黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・背談抄 5

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    麒麟を巡る話、第531話。
    春司、孤立。

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    5.
     春司が「自分の思い通りに事が運ぶ」と高をくくっていた王国首脳陣との交渉は、結果的に言えば失敗に終わった。
     彼が動き出す前に、白猫党がそれら首脳陣に対して、工作を仕掛けていたからである。

    「君の要請は却下だ」
    「いやいや、そんなことを仰らずに」
     国王ですら言うことを聞かせられると侮っている春司は、笑みを浮かべて主張する。
    「これは王国にとって利、意味のある行為です。
     同盟の片翼である央南連合を助け、恩を売っておくことで、同盟における王国の、今後の立場を向上させることにつながります。今は内輪もめし、分裂・破断の危機にあるとは言え、それは白猫党からの干渉によるもの。
     我々が白猫党を駆逐し、央南を元の状況に戻せば、分裂している意義を失い、元の結束を取り戻すことは明白。その時には我々は、混乱の渦中にあった央南を再統一させた立役者として高く評価され、混乱以前よりもっと良いパートナーとして……」「だから参戦せよと言うのか?」
     べらべらとまくしたてる春司をさえぎり、王国のカートマン首相は首を大きく横に振る。
    「なるほど、確かに今は央南連合は同盟の片翼、同盟の大部分を占める要所だ。だが君の言う通り、今は混乱に飲み込まれ、崩れ去ろうとしているのが目に見えている」
    「そうでしょう? そこを救って……」
    「だが結局は対岸の火事、そして彼らの自業自得であることも事実だ。いくら同盟と言うものがあるとは言え、これは過度の内政干渉、国際面から見ても不必要な横槍でしか無い。
     これは私一人の意見では無い。内閣閣僚の総意であり、そして陛下のお気持ちでもあるのだ。無闇に救え救えと主張しているのは結局、君一人なのだ」
    「いやいや、私だけでは……」
     否定しようとした春司に、首相は一通の手紙を差し出す。
    「陛下からのお達しだ。『今後一切、シュンジ・ナイジェル卿の意見を排すべし』と言う内容のものだ」
    「……は?」
     そんなことを言われるどは思ってもいなかったのだろう――春司は何を言っているのか分からないと言いたげな、ぽかんとした顔になった。
    「我々はある筋よりナイジェル卿、君が央南侵攻を目論んでいることを伺っている。
     君のこれまでの、同盟と央南連合に関する発言および行動を鑑みるに、その意思があることはあまりにも明白、疑いようが無いのだ。
     我々は央南を自分たちの支配下に置こう、などと言う荒唐無稽なことは考えもしていない。そんなことをする意義も無い」
    「意義はありま、……い、いや」
     これまでのように、春司はとっさに首相の意見を否定しようとする。だがそれは自分の野心を肯定することにつながる。
     慌てて口をつぐんだが、時既に遅かった。
    「馬脚を現したな、ナイジェル卿」
    「……っ」
    「君のとんでもない目論見は既に明らかとなったし、君と話をする理由は無くなったが、あえて、我々の主張を続けようか。
     確かに政治・経済面において、我々は今現在、大きな危機を迎えている。すべては同盟内で行われた『裏取引』のためだ。この一件において潔白を証明できないがために、我々は諸外国との取引をことごとく停止させられ、残るは央南連合とのパイプだけと言う、極めて危うい状況にある。
     そう、その点が大いに問題なのだ。我々の顔に泥を塗った同盟に参加し続ける意味など、最早無い。潔く脱退すると共に『裏取引』に関わった者を一掃し、我々の潔白を広く知らしめることが最善であると考えている。
     ところが唯一、君だけが強固に同盟存続、連合への介入を主張し続けていた。その主張を、君はあれやこれやと理屈を並べ立て、まるで最善の策、それどころか公然の事実であるかのようにつくろってはいたが、君のの立場に焦点を当てて考え直せば、これは結局、君の私利私欲から来ている話であることは、やはり疑いようが無いのだ」
    「……」
     春司の額に、汗が浮き出ている。
     それまでとは打って変わって一言も発さなくなった春司の背後に、官吏が2名、そっと佇む。
     それを受けて、カートマン首相は春司に言い放った。
    「シュンジ・ナイジェル卿。たった今を以って貴君は、外務大臣の任を解く。その他、王室政府において就いていた要職に関しても、すべて更迭・罷免する。
     貴様のような卑劣漢に、これ以上寄生はさせん」
     春司は官吏に両脇を固められ、そのまま部屋の外へと引きずられた。



     その後のジーン王国の行動は、非常に素早かった。
     春司が更迭されるや否や、「裏取引」に関わっていた国内の人間をすべて検挙し、軒並み厳罰を加えると共に、西大海洋同盟からの脱退を発表。
     これにより、国際的な評価は若干ながらも回復。停止していた貿易網の3割が復活し、王国はどうにか窮地からの脱出の、足がかりを得ることとなった。

     一方、春司は王国とのパイプを全て断たれ、残った地位は西大海洋同盟の総長だけとなった。しかし既に主要国がことごとく脱退しており、残る加盟者は、転落の渦中にある央南連合のみである。
     最早「裸の王様」でしか無くなった春司は――大臣更迭から間もなく、失踪した。
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