の苦労や代償もなく、お屋敷に戻られているでしょう?》
「それは……、まあ」
《ともかく交換条件については、次の通りです。
まず第一、必須として、我々に恭順していただくこと。即ち、央南連合を脱退していただくことです》
「何ですって?」
《コレが成されなければ、統治権を認めるわけには参りません。
ですが冷静に考えれば、コレは至極当たり前の話。町長が二人いては、街が治まるわけが無い。それと同じ話ですから。納得していただけますか?》
「理解はできます。ですが納得はしかねます」
長浜は依然として、表情を崩さない。
「確かに長が二人では、どんな組織もまとまりはしないでしょう。
仮に私があなた方と連合、両方に与せば、この青江と言う大都市ですら半年と経たず混乱をきたし、破綻してしまうのは目に見えたことです。その理屈は理解できます。
ですが一方、あなた方に与せず、これまで通り連合に属しても、理屈は通る。違いますか?」
《そうですね、理屈は。しかし安全性、そして誇りと正当性はどうでしょうか?》
「どう言う意味です?」
《我々が言うまでも無いコトですが、今回こうして、対外的な勢力によって襲撃を受けたにもかかわらず、あなた方はほとんど抵抗もできず、そして今でさえも、央南連合軍による奪還の動きは無い。この認識に誤りがありますか?》
「無いです」
《おかしい話ではないのですか?》
「あなた方からそんな話をされることがですか?」
《確かにまあ、ソコもおかしいと言えばおかしいですが、ソレは置いておいて下さい。問題はソコではありません。
そう、最も問題なのはこうして襲われているにもかかわらず、『取り返す』と言う話が現実化しないコトです。橘喜新聞社を除く多くの報道機関が報せているように、連合は極端に消極的であり、奪還に動く気配は微塵も無い。
ソレとも実は報道管制を敷いていて、連合は奪還の計画を練っている、とでも?》
「それは、……いや、そんな話をあなた方にすることはできません」
《隠さなくても結構です。実を言えば我々は連合に関する会議・会話をある程度、把握しております》
「え……!?」
《ですので先日の会議における央南東部陣からの要請、即ち奪還のために挙兵を要請したにもかかわらず、ああだこうだとタチバナ主席に言い訳をされ、結局は却下された。
その辺りの事情は十分に存じております》
「……」
一転、長浜の顔は蒼白になる。それを見透かしているかのように、シエナが畳み掛けてきた。
《そもそも、タチバナ氏が主席の座にいるコト。ソレ自体、ナガハマ大人は良しとはされていらっしゃらないのでは?》
「う……っ」
@au_ringさんをフォロー
占領地懐柔。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
緒戦で紅丹党に出鼻をくじかれたものの、白猫党は東部主要都市を占領後、予定されていた通りに、次の行動を開始した。
「つ、つまり?」
《申し上げた通りです》
青州の州都、青江。
その街の主、ひいては青州の統治者である長浜氏は、連合の会議から本拠地に戻るなり、白猫党から通信機を渡され、話をしていた。
会話の相手は勿論、白猫党の党首シエナである。
《繰り返しになりますが、我々は何が何でも『我々の手で青州を統治したい』、などとは考えておりません。有識、かつ良識を持つ方が元々の領主であるならば、その方にこれまで通りに統治をお任せして然るべき、と考えております。
そして我々が行った調査により、ナガハマ大人はその評価に値する方であるとの確証を得ております。であれば、これまで通りに統治権をお任せしたいと考えております》
「そう、です、か」
長浜は複雑な表情を浮かべつつ、シエナの言葉に聞き入っている。
「しかし……、無論、何かしらの交換条件と言うか、見返りは要求されるのでしょう?」
《ええ、ソレは無論》
「……やはり」
長浜は周りに並ぶ白猫党員を見渡し、ため息をつく。
「はあ……」
《如何されましたか?》
「ため息も出ると言うものです。
そもそもこうして街を襲い、占拠すると言う時点でまともな事態ではないと言うのに、その張本人であるあなた方から、取引めいた話を持ち掛けてくるとは。
盗人猛々しいと言う他ありません」
《ソレについては申し訳がない、……としか。とは言え、ソコまで非道を働いたつもりはありません。
事実、我々は無抵抗の者を嬲ったり、抵抗した兵士を殺害したりと言うコトは一切しておりません。主要施設と街道の封鎖も行っていますが、大人ご自身が戻れる程度には、警戒を緩めておりますし。
実際、今現在は何の苦労や代償もなく、お屋敷に戻られているでしょう?》
「それは……、まあ」
《ともかく交換条件については、次の通りです。
まず第一、必須として、我々に恭順していただくこと。即ち、央南連合を脱退していただくことです》
「何ですって?」
《コレが成されなければ、統治権を認めるわけには参りません。
ですが冷静に考えれば、コレは至極当たり前の話。町長が二人いては、街が治まるわけが無い。それと同じ話ですから。納得していただけますか?》
「理解はできます。ですが納得はしかねます」
長浜は依然として、表情を崩さない。
「確かに長が二人では、どんな組織もまとまりはしないでしょう。
仮に私があなた方と連合、両方に与せば、この青江と言う大都市ですら半年と経たず混乱をきたし、破綻してしまうのは目に見えたことです。その理屈は理解できます。
ですが一方、あなた方に与せず、これまで通り連合に属しても、理屈は通る。違いますか?」
《そうですね、理屈は。しかし安全性、そして誇りと正当性はどうでしょうか?》
「どう言う意味です?」
《我々が言うまでも無いコトですが、今回こうして、対外的な勢力によって襲撃を受けたにもかかわらず、あなた方はほとんど抵抗もできず、そして今でさえも、央南連合軍による奪還の動きは無い。この認識に誤りがありますか?》
「無いです」
《おかしい話ではないのですか?》
「あなた方からそんな話をされることがですか?」
《確かにまあ、ソコもおかしいと言えばおかしいですが、ソレは置いておいて下さい。問題はソコではありません。
そう、最も問題なのはこうして襲われているにもかかわらず、『取り返す』と言う話が現実化しないコトです。橘喜新聞社を除く多くの報道機関が報せているように、連合は極端に消極的であり、奪還に動く気配は微塵も無い。
ソレとも実は報道管制を敷いていて、連合は奪還の計画を練っている、とでも?》
「それは、……いや、そんな話をあなた方にすることはできません」
《隠さなくても結構です。実を言えば我々は連合に関する会議・会話をある程度、把握しております》
「え……!?」
《ですので先日の会議における央南東部陣からの要請、即ち奪還のために挙兵を要請したにもかかわらず、ああだこうだとタチバナ主席に言い訳をされ、結局は却下された。
その辺りの事情は十分に存じております》
「……」
一転、長浜の顔は蒼白になる。それを見透かしているかのように、シエナが畳み掛けてきた。
《そもそも、タチバナ氏が主席の座にいるコト。ソレ自体、ナガハマ大人は良しとはされていらっしゃらないのでは?》
「う……っ」
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~