「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・背談抄 6
麒麟を巡る話、第532話。
極秘電話会談。
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6.
春司自身にとっては青天の霹靂としか思えなかったであろうこの更迭劇も、実は数週間前――白猫党が央南東部へ侵攻する前から、入念に工作された結果であった。
「裏取引」問題が表面化し、ジーン王国が糾弾された直後、シエナをはじめとする白猫党の幹部陣は密かに、王国と連絡を取っていたのだ。
《今度は我々を侵攻の標的にする、……と言うことでしょうか?》
重い口調でそう尋ねたカートマン首相に、シエナも堅めの口調で返す。
「今後の、あなた方の対応次第です」
《対応、……交換条件と言うことでしょうか》
「そう言う見方もできます。しかし丸っきり、取引と言う話でもありません。具体的に、我々に対して何かをしろと言う話ではないですし」
《どう言う意味です?》
首相の声が、けげんなものになる。
「一つ一つ要素を確かめていけば、結局は単純な話です。
まず第一、我々が現在標的にしているのは、中枢の不正が明るみになり、人民の信頼を急速に失いつつある央南連合です。
反面、あなた方の中にもその不正に加担した者はいますが、ソレはごく少数であり、決して王国の屋台骨から腐っている、と言うような事態には至っていない、……と言うコトも把握しております。
つまり『腐敗・堕落した支配層を打倒する』コトを党是・目標とする我々があなた方を標的にする可能性は、現時点においては極めて少ないのです」
《……ふむ》
「第二に、今は混乱の渦中にあるとは言え、このまま央南連合を相手にすれば、かなりの抵抗を受けるおそれがあります。
西大海洋同盟と言う協力関係、縛りがある以上、連合が攻撃を受ければ、王国は手を貸さざるを得ないでしょう?」
《ええ、そうなります》
「はっきり申し上げれば、ソレはあなた方にとって無駄な出費以外の何物でもないのでは?」
《本当にはっきり申しますな。……これは私見ですが》
「ええ、存じております」
《確かに貴君が仰るように、連合の紛糾は対岸の火事もいいところ。そこへわざわざ兵を派遣することは、我々にとっては取引相手の維持以外に、大した意味は無いでしょうな》
「その取引も、ケチが付いているはずです。正直、今後の関係も見直さねばならないとお考えでは?」
《確かに。今後また、彼らとの関係において後ろめたい状況が発生することも、十分に考えられますからな》
「我々にとっては敵の強大化につながり、あなた方にとっては遠慮したい出動。となれば双方の思惑が一致するコトになります」
《なるほど。つまりあなた方が央南への侵攻を開始する際、我々に動かないでほしい、と》
「そう言うコトです」
《確かに『何かをしろ』と言う話ではないですな。しかし……》
シエナの申し出に対し、首相は渋る様子を見せる。
《現在、我が国の重鎮であるナイジェル卿が、それを容認するかどうか。
彼は同盟の総長であり、央南の血を引いている。連合が危機に見舞われたとなれば、強固に援護を主張するでしょう》
「ソレについて、第三の要素ですが。
コレは私たちとあなただけの秘密にしていただきたいのですが――我々は現在、ナイジェル卿と、その妻であり連合主席であるタチバナ氏とのホットラインを、秘密裏に傍受しています」
《なんと》
「そしてその内容から、彼がかなり危険な思想を抱いているコトを突き止めています。
ナイジェル卿はタチバナ主席と共謀し、央南を王国の支配下に、……いいえ、『自分の』支配下に置こうと画策しているのです」
《馬鹿な!》
「証拠があります。先程お伝えした会話の傍受内容を録音しており、その中で何度も言及されています。
また、『桜の伐採』と称して、焔紅王国を侵略する計画も、かなり入念に練っています。このまま彼の言うコトに従えば、いずれ『裏取引』以上の暴挙に出るであろうコトは、目に見えています」
《むう……》
「そうでなくとも、彼はタチバナ主席との会話において『自分の思い通りにならないことなど何一つ無い』『王でさえもひざまずかせられる』と放言しています。
まあ、ソレだけなら思い上がりと一笑に付すコトもできますが、彼には実際、その力があります。このまま彼を放っておけば、その言葉通りの事態を招きかねないと思うのですが」
《確かに……、否定はできかねますな》
「そこで、協力です」
シエナはにやりと笑みを浮かべながら、こんな提案をした。
「彼の権力の根源は、西大海洋同盟にあります。しかし『裏取引』の発覚により、同盟からは加盟国が次々と撤退しています。即ち今、同盟の力は弱まっているのです。
今こそ、ナイジェル卿を排除する絶好の機会です。むしろ今排除しなければ、彼は必ず何らかの形で、勢力を盛り返すでしょう。
彼は紛れも無く智者であり、多少不利な形勢でも覆しうる力を持った巨魁です。となればこの機に乗じ、徹底的に彼から逆転の機会を奪わなければ、彼を止めるコトは不可能でしょう。
幸い、我々には彼を2週間は身動きできなくさせる策があります。その後はあなた方で、彼の動きを止められるように取り計らった下さい」
《……分かりました。ご厚意に感謝いたします》
そしてシエナが予告した通り、春司はこの極秘会談の後、央南上陸を阻まれて西大海洋上で立ち往生。
その間隙を縫うように、王国側も北方における春司の牙城を崩すべく動いた。
