「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
蒼天剣番外編 その2
晴奈の話、の幕間。
バカ二人と、バカが大嫌いな魔術師の話。
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蒼天剣番外編 その2
「おい、起きろ! 殿下がいない!」
フォルナの護衛、グリーズはフォルナがいないことに気が付き、慌てて相棒のオルソーを叩き起こした。
「んが……。がっ!?」
相棒の言葉に、オルソーは慌てて目を開けた。
「い、いないって、どう言う、あぁ!?」
「いないんだよ! どこにも! 部屋にも下にも!」
「……つまり、いないんだな、どこにも」
「そう言ってるだろ、お前相当頭悪いな」
「お前には言われたくない。いや、それよりも」
二人はどたどたと足音を立て、先ほどまでフォルナがいた部屋を探し回る。
「いない」「ああ、いない」
二人は青い顔になり、大声で叫んだ。
「殿下! フォルナ殿下!」「どちらにいらっしゃるのですか!?」
巨漢二名の大声は、宿をビリビリと震わせる。
「な、なんだ?」
「地震!?」
「暴動かっ!?」
たまらず周りの客が廊下に飛び出す。それに構うことなく、「熊」たちは叫び続ける。
「殿下ぁ~!」「出てきてくださ~い!」
流石の店主も、この騒ぎを見過ごせずに上がってきた。
「ちょっと護衛さん、他のお客さんもいらっしゃいますから」
「そんなことはどうでもいい!」「殿下だ! 殿下がいなければ……!」
店主の制止も聞かず、「熊」たちは騒ぐ。と、そこに――。
「うるさいね……!」
いかにも魔術師風の、よれよれとしたローブを身に纏った男がやってきた。
「まだ昼前じゃないね。夕べから一睡もしてなかったヤツもいるんだから、黙れって」
「何だ貴様!」「口を挟むな!」
この注意も、二人は突っぱねた。魔術師の額に、ピシッと青筋が走る。
「……もう一度言うね。黙れ」
「うるさい!」「もしかして貴様か!? 貴様が殿下を……!?」
魔術師は深いため息をついて、ぽつりとこう言った。
「だからバカは嫌いだね。話を聞きやしない」
10秒後。オルソーとグリーズは宿の窓を突き破って、外へと吹っ飛んでいった。
「……ったく、カジノで大負けしてた時に、気分の悪い」
「お、お客さーん」
魔術師――モールが店主の方を振り返ると、店主が困った顔で揉み手をしている。
「窓、弁償お願いします……」
「……あー」
モールは左手に持っていた魔杖を壊れた窓に向け、印を結ぶ。
「戻れ、『ウロボロスポール:リバース』」
呪文を唱え、杖を振りかざした途端、窓の破片がひょいひょいと元の場所へ帰っていく。
「お、お……!?」
窓は何事も無かったかのように、欠片一枚も残さず元の姿に戻った。
「私にかかりゃ、これくらい朝飯前だね。……あ、本当に朝飯食ってないね、そう言えば。店主、飯の用意頼んでいいね?」
「あ、はい……。えっと、お部屋にお運びしましょうか?」
「ん、よろしゅー」
モールは首をコキコキと鳴らし、部屋へと戻っていった。
「いてて……」「あたた……」
宿の3階から落とされたオルソー、グリーズの二人は体中をさすりながら、顔を見合わせる。
「ど、どうやらあいつは無関係なようだ」
「そのようだな。……そうであってほしい」
「しかし、それでは殿下は、どこに行ったと言うのだろう?」
「もしかしたら、我々が眠っていた隙に抜け出したか……」
「それしかあるまい。となれば、街中を歩いているはず。急いで探すぞ」
「ああ」
二人は立ち上がり、バタバタと市場へ向かって走っていった。
なお、この時既にフォルナはゴールドコーストを離れ、晴奈たちの後を追っていた。
初動捜査の空振りと判断の遅れにより、オルソーたち二人がフォルナを見つけることはついに無かった。グラーナ王国がこの二人から報告を受け、央中全土に捜索の手を広げるのは、これから半月後のことになる。
終
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バカ二人と、バカが大嫌いな魔術師の話。
