「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・背談抄 8
麒麟を巡る話、第534話。
央南の内乱、ふたたび。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
未だ納得の行かなさそうな面々に、天原は続けてこう主張する。
「ともかく眼前にある問題を片付け次第、『裏取引』について徹底的に関係者を洗い出し、糾弾することを提案します。
まず第一に、白猫党と戦う姿勢を整えること。それが最優先であることは、皆さんも納得していただけると思われますが、如何でしょうか」
「……」
「……むう」
「仕方無いか」
天原の意見に、皆が渋々同意する。
しかし一方で、安堵したような空気もほのかに漂っている。それは間違いなく「裏取引」に加担していた者たちが発したものである。
それを感じてか、天原の狐耳がピク、と動く。
「同意していただけて何よりです。
では2つ目の策について説明します。『紅丹党』と名乗る者たちについて、うわさなり何なりを耳にした方はいらっしゃるでしょうか?」
「くたん……区担当?」
「いや、知らないな」
「聞いたことがあるような……」
「確か唯一、白猫党を追い返したと」
天原はうなずき、さらに言及する。
「そう、その彼らです。いや、彼女らと言うべきか」
「彼女ら?」
尋ねられ、天原はこう返した。
「実を申しますと、その紅丹党を率いているのは私の妹なのです」
「ほう?」
「現在、央南に陣取っている白猫党に唯一、対抗しうる戦力です。
彼女らと央南連合軍、そして州軍およびあなた方が有する私兵を合わせれば、私は白猫党を央南から完全に一掃することすら可能であると、確信しております。
私を主席に推薦・任命していただければ、私はきっと、央南全土を我々の手に取り戻すことができると、確約いたします」
自信満々に宣言した天原に強い信頼感を抱いたらしく、賛成多数で彼が新たな主席となることが決定した。
「兄上から連絡がありました」
大月、紅丹党本部。
辰沙は同志を集め、央南連合で決定した内容を伝えていた、
「既にご存じの方もいらっしゃると思いますが、あたくしの兄、天原柏は央南連合における最高幹部の一人です。
その兄が本日、央南連合の主席に就任いたしました」
「重畳!」
「天原家、万歳!」
「おめでとうございます!」
一同に頭を下げられ、辰沙はにこにこと笑う。
「ありがとう。ですが本題は、ここからです。
兄上によれば、近いうちに西部各州の州軍と央南連合軍が合同で、この大月に集結するとのことです。
つまり彼らは、あたくしたちと共に戦うことになります。無論、あたくしたちを旗頭にして」
「おおっ……!」
この発表に、同志たちがどよめく。
「兵の総数は?」
「まだはっきりと確定してはおりませんが、最低でも10万とのことです。対する白猫党は、どんなに多くとも2万以下であると推察されます。
もっとも、白猫党が増援を送る可能性もありますけれど、彼らの本拠地は遠い央北の地。到着には時間がかかります。どれほど早くとも、2週間以上は必須。それよりあたくしたちが攻め込む方が、圧倒的に早いはずです。
後は首尾よく兄、いいえ、天原主席が兵をこの大月に送ってくれれば、あたくしたちの白猫党駆逐は現実のものとなるでしょう」
これを聞くなり、同志たちが騒ぎ出す。
「なんと心躍ることか!」
「我々がたのみにされているとは……!」
「冥利に尽きる……!」
彼らの反応に気を良くしたのか、辰沙も饒舌になる。
「ここがあたくしたちの転換点となるでしょう。これまで不当な扱いを受けてきたあたくしたち焔流の剣士たち、そして様々な理由で冷遇されてきた兵卒の皆さん。
それが今、白猫党駆逐の急先鋒、要の戦力として期待されております。そして実際に駆逐すれば、あたくしたちは英雄として絶大な賞賛を受けるのです」
「うおおっ……!」
「勝つっ……! 絶対勝つぞっ……!」
「見返してやるっ……!」
同志たちの中には、涙を流す者さえいる。
そんな彼らを、辰沙は依然にこにこと笑みを浮かべ、どこか嬉しそうに眺めていた。
白猫夢・背談抄 終
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央南の内乱、ふたたび。
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8.
