黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・紅白抄 4

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    麒麟を巡る話、第538話。
    二面陽動戦。

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    4.
     7月はじめ、央南連合軍と紅丹党の混成軍はいよいよ、藍戸への進軍を開始した。
    「いいか、我々は敵防衛線の両側へと迂回し、攻撃に移る! だがこの攻撃はあくまで陽動であることを忘れるな! 決して深追いはするな!」
    「了解!」
     事前に打ち合わせていた通り、連合軍は藍戸の南側に敷かれた防衛線を、西にある海から回り込む部隊と、大月と藍戸をつなぐ青玄街道を大きく東にそれて東方向から回り込む部隊との二翼に分けて迂回させた。
     当然、この二部隊と作戦本部との連携は、魔術と電気通信との2系統で取っているが――。
    「いいか、擬装を忘れるな」
    「承知しております」
     連合軍は白猫等に通信が傍受されていることを把握しており、それを逆手に取る形で、通信上ではあたかも連合軍の作戦が本命であるかのように振舞っていた。
     そして両軍の衝突から間もなく、両翼からの通信は、戦況を次のように伝えていた。
    《海上部隊、目標地点港からの砲撃を受けております! 応戦しておりますが、敵戦力の殲滅は困難! 一旦敵射程距離外へ離脱し、態勢を整え直します!》
    《陸上部隊、防衛線からの機銃掃射に阻まれております! 歩兵等は見当たらず、通常装備での制圧は不可能! 重機関砲および大径榴弾砲の使用許可を願います!》
     これを受け、柏が幕僚と相談する。
    「戦況をどう見る、諸君?」
    「歩兵は線を越えず、か。まあ、こちらからの攻撃があるから、今出れば犬死にさせるだけ。当たり前と言えば当たり前か」
    「とは言え海上、陸上のどちらにおいても、全力で侵入を阻んでいることは明白。我々の作戦にはまっているようですな」
    「このまま戦況を膠着状態に持ち込み、相手の疲弊を待ってから、紅丹党を進めさせよう」
     柏が通信機を手に取り、両翼に命令する。
    「海上部隊は敵射程距離外に離脱の上、各艦艦砲にて一斉射撃せよ。陸上部隊、戦術兵器の使用を許可する。
     両翼とも引き続き、敵防衛線の破壊を第一目標とせよ」
    《了解!》



     作戦開始から6時間が経過し、当初は張りのあった両翼からの報告も、若干の疲れが現れ始めた。
    《艦砲射撃、砲弾が尽きました! ですが港からは依然として砲撃が続いております!
     なお、当初予測されていた、敵砲の有効射程距離外へ離脱しておりますが、十数発に一回程度、僚艦の範囲に届くものもあり、想定されていたよりも射程距離が伸びている模様!》
    《こちら陸上! 壁、崩れません! 魔術による補強がされているらしく、命中箇所から紫状の光の明滅を何度か確認しております!》
    「ふむ」
     柏は時計と幕僚を見回し、こう尋ねた。
    「頃合いと思うが、諸君はどうだ?」
    「ええ。閣下の目論んでいた通り、戦況は膠着状態に入ったかと思われます」
    「既に海上における主戦力の攻撃は尽きており、これ以上引き伸ばせば、致命傷を受けるおそれがあるかと」
    「陸上も、まもなく砲弾が尽きる頃です。このまま引き伸ばし、相手が白兵戦に持ち込んできたら、こちらも少なからず被害を受けるでしょう」
    「よし」
     柏は通信機のダイヤルをひねり、辰沙たちが持っている通信機へと、周波数を合わせる。
    「第三部隊、進軍開始だ! 全力にて敵防衛線を破壊せよ!」
    《……ザ……了解!》
     軽いノイズとともに、応答が返って来る。
    「うん?」
     首を傾げた柏に、幕僚の一人が声をかける。
    「どうされました、閣下?」
    「いや……、何でもない。恐らくわずかに、周波数が合っていなかったのだろう」
     そう言いつつも、柏は険しい表情を崩さない。
    「あの、何か……?」
    「いや、……ふむ」
     再度尋ねられ、柏は迷い迷い、と言った口調で応じる。
    「はっきりと感じたわけではないのだが、……どうも何か、引っかかるのだ。
     敵の反応が、……何と言うか、機械的と言うか、単調と言うか――確かに通信で伺う限り、激しい攻撃が行われているのは疑うべくも無い。だがその激しさに、何故か花火や爆竹のような、こけおどしじみた雰囲気が漂っているようにも感じられるのだ。事実、戦闘開始から相当な時間が経過したと言うのに、まともな被害が報告されていないのだからな。
     それに海上・陸上のどちらにも、歩兵戦力が投入されていないと言うのも気になる。いや、確かに合理的説明はいくらでも付けられる。うかつに出せば返り討ちにされるとか、投入しても成果が挙げられる局面ではないとか、そんなものはいくらでも思いつく。だがどちらにもまったく無いとは、いささか妙な気がするのだ。
     まるで投入すべきその歩兵が、防衛線の中にいないかのような……」
     柏はもう一度通信機のマイクを手に取り、紅丹党に向けて尋ねた。
    「第三部隊、異常は無いか?」
    《はい》
    「そうか。……下らない質問をするが」
    《え?》
    「諸君らが辰沙先生と仰いでいる狐獣人の女。無論、彼女の本名と、私との関係は存じているな?」
    《え、ええ、はい》
     応答する声に、動揺の色が混じる。
    「答えてくれ」
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