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蒼天剣番外編 その2
「おい、起きろ! 殿下がいない!」
フォルナの護衛、グリーズはフォルナがいないことに気が付き、慌てて相棒のオルソーを叩き起こした。
「んが……。がっ!?」
相棒の言葉に、オルソーは慌てて目を開けた。
「い、いないって、どう言う、あぁ!?」
「いないんだよ! どこにも! 部屋にも下にも!」
「……つまり、いないんだな、どこにも」
「そう言ってるだろ、お前相当頭悪いな」
「お前には言われたくない。いや、それよりも」
二人はどたどたと足音を立て、先ほどまでフォルナがいた部屋を探し回る。
「いない」「ああ、いない」
二人は青い顔になり、大声で叫んだ。
「殿下! フォルナ殿下!」「どちらにいらっしゃるのですか!?」
巨漢二名の大声は、宿をビリビリと震わせる。
「な、なんだ?」
「地震!?」
「暴動かっ!?」
たまらず周りの客が廊下に飛び出す。それに構うことなく、「熊」たちは叫び続ける。
「殿下ぁ~!」「出てきてくださ~い!」
流石の店主も、この騒ぎを見過ごせずに上がってきた。
「ちょっと護衛さん、他のお客さんもいらっしゃいますから」
「そんなことはどうでもいい!」「殿下だ! 殿下がいなければ……!」
店主の制止も聞かず、「熊」たちは騒ぐ。と、そこに――。
「うるさいね……!」
いかにも魔術師風の、よれよれとしたローブを身に纏った男がやってきた。
「まだ昼前じゃないね。夕べから一睡もしてなかったヤツもいるんだから、黙れって」
「何だ貴様!」「口を挟むな!」
この注意も、二人は突っぱねた。魔術師の額に、ピシッと青筋が走る。
「……もう一度言うね。黙れ」
「うるさい!」「もしかして貴様か!? 貴様が殿下を……!?」
魔術師は深いため息をついて、ぽつりとこう言った。
「だからバカは嫌いだね。話を聞きやしない」
10秒後。オルソーとグリーズは宿の窓を突き破って、外へと吹っ飛んでいった。
「……ったく、カジノで大負けしてた時に、気分の悪い」
「お、お客さーん」
魔術師――モールが店主の方を振り返ると、店主が困った顔で揉み手をしている。
「窓、弁償お願いします……」
「……あー」
モールは左手に持っていた魔杖を壊れた窓に向け、印を結ぶ。
「戻れ、『ウロボロスポール:リバース』」
呪文を唱え、杖を振りかざした途端、窓の破片がひょいひょいと元の場所へ帰っていく。
「お、お……!?」
窓は何事も無かったかのように、欠片一枚も残さず元の姿に戻った。
「私にかかりゃ、これくらい朝飯前だね。……あ、本当に朝飯食ってないね、そう言えば。店主、飯の用意頼んでいいね?」
「あ、はい……。えっと、お部屋にお運びしましょうか?」
「ん、よろしゅー」
モールは首をコキコキと鳴らし、部屋へと戻っていった。
「いてて……」「あたた……」
宿の3階から落とされたオルソー、グリーズの二人は体中をさすりながら、顔を見合わせる。
「ど、どうやらあいつは無関係なようだ」
「そのようだな。……そうであってほしい」
「しかし、それでは殿下は、どこに行ったと言うのだろう?」
「もしかしたら、我々が眠っていた隙に抜け出したか……」
「それしかあるまい。となれば、街中を歩いているはず。急いで探すぞ」
「ああ」
二人は立ち上がり、バタバタと市場へ向かって走っていった。
なお、この時既にフォルナはゴールドコーストを離れ、晴奈たちの後を追っていた。
初動捜査の空振りと判断の遅れにより、オルソーたち二人がフォルナを見つけることはついに無かった。グラーナ王国がこの二人から報告を受け、央中全土に捜索の手を広げるのは、これから半月後のことになる。
終
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2015.06.01 タイトル表記と体裁を修正
2015.06.01 タイトル表記と体裁を修正
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