「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・紅白抄 3
麒麟を巡る話、第537話。
意義ある猛進。
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3.
ロンダ司令の懸念は現実のものとなりつつあった。
央南連合軍と紅丹党は玄州と青州との州境を越え、白猫党の最前線である藍戸へと侵攻する計画を練っていた。
「白猫軍の動向は?」
「藍戸からは出ず、防衛線を構築しております」
「そうか。となると正面からの突破は難しいだろうな」
「はい。ですので迂回し……」「あら」
軍の各指揮官や参謀らと相談していた柏との間に、辰沙が割り込んでくる。
「そんな悠長なことをなさるなんて。お暇ですのね」
「……」
辰沙の言葉に、幕僚たちは一様に不快な表情を浮かべる。柏も例外ではなく、彼女をにらみつける。
「まさか臆面も無く、『あたくしたちならば正面突破できますのに』などと言うつもりではあるまいな?」
「そのつもりですわ」
「その根拠はなんだ? 思い上がりから来るような自信や、理にかなわない運否天賦などで言っているのではないだろうな?」
「勿論、ございますわ。説明申し上げてもよろしいかしら?」
「言ってみろ」
「彼らの装備はあたくしたちに比べ、射程距離も威力も低い。そしてそのことを双方が知っている。だからこそ、こちらが徹頭徹尾にわたって攻めの姿勢を執るべきと、そう思います。
ここで正面からの攻撃以外の、相手の勢力に日和った作戦を執ったとして、それが相手の士気に影響しないと思われますか?」
「なるほど、その考えも一理あるだろう。確かに今現在、相手の士気が低下していると言う情報はつかんでいるし、それに乗じて攻め込みたいと言う意見は多く出ている。
とは言え、うかつに攻め込んでは返り討ちの危険もある。相手はここ何年も戦ってきた猛者揃いだ。例え装備で敵わなくとも、経験でその差を埋めてくると言うことも考えられる」
「経験? 弱いものいじめを『戦歴』と仰るのですか?」
「なに?」
「彼らは今まで、格下の敵ばかりを相手してきました。それは優越感を得こそすれど、形勢不利を覆すような気概・根気を育んできたとは思えません。
実際、格上の敵に相対した時――央中ゴールドコースト市国において迎撃を受けた際、彼らはどうされましたかしら?」
「ふむ、……確かにその際、白猫軍はほとんど戦う態勢に移れず、総崩れになって撤退したと、そう聞き及んでいる」
「でしょう? 今現在においても、彼らは防衛線を築き、突破されぬようにと構えているご様子。
それは裏を返せば、『突破されたらどうしようもなくなる』と言う、彼らが抱く不安の表れと取れるのではないでしょうか?」
「あくまで敵は弱気であると、お前はそう読んでいるわけだな」
「ええ。ですからあたくしは、正面突破を主張いたします。
でなければ、例えあなた方の迂回作戦が今回、実を結んだとしても、相手に『央南連合側は、我々に策を弄さねば勝てぬ程度の実力』『相手も我々に対し、不安を抱いているのではないか』と言う期待を抱かせるかも知れません。
そしてそれは折角低下している相手の士気を回復させる契機となり、後々の戦いに響いてくるかも。あたくしはそう考えております」
「ふむ……」
妹の意見を聞き終え、柏は腕を組んでうなる。
「お前の意見も確かに、うなずける点は多い。全体の作戦に絡めておく価値はある。
それを踏まえ、私の作戦はこうだ」
柏は幕僚たちに向き直り、こう提案した。
「連合軍は陽動に徹し、あくまで迂回作戦を行う。敵にそれを察知させ、妹の言うような気持ち、即ち我々を『決して格上などではない、策を弄せねば勝利を得られぬ雑兵』と言う感想を抱かせておき、頃合いを見計らったところで紅丹党が正面突破。
これが実れば、敵は折角築いた防衛線がむざむざ突破された上、我々の策にまんまと踊らされたと言う二重の屈辱・衝撃を与えられることになる。そうなれば敵の士気はこれ以上無いほどに落ち込み、結果、撤退は必至となるだろう。
後は我々に歯向かった東部陣をこらしめれば終局だ。……この策に異議のある者はいるか?」
異議を唱える者は現れず、連合軍は柏の作戦を実行することとなった。
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意義ある猛進。
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3.
