黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・落葉抄 5

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    麒麟を巡る話、第545話。
    英雄の再臨。

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    5.
    「そ、……『蒼天剣』!?」
     かつて散々、黄派焔流を馬鹿にしていた楓も、葵の言動には面食らっていた。
    「ありえませんわ! だってその刀は……」
    「うん。ちょっと前にコウカイに忍び込んで、盗んできた。
     すべてはあたしの『切り札』を完成させるために」
    「切り札、切り札って……。いい加減、見せてみては如何?」
     苛立つ楓に対し、葵は――ずっと無表情だった彼女には、本当に、本当に珍しいことだが――にこっと笑っていた。
    「もう少し、話させて。どうしても全部、話したいの」
     葵は嬉しそうに笑いながら、こう続けた。
    「この『切り札』を完成させるために、あたしはコントンさんとタイカさんを捕まえた。あの人たちの魔術を奪うために。そしてようやく、完成させたんだ。
     この秘術を」



     その瞬間、楓はありえないものを見た。

     一瞬前まで、「それ」は間違いなく葵だったはずなのだ。だが、そこにいた葵が、一瞬でまったく別の人間に姿を変えたのだ。
     山葵(わさび)色のもしゃもしゃとしたボブが、油っ気のないさらりとした黒髪の、高めのポニーテールに変わる。
     眠たげな松葉色の目が、切れ長の黒い目に変わる。
     顔立ちがより央南人に近くなり、背も10センチ近く伸びる。
    《どうだ。驚いたか、楓》
    「え……、え……?」
     発せられた声も、葵とは似ても似つかない。ささやくような、透明感のあった声が、今ははっきりとした、強い声に変わっている。
    《驚くのも無理は無い。今この場にいるはずの無い者だからな。
     そう、私はあの伝説の剣豪、『蒼天剣』の黄晴奈だ》
    「馬鹿なことを言わないで! あなたはアオイでしょう!?」
    《そう、先程まではな。しかし渾沌の秘術『人鬼』と、葵が本来持っている、他者の技や術を盗む能力により、私は全盛期の黄晴奈となり、ここに顕現したのだ。
     だからこそこの刀も、存分に振るうことができる。何故なら『晴空刀 蒼天』は私のためだけに、黒炎様が打った刀なのだからな》
    「晴奈」はにやりと笑い、腰に佩いていた刀を抜く。
     葵が握っていた時には、楓には何の変哲も無い刀に見えていたが、今は青い光に包まれ、体が凍りつくかと錯覚するような、あまりにも冷たい輝きを放っていた。
    「あ……ああ……あ……」
    《行くぞ。お主が見せてみろとせがんだ我が秘剣、『星剣舞』を――その身で存分に味わうがいいッ!》
    「……ひっ……」

     構える間もなく、「晴奈」の初太刀が楓を襲う。
    「うああっ……!」
     青い光がたなびいた直後、赤い血が視界を覆う。それでも懸命に己を奮い立たせ、どうにか構えたが――。
    「……う……うわあああああッ!?」
     次の瞬間、自分の両腕が、刀を握ったまま宙を飛んでいた。
    「いや……いやああ……嫌ああああーッ!」
     逃げ出そうとするが、楓はうつ伏せに倒れてしまう。立ち上がろうともがくが、爪先の感覚が無い。
     いや、爪先どころか、足首も、すねも、膝の感覚すらも――。
    「……ゃ……っ……」
     これ以上、自分に襲い来る惨劇を直視できず、楓の意識は失われた。



    《こんなものか。他愛も無い》
     再び現世に現れた「晴奈」は、八つ裂きになった楓の無残な姿を見て、フンと鼻で笑う。
     と、「晴奈」は突然、膝を着く。
    《む……、この辺りが限界か》
     術が解け、「晴奈」は葵に戻った。
    「……うえ……げ……げほっ、……うええっ」
     元に戻るなり、葵はその場にうずくまり、ガクガクと痙攣しながら、四つん這いになって嘔吐する。
    「はあっ、……はあっ、……ううう、うあ、あ、あっ」
     雨と、自分の汗で全身びしょ濡れになった葵はふらふらと立ち上がり、覚束ない足取りでその場から離れる。
    「『星剣舞』も、含めて、……20秒、くらい、が、……限界、か、な。
     ううん、あんまり、何回も、できそう、に、……ない。頭の、中が、破裂しそう、だった、し。あたしが、消えて、……無くなって、しまいそう、……だった。
     でも、これを使えば、今度こそ絶対に、……カズラを殺せる。それで、満足でしょ、……白猫」
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