「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・背談抄 7
麒麟を巡る話、第533話。
飛鳥失脚、そして……。
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7.
春司の失踪は、一時彼を疎んじた飛鳥にとっても、致命的な痛手となった。
「橘主席!? これは一体、何なのですか!?」
「な、何がでしょうか?」
飛鳥は平静を装って応じるが、その声は浮ついており、視線も定まらない。
「東部陣営が白猫党に寝返った今、我々が行うべきは制裁! しかし主席のこの案は、奪還にしか言及されていないではないですか!
状況はとっくに変わっているのです! 主席、あなたはこの数週間、何を聞いていらっしゃったのですか!?」
「あ……、いえ、その、……その」
弁解もままならず、飛鳥はうつむいてしまう。
既にこの時、飛鳥は精神的に相当参っており、まともな思考ができるような状況ではなかったが、周囲は容赦なく飛鳥を突き回してくる。
「その……、その……」
会議を二回、三回と繰り返す内に、飛鳥は目に見えて衰弱していった。
そして574年の半ば、心労を募らせた橘飛鳥はついに倒れ、そのまま主席の座から離れることとなった。
ちなみに彼女は後任を立てていなかったため、橘家、そして橘家に近しい者は連合の中枢に入ることができず、連合に関する利権を失った。
そして橘飛鳥の失脚後、連合は次の主席を立てるべく、新たに会議を催すこととなった。
「立候補される方はいらっしゃいますか?」
「……」
「……」
だが、議長の言葉に手を挙げる者は現れない。国際的に信用を問われ、白猫党が迫る今、この席に就けばその責を一手に問われることになるからだ。
と――薄桃色の毛並みをした、30代半ば辺りの狐獣人が手を挙げる。
「天原さん、あなたが?」
「ええ」
手を挙げた彼自身もその懸念を抱いているのだろう。挙手したものの、その目にはわずかに迷いが見て取れる。
しかしその口からは、毅然とした声が発せられた。
「誰かがやらねばならぬこと。誰もやらないのであれば、私がやりましょう。
私が一連の問題に対し、可能な限りの収拾を付けます」
「策はあるのですか?」
尋ねた一人に、天原と呼ばれた狐獣人は小さくうなずいた。
「十全とは言えませんが、有効と思われるものはいくつか。
私の情報網によれば、既に北方における『裏取引』関係者は、すべて処分されているとのことです。一方、連合に残る方々の中に未だ責任を果たさず、罰も受けていない方がいることは事実です。
とは言え今、それをどうのこうのと取り沙汰しては、まとまるものもまとまらないでしょう。何より避けなければならないのは、白猫党と戦う前に我々が分裂し、攻撃も防衛もできなくなってしまうことです。
ついてはこの問題を、期限付きで不問とすることを提案します」
天原の発言に、場は騒然となる。
「そんなことが許されるものか!」
「責任を問わず、のうのうと過ごさせると!?」
「ですから期限付きです。私とて、不義や不正に対し何の罰も与えず、与えられずでは、納得が行くはずも無い。
しかし重ねて申し上げますが、我々がバラバラになってしまうことは、白猫党にとっては思う壺。連合と言う巨岩を受け止めることは困難ですが、それが分裂・分断して小石となった時、白猫党がそれを脅威だなどと思うことはありえません。
それは白猫党の基本戦略なのです。強い敵はまず、弱らせる。巨大な敵はまず、小分けにする。白猫党の常勝無敗の秘密は、最新鋭の兵器にあるのでも、ましてや『預言』などと言う怪奇にあるのでもない。『強大を弱小に変える』と言う作戦、これにこそあるのです。
であれば、どんな理由であれ分裂することは、結果的に連合の敗北、ひいては央南全土の敗北につながります。その分裂の阻止。これを第一に考えねばなりません」
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飛鳥失脚、そして……。
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7.
春司の失踪は、一時彼を疎んじた飛鳥にとっても、致命的な痛手となった。
「橘主席!? これは一体、何なのですか!?」
「な、何がでしょうか?」
飛鳥は平静を装って応じるが、その声は浮ついており、視線も定まらない。
「東部陣営が白猫党に寝返った今、我々が行うべきは制裁! しかし主席のこの案は、奪還にしか言及されていないではないですか!
状況はとっくに変わっているのです! 主席、あなたはこの数週間、何を聞いていらっしゃったのですか!?」
「あ……、いえ、その、……その」
弁解もままならず、飛鳥はうつむいてしまう。
既にこの時、飛鳥は精神的に相当参っており、まともな思考ができるような状況ではなかったが、周囲は容赦なく飛鳥を突き回してくる。
「その……、その……」
会議を二回、三回と繰り返す内に、飛鳥は目に見えて衰弱していった。
そして574年の半ば、心労を募らせた橘飛鳥はついに倒れ、そのまま主席の座から離れることとなった。
ちなみに彼女は後任を立てていなかったため、橘家、そして橘家に近しい者は連合の中枢に入ることができず、連合に関する利権を失った。
そして橘飛鳥の失脚後、連合は次の主席を立てるべく、新たに会議を催すこととなった。
「立候補される方はいらっしゃいますか?」
「……」
「……」
だが、議長の言葉に手を挙げる者は現れない。国際的に信用を問われ、白猫党が迫る今、この席に就けばその責を一手に問われることになるからだ。
と――薄桃色の毛並みをした、30代半ば辺りの狐獣人が手を挙げる。
「天原さん、あなたが?」
「ええ」
手を挙げた彼自身もその懸念を抱いているのだろう。挙手したものの、その目にはわずかに迷いが見て取れる。
しかしその口からは、毅然とした声が発せられた。
「誰かがやらねばならぬこと。誰もやらないのであれば、私がやりましょう。
私が一連の問題に対し、可能な限りの収拾を付けます」
「策はあるのですか?」
尋ねた一人に、天原と呼ばれた狐獣人は小さくうなずいた。
「十全とは言えませんが、有効と思われるものはいくつか。
私の情報網によれば、既に北方における『裏取引』関係者は、すべて処分されているとのことです。一方、連合に残る方々の中に未だ責任を果たさず、罰も受けていない方がいることは事実です。
とは言え今、それをどうのこうのと取り沙汰しては、まとまるものもまとまらないでしょう。何より避けなければならないのは、白猫党と戦う前に我々が分裂し、攻撃も防衛もできなくなってしまうことです。
ついてはこの問題を、期限付きで不問とすることを提案します」
天原の発言に、場は騒然となる。
「そんなことが許されるものか!」
「責任を問わず、のうのうと過ごさせると!?」
「ですから期限付きです。私とて、不義や不正に対し何の罰も与えず、与えられずでは、納得が行くはずも無い。
しかし重ねて申し上げますが、我々がバラバラになってしまうことは、白猫党にとっては思う壺。連合と言う巨岩を受け止めることは困難ですが、それが分裂・分断して小石となった時、白猫党がそれを脅威だなどと思うことはありえません。
それは白猫党の基本戦略なのです。強い敵はまず、弱らせる。巨大な敵はまず、小分けにする。白猫党の常勝無敗の秘密は、最新鋭の兵器にあるのでも、ましてや『預言』などと言う怪奇にあるのでもない。『強大を弱小に変える』と言う作戦、これにこそあるのです。
であれば、どんな理由であれ分裂することは、結果的に連合の敗北、ひいては央南全土の敗北につながります。その分裂の阻止。これを第一に考えねばなりません」
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