ロンダ司令の懸念は現実のものとなりつつあった。
央南連合軍と紅丹党は玄州と青州との州境を越え、白猫党の最前線である藍戸へと侵攻する計画を練っていた。
「白猫軍の動向は?」
「藍戸からは出ず、防衛線を構築しております」
「そうか。となると正面からの突破は難しいだろうな」
「はい。ですので迂回し……」「あら」
軍の各指揮官や参謀らと相談していた柏との間に、辰沙が割り込んでくる。
「そんな悠長なことをなさるなんて。お暇ですのね」
「……」
辰沙の言葉に、幕僚たちは一様に不快な表情を浮かべる。柏も例外ではなく、彼女をにらみつける。
「まさか臆面も無く、『あたくしたちならば正面突破できますのに』などと言うつもりではあるまいな?」
「そのつもりですわ」
「その根拠はなんだ? 思い上がりから来るような自信や、理にかなわない運否天賦などで言っているのではないだろうな?」
「勿論、ございますわ。説明申し上げてもよろしいかしら?」
「言ってみろ」
「彼らの装備はあたくしたちに比べ、射程距離も威力も低い。そしてそのことを双方が知っている。だからこそ、こちらが徹頭徹尾にわたって攻めの姿勢を執るべきと、そう思います。
ここで正面からの攻撃以外の、相手の勢力に日和った作戦を執ったとして、それが相手の士気に影響しないと思われますか?」
「なるほど、その考えも一理あるだろう。確かに今現在、相手の士気が低下していると言う情報はつかんでいるし、それに乗じて攻め込みたいと言う意見は多く出ている。
とは言え、うかつに攻め込んでは返り討ちの危険もある。相手はここ何年も戦ってきた猛者揃いだ。例え装備で敵わなくとも、経験でその差を埋めてくると言うことも考えられる」
「経験? 弱いものいじめを『戦歴』と仰るのですか?」
「なに?」
「彼らは今まで、格下の敵ばかりを相手してきました。それは優越感を得こそすれど、形勢不利を覆すような気概・根気を育んできたとは思えません。
実際、格上の敵に相対した時――央中ゴールドコースト市国において迎撃を受けた際、彼らはどうされましたかしら?」
「ふむ、……確かにその際、白猫軍はほとんど戦う態勢に移れず、総崩れになって撤退したと、そう聞き及んでいる」
「でしょう? 今現在においても、彼らは防衛線を築き、突破されぬようにと構えているご様子。
それは裏を返せば、『突破されたらどうしようもなくなる』と言う、彼らが抱く不安の表れと取れるのではないでしょうか?」
「あくまで敵は弱気であると、お前はそう読んでいるわけだな」
「ええ。ですからあたくしは、正面突破を主張いたします。
でなければ、例えあなた方の迂回作戦が今回、実を結んだとしても、相手に『央南連合側は、我々に策を弄さねば勝てぬ程度の実力』『相手も我々に対し、不安を抱いているのではないか』と言う期待を抱かせるかも知れません。
そしてそれは折角低下している相手の士気を回復させる契機となり、後々の戦いに響いてくるかも。あたくしはそう考えております」
「ふむ……」
妹の意見を聞き終え、柏は腕を組んでうなる。
「お前の意見も確かに、うなずける点は多い。全体の作戦に絡めておく価値はある。
それを踏まえ、私の作戦はこうだ」
柏は幕僚たちに向き直り、こう提案した。
「連合軍は陽動に徹し、あくまで迂回作戦を行う。敵にそれを察知させ、妹の言うような気持ち、即ち我々を『決して格上などではない、策を弄せねば勝利を得られぬ雑兵』と言う感想を抱かせておき、頃合いを見計らったところで紅丹党が正面突破。
これが実れば、敵は折角築いた防衛線がむざむざ突破された上、我々の策にまんまと踊らされたと言う二重の屈辱・衝撃を与えられることになる。そうなれば敵の士気はこれ以上無いほどに落ち込み、結果、撤退は必至となるだろう。
後は我々に歯向かった東部陣をこらしめれば終局だ。……この策に異議のある者はいるか?」
異議を唱える者は現れず、連合軍は柏の作戦を実行することとなった。
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