未だ納得の行かなさそうな面々に、天原は続けてこう主張する。
「ともかく眼前にある問題を片付け次第、『裏取引』について徹底的に関係者を洗い出し、糾弾することを提案します。
まず第一に、白猫党と戦う姿勢を整えること。それが最優先であることは、皆さんも納得していただけると思われますが、如何でしょうか」
「……」
「……むう」
「仕方無いか」
天原の意見に、皆が渋々同意する。
しかし一方で、安堵したような空気もほのかに漂っている。それは間違いなく「裏取引」に加担していた者たちが発したものである。
それを感じてか、天原の狐耳がピク、と動く。
「同意していただけて何よりです。
では2つ目の策について説明します。『紅丹党』と名乗る者たちについて、うわさなり何なりを耳にした方はいらっしゃるでしょうか?」
「くたん……区担当?」
「いや、知らないな」
「聞いたことがあるような……」
「確か唯一、白猫党を追い返したと」
天原はうなずき、さらに言及する。
「そう、その彼らです。いや、彼女らと言うべきか」
「彼女ら?」
尋ねられ、天原はこう返した。
「実を申しますと、その紅丹党を率いているのは私の妹なのです」
「ほう?」
「現在、央南に陣取っている白猫党に唯一、対抗しうる戦力です。
彼女らと央南連合軍、そして州軍およびあなた方が有する私兵を合わせれば、私は白猫党を央南から完全に一掃することすら可能であると、確信しております。
私を主席に推薦・任命していただければ、私はきっと、央南全土を我々の手に取り戻すことができると、確約いたします」
自信満々に宣言した天原に強い信頼感を抱いたらしく、賛成多数で彼が新たな主席となることが決定した。
「兄上から連絡がありました」
大月、紅丹党本部。
辰沙は同志を集め、央南連合で決定した内容を伝えていた、
「既にご存じの方もいらっしゃると思いますが、あたくしの兄、天原柏は央南連合における最高幹部の一人です。
その兄が本日、央南連合の主席に就任いたしました」
「重畳!」
「天原家、万歳!」
「おめでとうございます!」
一同に頭を下げられ、辰沙はにこにこと笑う。
「ありがとう。ですが本題は、ここからです。
兄上によれば、近いうちに西部各州の州軍と央南連合軍が合同で、この大月に集結するとのことです。
つまり彼らは、あたくしたちと共に戦うことになります。無論、あたくしたちを旗頭にして」
「おおっ……!」
この発表に、同志たちがどよめく。
「兵の総数は?」
「まだはっきりと確定してはおりませんが、最低でも10万とのことです。対する白猫党は、どんなに多くとも2万以下であると推察されます。
もっとも、白猫党が増援を送る可能性もありますけれど、彼らの本拠地は遠い央北の地。到着には時間がかかります。どれほど早くとも、2週間以上は必須。それよりあたくしたちが攻め込む方が、圧倒的に早いはずです。
後は首尾よく兄、いいえ、天原主席が兵をこの大月に送ってくれれば、あたくしたちの白猫党駆逐は現実のものとなるでしょう」
これを聞くなり、同志たちが騒ぎ出す。
「なんと心躍ることか!」
「我々がたのみにされているとは……!」
「冥利に尽きる……!」
彼らの反応に気を良くしたのか、辰沙も饒舌になる。
「ここがあたくしたちの転換点となるでしょう。これまで不当な扱いを受けてきたあたくしたち焔流の剣士たち、そして様々な理由で冷遇されてきた兵卒の皆さん。
それが今、白猫党駆逐の急先鋒、要の戦力として期待されております。そして実際に駆逐すれば、あたくしたちは英雄として絶大な賞賛を受けるのです」
「うおおっ……!」
「勝つっ……! 絶対勝つぞっ……!」
「見返してやるっ……!」
同志たちの中には、涙を流す者さえいる。
そんな彼らを、辰沙は依然にこにこと笑みを浮かべ、どこか嬉しそうに眺めていた。
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今日の旅岡さん

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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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焔流、完全にあかんパターンやがな。
こういうときにビシッと物申す「宿老」とか「ご意見番」とか「頑固爺」タイプの人は……おらんのやろうなあ……。
こういうときにビシッと物申す「宿老」とか「ご意見番」とか「頑固爺」タイプの人は……おらんのやろうなあ……。
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NoTitle
黄派とか柊派はちゃんと成功してます。