黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・背談抄 4

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    麒麟を巡る話、第530話。
    央南を巻き込む夫婦喧嘩。

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    4.
    《いい加減にしてよッ!》
     電話口からキンキンと聞こえてくる怒鳴り声に顔をしかめつつ、春司は弁解しようとする。
    「確かに君の怒りは分かる。僕だって現在の状況を鑑みるに、憤懣やるかたないと言うしか……」《ゴチャゴチャうるさいッ! 要は来るのか来ないのかって言ってんのよ!》
     しかし飛鳥は相当頭にきているらしく、春司の言葉を遮ってくる。
    「行くよ、行くつもりだって。でも前回はさ、白猫党に邪魔されちゃったし。だから今度は王国から兵士を連れて、強行突破するつもりさ」
    《ソレ、いつの話になんのよ?》
    「そんなに待たせないさ。今ちょっと、王国との交渉が長引いてるけど、一両日中、遅くてももう一日プラスくらいでまとめる。
     まとまり次第すぐ、出発するよ。大丈夫、白猫党だろうが何だろうが、王国の装備なら蹴散らせてしまえる」
    《いつ着くの?》
    「首尾よく行けば軍用の高速艇も借りられるだろう。そうなれば1週間もかからない。全部合わせて10日ってところだろう」
    《アンタって毎度毎度そうよね》
     と、飛鳥の刺々しい声が返って来る。
    《楽観的推測をさも当然起こるように言うわよね? 上手くいかないコトだってあるでしょ?
     もし王国との交渉がまとまんなかったら? もし高速艇が借りられなかったら? もし、白猫党に王国軍も負けたら? アンタ、来られるの?》
    「心配性だな。僕が交渉事で失敗するようなことは、今まで無かった。そうだろ?」
    《よしんば交渉がまとまるとしても、ソレがアンタの狙い通り、2日や3日でまとまる保証は無いわ。ソレとも確証があるの?》
    「あるとも。僕は王国、それも議会をはじめとする政界に対し、豊富なコネクションを有している。それを利用すれば、どんな願いだって――まあ、流石に『僕を王にしろ』と言うのは無理だけど、それ以外なら――叶う。
     王国は実質、僕が牛耳っているようなものさ」
    《大した自信家ね。じゃあもう一つの、王国軍が白猫党に勝つ保証は?》
    「確かに白猫党のここ数年の勢いは、圧倒的な軍事力に寄るところが大きい。名だたる先進国が敗北していることを考えても、相当な実力を持っていることは否めない。
     だけど王国だって、軍事技術に関しては最先端を行く。白猫党に一方的にやられるようなことは、まず無いさ。どれほど最悪でも、上陸できないなんてことは絶対ありえない」
    《……》
     飛鳥からの応答が切れる。
    「まだ不安?」
    《不安よ》
     返って来た声には、未だ苛立ちの色が抜けていない。
    《白猫党に対しての具体的対策が、まるで見えてこないじゃん。『王国は強いんだから誰にも負けたりしない』って、そんなの雪国でぬくぬく過ごしてるアンタの、一方的な理想や希望でしょ?
     教えなさいよ。アンタはどうやって、白猫党の海上封鎖を破るつもりなのよ?》
    「それこそ、それは交渉が実ってからの話だよ。今あれこれ考えても、現実に則したものになるかどうかはまだ分からないからね。
     その話は最低限、交渉が実り、南下するための陣容が定まってからじゃなきゃ」
    《……》
     再び、飛鳥の応答が途絶える。
    「それより、君に頼んでた件はどうなったのかな」
    《……》
    「ほら、『桜切り』の話。僕が到着してすぐ、取り掛かりたいくらいなんだけど。行けそう?」
    《……ざけんな》
    「え?」
     次の瞬間、飛鳥の怒鳴り声が電話機の容量を超え、ビリビリと音割れして轟いてきた。
    《ふざけんなって言ってんのよおおおおーッ!》
    「……っ、な、なんだよっ、急に」
    《いっこも現実的なコトを言いもしないで、あたしにアレやれコレしろって偉そうに命令して、何様のつもりよッ!?
     アンタ、マジで王様にでもなったつもりなの!? あたしを何だと思ってんのよ!?》
     薄々、飛鳥自身も春司が自分を見下していたことを感じていたのだろう――その叫びに近い怒鳴り声には、夫に対する嫌悪感がにじんでいた。
    《あたしはアンタの何!? 奴隷とでも思ってんの!? アンタから全然、あたしと対等だって考えが伝わんない! 命令、命令、命令! 全部命令ばっかり!
     もういい! アンタと話なんかしてらんない! 勝手にやらせてもらうわッ!》
    「飛鳥? ちょっと、飛鳥!? ねえ、ねえって!」



    「……くっ」
     この会話を傍受していたシエナは、口に手を当てつつ、肩をプルプルと震わせる。しかしやがて我慢しきれなくなったらしく、大笑いし始めた。
    「あっは、……はは、あははははっ、ば、バカ、……っひ、ひはは、バカじゃない、コイツ、くっく、く、ふっ、あはははははっ」
    「何と言うか……、まあ、総裁御自らの重要な仕事とは言え……」
    「あはは……、ええ、言いたいコトは分かるわよ。確かに趣味が悪いわね、こんなコトで笑っちゃうって言うのも。
     でも、本当、バカ過ぎて、……ぷぷっ」
     シエナとともに会話を聞いていたトレッドは、肩をすくめる。
    「その点については、一部同意せざるを得ませんな。
     ナイジェル卿の隙と言うか急所と言うか、弱点が今の会話に凝縮されていたこと。確かに失笑を禁じえません」
    「でしょう? ……さてと、ココからが裏工作の動かしどころよ。
     気を取り直して、仕掛けてもらうとしましょうか」
     シエナは爆笑でにじみ出た涙を拭きながら、電話の受話器を手に取った。
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