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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・紅白抄 2

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    麒麟を巡る話、第536話。
    陳腐化。

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    2.
     一方、こちらは青州の州都、青江に陣を構える白猫党の司令部。
    「ふーむ……」
     葵に伴われて央南入りしたデリック・ヴィッカー博士が、通信機の前で首を傾げている。そしてそれは、彼を毛嫌いしているロンダ司令も同様だった。
    「妙だな、確かに」
    「ああ。どうも勘付かれた節があるな」
     一瞬間を置いて、ヴィッカー博士が口を開く。
    「これはどう考えても、通信の傍受がばれているとしか考えられん。
     アマハラ氏が主席に就任して以降、彼が関わるすべての電信・電話、その他通信網において、情報がキャッチできなくなっている。
     正確に言えば通信を行っても、ほとんど重要な情報が話に上らない。と言って、前主席のようにまったく現実的に動かず、逃げ回っていると言うわけでもない。むしろ逆と言える」
    「同感だ。積極的にあちこち動き回り、直接話し合っているらしいからな。
     となればこれは、通信の傍受対策を立て、実施していると見て間違い無いだろう。新たに主席に付いたアマハラとやら、なかなか我々のことを調べているようだ」
    「とは言え、今まであまりにも阿漕にやり過ぎたのも事実だ。ばれていなかったことの方が不思議なくらいだと思うよ、私は」
     肩をすくめつつ、ヴィッカー博士はニヤニヤとした笑みを浮かべる。
     ロンダ司令はそのいやらしい笑顔に一片の愛想笑いも見せることもなく、仏頂面でこう返す。
    「まあ、その程度であれば問題は無い。
     別に主席の電話だけが、我々の諜報活動のすべてと言うわけではない。別の筋から、敵勢力の全容は概ね把握している。
     そしてその装備が、相当優れていると言うことも」
    「その点についても失笑を禁じ得ないね。私の後任者は相当な怠け者だったようだ」
     依然としてヴィッカー博士は、冷ややかな笑みを崩さない。
    「西方戦で見て驚いたが、まさか私が10年近くも前に設計した武器を、まだそのまま使っているとは思わなかった。
     とは言え西方においては、そんな旧式でも使用に問題が無かったのは事実だ。あの時は奇襲に次ぐ奇襲、電撃戦の連続で、抵抗できるような勢力は乏しかったし、気にするような要素にはならなかった。
     しかし今回は、そうは行かん。自動小銃一つとってみても、現在白猫軍が使用している『ポイントマン Type Am3 D改』と黄商会の『黄撃119号』では、有効射程に10メートルも差がある。
     こんな状態で接近戦に入っては、白猫軍が蜂の巣になってしまう。その他の装備に関しても同様だ。私の意見としては、こんな性急な侵攻作戦など実施すべきではなかったと思うのだがね。それよりも装備や体制の改修を行うべきだった」
    「総裁をはじめとする幹部陣、そして預言者殿のご意向だ。君の意見だけでは何ともならなかったろう。今更そんなことを言っても、どうにもなるまい」
    「分かっているさ」
     と、ヴィッカー博士が辺りを見回し、ロンダ司令に小声で話しかける。
    「司令閣下。これは私とあなただけの話にしてもらいたいのだが」
    「うん?」
    「白猫党の現状をどう捉えるかね?」
    「と言うと?」
    「総裁は明らかに、弱気になっている。今、強気でいるのは、預言者殿がバックに付いているからであり、もしも彼女がまた臥せるようなことがあれば、またオロオロしだすだろう。
     一方で幹事長殿の暗躍も目につく。閣下もそれとなく、声をかけられたのでは?」
    「……うむ」
    「私にも来た。恐らく内容は同様ではないかと思うのだがね」
    「そんな気はするな」
    「私としては、悪い話ではないと思っている。現在の総裁にこのまま従うより、彼を新たな総裁と仰いだ方が……」「デリック・ヴィッカー工学博士」
     ロンダは苦虫を噛み潰したように顔を歪ませ、相手の話を遮った。
    「私がわざわざ貴君を央南に招聘したのは、そんなきな臭い話を交わすためではない。あくまで軍事技術についての話をのみ、したいのだ」
    「……これは失礼。私の領分を越えていたようだ。
     では話を戻そう。結論から言えば、現状の装備で央南連合軍や紅丹党と戦うのは得策ではない。
     装備全体の平均有効射程、威力、精度、どの面から見ても、相手に分があるのは事実だ。無理に戦えば、最悪でも敗北は必至。勝ったとしても、相当の被害を伴うことになる。下手な手出しは、極力避けるべきだろう」
    「しかし一方、敵は間もなく進軍を開始するとの情報も入っている。事実、彼らの前線である大月には、既に大軍が集結している。
     戦闘は不可避だ」
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