白猫党と王国の密かな企みは、春司の落魄と失踪と言う結果を以って、実を結んだ。
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極秘電話会談。
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春司自身にとっては青天の霹靂としか思えなかったであろうこの更迭劇も、実は数週間前――白猫党が央南東部へ侵攻する前から、入念に工作された結果であった。
「裏取引」問題が表面化し、ジーン王国が糾弾された直後、シエナをはじめとする白猫党の幹部陣は密かに、王国と連絡を取っていたのだ。
《今度は我々を侵攻の標的にする、……と言うことでしょうか?》
重い口調でそう尋ねたカートマン首相に、シエナも堅めの口調で返す。
「今後の、あなた方の対応次第です」
《対応、……交換条件と言うことでしょうか》
「そう言う見方もできます。しかし丸っきり、取引と言う話でもありません。具体的に、我々に対して何かをしろと言う話ではないですし」
《どう言う意味です?》
首相の声が、けげんなものになる。
「一つ一つ要素を確かめていけば、結局は単純な話です。
まず第一、我々が現在標的にしているのは、中枢の不正が明るみになり、人民の信頼を急速に失いつつある央南連合です。
反面、あなた方の中にもその不正に加担した者はいますが、ソレはごく少数であり、決して王国の屋台骨から腐っている、と言うような事態には至っていない、……と言うコトも把握しております。
つまり『腐敗・堕落した支配層を打倒する』コトを党是・目標とする我々があなた方を標的にする可能性は、現時点においては極めて少ないのです」
《……ふむ》
「第二に、今は混乱の渦中にあるとは言え、このまま央南連合を相手にすれば、かなりの抵抗を受けるおそれがあります。
西大海洋同盟と言う協力関係、縛りがある以上、連合が攻撃を受ければ、王国は手を貸さざるを得ないでしょう?」
《ええ、そうなります》
「はっきり申し上げれば、ソレはあなた方にとって無駄な出費以外の何物でもないのでは?」
《本当にはっきり申しますな。……これは私見ですが》
「ええ、存じております」
《確かに貴君が仰るように、連合の紛糾は対岸の火事もいいところ。そこへわざわざ兵を派遣することは、我々にとっては取引相手の維持以外に、大した意味は無いでしょうな》
「その取引も、ケチが付いているはずです。正直、今後の関係も見直さねばならないとお考えでは?」
《確かに。今後また、彼らとの関係において後ろめたい状況が発生することも、十分に考えられますからな》
「我々にとっては敵の強大化につながり、あなた方にとっては遠慮したい出動。となれば双方の思惑が一致するコトになります」
《なるほど。つまりあなた方が央南への侵攻を開始する際、我々に動かないでほしい、と》
「そう言うコトです」
《確かに『何かをしろ』と言う話ではないですな。しかし……》
シエナの申し出に対し、首相は渋る様子を見せる。
《現在、我が国の重鎮であるナイジェル卿が、それを容認するかどうか。
彼は同盟の総長であり、央南の血を引いている。連合が危機に見舞われたとなれば、強固に援護を主張するでしょう》
「ソレについて、第三の要素ですが。
コレは私たちとあなただけの秘密にしていただきたいのですが――我々は現在、ナイジェル卿と、その妻であり連合主席であるタチバナ氏とのホットラインを、秘密裏に傍受しています」
《なんと》
「そしてその内容から、彼がかなり危険な思想を抱いているコトを突き止めています。
ナイジェル卿はタチバナ主席と共謀し、央南を王国の支配下に、……いいえ、『自分の』支配下に置こうと画策しているのです」
《馬鹿な!》
「証拠があります。先程お伝えした会話の傍受内容を録音しており、その中で何度も言及されています。
また、『桜の伐採』と称して、焔紅王国を侵略する計画も、かなり入念に練っています。このまま彼の言うコトに従えば、いずれ『裏取引』以上の暴挙に出るであろうコトは、目に見えています」
《むう……》
「そうでなくとも、彼はタチバナ主席との会話において『自分の思い通りにならないことなど何一つ無い』『王でさえもひざまずかせられる』と放言しています。
まあ、ソレだけなら思い上がりと一笑に付すコトもできますが、彼には実際、その力があります。このまま彼を放っておけば、その言葉通りの事態を招きかねないと思うのですが」
《確かに……、否定はできかねますな》
「そこで、協力です」
シエナはにやりと笑みを浮かべながら、こんな提案をした。
「彼の権力の根源は、西大海洋同盟にあります。しかし『裏取引』の発覚により、同盟からは加盟国が次々と撤退しています。即ち今、同盟の力は弱まっているのです。
今こそ、ナイジェル卿を排除する絶好の機会です。むしろ今排除しなければ、彼は必ず何らかの形で、勢力を盛り返すでしょう。
彼は紛れも無く智者であり、多少不利な形勢でも覆しうる力を持った巨魁です。となればこの機に乗じ、徹底的に彼から逆転の機会を奪わなければ、彼を止めるコトは不可能でしょう。
幸い、我々には彼を2週間は身動きできなくさせる策があります。その後はあなた方で、彼の動きを止められるように取り計らった下さい」
《……分かりました。ご厚意に感謝いたします》
そしてシエナが予告した通り、春司はこの極秘会談の後、央南上陸を阻まれて西大海洋上で立ち往生。
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