「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・背談抄 2
麒麟を巡る話、第528話。
ねじ曲げられる規範。
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2.
シエナの看破に対し、妙な声を漏らした長浜は口を抑える。
しかしそんな動揺も、シエナは通信機越しに見透かしたらしい。
《思っていない、……と言うコトは無いはずです。
現状の連合はソレこそ、先程の『町長二人』の例えに近い状況でしょう? 組織のただ一人の長であるはずの主席の隣に、別の長がいるような状態。統治と言う面から考えれば、コレは異常な事態にあるのではないでしょうか。
もっとはっきり言えば、主席は共に連合を担うべきあなた方を、まるで信用も信頼もしていない。単なる金ヅル、手駒、緩衝材と言う程度にしか考えていないはずです。そして今後もその扱いは変わらない。
そしてもっと、もっと、はっきり言えば。タチバナがいる限りあなたは、いいえ、連合に属する誰もが未来永劫、主席にはなれない》
「なん……っ」
声を荒らげかけるが、長浜は再度口を抑え、黙り込む。
《絶対になれるとは考えていないまでも、もしかしたら、とは思っていらっしゃったはず。しかしその仄かな目論見、可愛げある野心も、決して実りはしないのです。
何故ならタチバナは、今後何年、何十年も、自分が主席であり続けようと画策しているからです》
「まっ、……まさか」
長浜の額から、ぽた、と汗が垂れる。
《コレは適当に言っているワケでも、タチバナを無理に貶めようとしているワケでもありません。確証があって申しているコトです。
大人、あなたも薄々とは感じていらっしゃったのでは?》
「仮にそうだと、……いえ」
何度も心中を看破されたためか、長浜は一旦言葉を濁しかけたが、やがて率直にうなずいた。
「そうですね、もしかしたらそうではないか、……と言う思いは、ええ、あります」
《素直になっていただけて、ほっとしています。であれば、根拠は申し上げるまでも無いようですね》
「いえ、聞いておきたいところです。私個人としての予感はあっても、客観的で納得の行く根拠は持っていませんから」
《では、申し上げましょう。
現在、タチバナは既に主席を3期努めています。連合法やこれまでの慣習では、4選以降は禁止であり、3選以降は名誉職に退き、自分が元いた席には後任を立てる、とされています。
ところが3選目にあり、そろそろ後任を立てねばと言う時期にあるはずのタチバナは、それらしい措置を何ら執っていません。主席の座に就くほど優秀な方が、何故何の用意もされていないのでしょうか》
「それだけでは、ただの推測では……」
《勿論、他にも根拠はあります。
いわゆる同盟との『裏取引』問題の裏、彼女はその取引に関わった者たちをすべて調査・記録しています。その反面、彼女自身は取引に手を付けていない。何故だか分かりますか?》
「潔癖だから、……では無いですよね」
《自分の有する新聞社で世論操作を試みるような人間が潔癖だとは、私には思えませんね。ですが近いと言えます。潔癖なのではなく、潔癖に見せたいのです。
つまり主席は、自分は責められず、かつ、他人を責められる立場に回りたいのです。言い換えれば……》
「……恐喝、ですか」
《そうでしょうね。機あれば『裏取引』を材料にゆすりを働き、己の要求を通すつもりなのでしょう。
そう、その要求とは即ち、法改正。連合の規則を己の都合良いように捻じ曲げる際、彼らをそれに賛成させようと言う算段を整えているのでしょう。それが4選禁止の解除であろうと、終身制の採択であろうと》
「しかし連合法は現在、幹部陣の過半数の賛成を得られなければ改正することはできません。私もすべてを知っているわけではありませんが、『裏取引』に関わっていた幹部はせいぜい、3分の1程度であると……」
《ええ、最高幹部における30議席のうち12名、過半数には至りません。それだけでは改正など不可能。
そこで同盟の力、です》
「同盟総長である夫の政治権力を後ろ盾に、……力ずくで、ですか」
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ねじ曲げられる規範。
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2.
シエナの看破に対し、妙な声を漏らした長浜は口を抑える。
しかしそんな動揺も、シエナは通信機越しに見透かしたらしい。
《思っていない、……と言うコトは無いはずです。
現状の連合はソレこそ、先程の『町長二人』の例えに近い状況でしょう? 組織のただ一人の長であるはずの主席の隣に、別の長がいるような状態。統治と言う面から考えれば、コレは異常な事態にあるのではないでしょうか。
もっとはっきり言えば、主席は共に連合を担うべきあなた方を、まるで信用も信頼もしていない。単なる金ヅル、手駒、緩衝材と言う程度にしか考えていないはずです。そして今後もその扱いは変わらない。
そしてもっと、もっと、はっきり言えば。タチバナがいる限りあなたは、いいえ、連合に属する誰もが未来永劫、主席にはなれない》
「なん……っ」
声を荒らげかけるが、長浜は再度口を抑え、黙り込む。
《絶対になれるとは考えていないまでも、もしかしたら、とは思っていらっしゃったはず。しかしその仄かな目論見、可愛げある野心も、決して実りはしないのです。
何故ならタチバナは、今後何年、何十年も、自分が主席であり続けようと画策しているからです》
「まっ、……まさか」
長浜の額から、ぽた、と汗が垂れる。
《コレは適当に言っているワケでも、タチバナを無理に貶めようとしているワケでもありません。確証があって申しているコトです。
大人、あなたも薄々とは感じていらっしゃったのでは?》
「仮にそうだと、……いえ」
何度も心中を看破されたためか、長浜は一旦言葉を濁しかけたが、やがて率直にうなずいた。
「そうですね、もしかしたらそうではないか、……と言う思いは、ええ、あります」
《素直になっていただけて、ほっとしています。であれば、根拠は申し上げるまでも無いようですね》
「いえ、聞いておきたいところです。私個人としての予感はあっても、客観的で納得の行く根拠は持っていませんから」
《では、申し上げましょう。
現在、タチバナは既に主席を3期努めています。連合法やこれまでの慣習では、4選以降は禁止であり、3選以降は名誉職に退き、自分が元いた席には後任を立てる、とされています。
ところが3選目にあり、そろそろ後任を立てねばと言う時期にあるはずのタチバナは、それらしい措置を何ら執っていません。主席の座に就くほど優秀な方が、何故何の用意もされていないのでしょうか》
「それだけでは、ただの推測では……」
《勿論、他にも根拠はあります。
いわゆる同盟との『裏取引』問題の裏、彼女はその取引に関わった者たちをすべて調査・記録しています。その反面、彼女自身は取引に手を付けていない。何故だか分かりますか?》
「潔癖だから、……では無いですよね」
《自分の有する新聞社で世論操作を試みるような人間が潔癖だとは、私には思えませんね。ですが近いと言えます。潔癖なのではなく、潔癖に見せたいのです。
つまり主席は、自分は責められず、かつ、他人を責められる立場に回りたいのです。言い換えれば……》
「……恐喝、ですか」
《そうでしょうね。機あれば『裏取引』を材料にゆすりを働き、己の要求を通すつもりなのでしょう。
そう、その要求とは即ち、法改正。連合の規則を己の都合良いように捻じ曲げる際、彼らをそれに賛成させようと言う算段を整えているのでしょう。それが4選禁止の解除であろうと、終身制の採択であろうと》
「しかし連合法は現在、幹部陣の過半数の賛成を得られなければ改正することはできません。私もすべてを知っているわけではありませんが、『裏取引』に関わっていた幹部はせいぜい、3分の1程度であると……」
《ええ、最高幹部における30議席のうち12名、過半数には至りません。それだけでは改正など不可能。
そこで同盟の力、です》
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