黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・落葉抄 3

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    麒麟を巡る話、第543話。
    三段構えの謀略。

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    3.
     空は曇り始め、ごうごうと、風の唸る音が二人の間に響く。
    「戦う前にあたくしからも、教えていただきたいことがあるのですけれど」
    「なに?」
     素っ気なく答えた葵に、楓は虚を突かれ、思わず構えを解いてしまう。
    「答えていただけるのかしら?」
    「答えられることなら、いいよ」
    「こちらから何か提示しなくても?」
     葵も構えを解き、気だるげな様子を見せつつ、楓に応じる。
    「別にいいよ。くれるならもらうけど」
    「あなたが『ギブ&テイクが嫌い』と言っていたのは、確かなようですわね。
     あなた、あの時本気を出さなかったでしょう?」
    「うん」
     率直に答えられ、楓の顔に険が差す。
    「やはり、そうでしたのね。
     でも一体、何故ですの? 何故あの時、あなたは易々とあたくしたちの攻撃を許し、大月を明け渡すようなことを?」
    「結論から言えば、あたしたち白猫党が勝つためだよ」
    「意味が分かりませんわ」
     楓は大仰に両手を挙げ、再度尋ねる。
    「勝つために撤退? 矛盾しているでしょう?」
    「そうでもないよ。
     まず『第一段階』だけど、連合が既に焦げ付いてたのは、知ってるよね」
    「ええ。前主席体制より以前から続いていた『裏取引』問題ですわね。その他にもあなた方白猫党とのことも」
    「うん。で、次の主席になる人は、どうしてもそこら辺の問題を片付けなきゃいけなくなるし、大抵の人は尻込みする。
     よっぽど『勝てる』『解消できる』って自信や秘策のある人じゃなきゃ」
    「……!」
     葵の言葉の真意を悟り、楓の顔色が変わる。
    「それであたくしたちを勝たせたと……!?
     実績を上げた、いいえ、あなた方に『上げさせられた』あたくしたちを、いずれ兄が頼りにすると見越して、勝たせたと言うわけね!?」
    「頼りって言うより、政治の材料だけどね。
     とにかく、カシワさんはあたしたちの狙い通りの主張をして主席になったし、あなたもこうして、自信満々に正面攻撃を仕掛けてきてくれた。それが『第二段階』」
    「あたくしたちを叩きのめすことが目的、……ではないですわね。あたくしたちを本当に脅威であると見なしていたら、そもそもあなたの仰る『第一段階』で仕留めてしまえばいいことですものね」
    「うん。あなたたちのことは最初から、殺すつもりは無いよ。生きててもらわないと、『第三段階』に活かせないもの」
     葵の真意がつかめず、楓はけげんな顔をする。
    「あたくしたちを利用する、と言うことかしら」
    「うん。率直に言うけど、カシワさんって嫌な人だよね」
    「……えっ?」
     葵の口から自分の兄を謗(そし)る言葉が出てくるとは思わず、楓は三度驚かされる。
    「あの人の性格ならきっと、紅丹党の人たちがあたしたちに捕まれば、あっけなく見限るよ。あなたのことも含めて」
    「え、ええ、そうでしょうね。兄ならそうするでしょう、間違い無く」
    「でもその一方で、あの人はあなたも紅丹党の人も、『立派に戦って散った』とか、美化して公表するよ。間違っても自分が見捨てたなんて、そんな風には言わないだろうね。
     でもあたしたちに捕まった紅丹党の人たちが本当のことを触れ回ったら、どうなると思う?」
    「……そう。そう言うことですのね。
     あなた方はあたくしたちを捕まえた後、警備を緩めるなりなんなりして、わざと逃がす。逃げた紅丹党はいずれ兄が自分たちを見限ったことを知り、あいつの非道を伝える。
     元より兄は人を人と思わぬ冷血漢、陰険で傲慢な男ですもの。政敵は少なくないでしょうし、連合内で兄に対する不平・不満が充満していることも、察するに余りありますわ。
     紅丹党によって兄の非道が喧伝されれば、それをきっかけにあちこちから非難や追及の声が噴出し、政敵もその機に乗じろとばかりに、徹底的に糾弾するでしょうね。
     そうなれば、とても央南連合をまとめられるような状況では無くなる。結果、更迭は免れないでしょう。それどころか政治家として致命的に評判を落とし、ほぼ間違いなく政治生命を絶たれるでしょうね」
    「連合主席が二代続けて、それだけの大きな不祥事を起こせば、連合に対する信用、そして連合の権威も、決定的に地に落ちる。連合の意思統一や各州の意見調整なんて絶対できなくなるし、連合は確実に崩壊する。
     それが『第三段階』。後は各州ごとに陥落させるだけ」
    「……」
     計画を聞き終え、楓は沈黙する。
    「他に聞きたいことはある?」
    「もうございません。いいえ、あなたとはもう、口も聞きたくありませんわ」
     楓は刀を構え直し、煌々と火を灯した。
    「あなたは極悪人ですわ。いいえ、人であるとすら思えません。まるで悪魔のよう。
     あたくしたちの邦(くに)を分断し、破壊し、蹂躙する計画を、ぱらぱらと紙でもちぎるかのように話す、その軽く無責任な、心の無い口ぶり。
     その目論見の一つ一つが、あたくしたち央南人の心を、これ以上無いくらいにぶちりぶちりと引きちぎってきたと言うのに!」
    「それで?」
    「あなたの非道をこれ以上、見過ごしていられるものですか!
     アオイ・ハーミット! あたくしの全身全霊を以って、ここであなたを討たせていただきます!」
     楓は一足飛びに間合いを詰め、葵に斬り掛かった。
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