「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第10部
白猫夢・落葉抄 6
麒麟を巡る話、第546話。
緊急搬送。
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6.
葵が立ち去ってから、わずか十数秒後。
「……?」
血の海と化した野原にあの「鉄の悪魔」、アルが現れた。
彼はきょろきょろと辺りを見回していたが、やがてけげんな声を漏らした。
「シンサがいない……?
ハーミットが回収したのか? いや、そんなことをする理由が無い。しかし自分で動ける状態でも決して無かったはずだ。とすれば、一体どこに……」
ぶつぶつと分析めいたことをつぶやいていたところに、とん、とんと肩を叩かれる。
「む……?」
振り向いたところで、アルの口にがつっ、と剣がねじ込まれた。
「ナ……ン……ダト……ッ」
「邪魔。色々と邪魔よ、あんた」
そのまま剣が水平に薙ぎ、アルの顔半分が飛ぶ。
アルを一瞬のうちに屠った渾沌は、ふう、とため息をついた。
「先生よりは回復が早かったけど、でもまだ全然ね。斬鉄一回が精一杯だわ」
それから2ヶ月後。
「……ん……」
楓は目を覚ました。
(……え……? あたくし……、生きてる、……の?)
「気が付いたようね」
と、楓の視界にのっぺらぼうが映る。
「っ……!?」
「どうしたの?」
「……あ」
よく見てみると、それは仮面だった。
「ま、目が覚めたようで何よりね。わたしは克渾沌。あなたの名前は?」
「……かえ……え……」
しゃべろうとするが、声が十分に出ない。
「ああ、ごめんね。まだくっついて間も無いから、しゃべれないわよね」
「く……つ……?」
「覚えてない? あなた、葵にバラバラにされたのよ」
「……あ……う……」
途切れ途切れに応じる楓に、渾沌はそっと指を伸ばす。
「まず、両腕と両脚。攻撃も防御も撤退もできなくなったところで、葵はさらに、あなたを細切れにしたのよ。
あなたは本当に運がいいわよ。普通、首を飛ばされたら死ぬもの」
「くい……を……?」
「声が出にくいのはそのせい。ま、トラス博士は優秀だから、もう数週間寝てれば完全にくっつくわよ。
それにしても、ひどいことするわよね。あなたみたいな可愛い子を、ここまでぶつ切りにするなんて」
「……あた……くし……」
「ま、寝てなさいな。今は寝るのが一番よ」
そう言って、渾沌は楓の額にちょん、と口付けした。
楓が目を覚まして以降、様々な人間が彼女の元を訪れた。
「おはようございます、アマハラ先輩。僕のこと覚えてますか?」
首をわずかに横に振った楓に、マークは残念そうな顔を向ける。
「マーク・トラス、……あ、そうか、マーク・セブルスです。562年上半期に天狐ゼミに入った」
「……」
再度、楓は首を横に振る。
「覚えてないんですね。……まあ、いいです。とりあえず主治医として、あなたの状態を説明しますね。
コントンさんから説明を受けたと思いますが、先輩はアオイさんによって全身を八つ裂きにされました。でも僕たちのチームが急いであなたの体を回収し、処置を施しました。
全治には半年から9ヶ月はかかる見込みだったんですが、それより大分早くなると思います。先輩の体は妙に代謝能力と言うか、自然治癒力が高くて、実はほとんどもう、くっついてるんです。と言うか先輩じゃなきゃ、処置なんて絶対無理な状態でした」
「……なえ」
「え?」
楓はのろのろと舌を動かし、マークに尋ねる。
「なえ……あたくしを?」
「救出した理由ですか?」
マークの問いに、今度は首を縦に振った。
「色々あります。まず、先輩が『アル』なる人物と接触し、力を授けてもらったこと。回復すれば貴重な戦力になると、ルナさんやコントンさんが言っていました。
それからアオイさんについて独自に調査していたみたいですから、何か僕たちの知らないことを知っているんじゃないか、と。
後は『よしみ』ですね。正直、ゼミ時代はちょっと苦手だなって思ってましたけど、やっぱり知ってる人が死にそうになってて、そしてそれを、いちかばちかでも助けられるって手段があったなら、助けたくなるのが人情ですしね」
「……」
楓は何も言わず、短く頭を下げた。
「よー、天原。久しぶりだな」
天狐を目にし、楓は思わず声を上げていた。
「てんこ……ちゃん……?」
「そーだよ、オレだよ。お前が入院したって聞いたからな、こうして駆けつけてやった」
「あり……あとう……」
「無理にしゃべんなくていいぜ。……あ、そうそう」
天狐は声を潜め、楓の狐耳に口を当てる。
「渾沌がお前のコト狙ってるみたいだぜ。なんでも『昔のわたしと似てて好み』らしい」
「え……れも」
「アイツは女が好きなんだ」
「……」
「あ、あのー……」
葛も、楓を見舞いにやって来た。
「この度はうちのバカ姉貴が本っ当に、申し訳ないコトをしました。代わりにならないかもですけど、あたしが謝罪します!」
深々と頭を下げられるが、楓には何がなんだか分からない。
「あの……?」
「あ、言い忘れてましたね。あたし、カズラ・ハーミットって言いますー。アオイの妹です、ごめんなさい」
「……べつに……いもうとさんに……あやまってもらうことは……」
「でも本当に、アイツがひどいコトしたし」
「……あやまって……もらうとしたら……ほんにんにれすわ……」
「絶対、アイツにも謝らせます。約束しますからっ」
「……ええ」
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葵が立ち去ってから、わずか十数秒後。
「……?」
血の海と化した野原にあの「鉄の悪魔」、アルが現れた。
彼はきょろきょろと辺りを見回していたが、やがてけげんな声を漏らした。
「シンサがいない……?
ハーミットが回収したのか? いや、そんなことをする理由が無い。しかし自分で動ける状態でも決して無かったはずだ。とすれば、一体どこに……」
ぶつぶつと分析めいたことをつぶやいていたところに、とん、とんと肩を叩かれる。
「む……?」
振り向いたところで、アルの口にがつっ、と剣がねじ込まれた。
「ナ……ン……ダト……ッ」
「邪魔。色々と邪魔よ、あんた」
そのまま剣が水平に薙ぎ、アルの顔半分が飛ぶ。
アルを一瞬のうちに屠った渾沌は、ふう、とため息をついた。
「先生よりは回復が早かったけど、でもまだ全然ね。斬鉄一回が精一杯だわ」
それから2ヶ月後。
「……ん……」
楓は目を覚ました。
(……え……? あたくし……、生きてる、……の?)
「気が付いたようね」
と、楓の視界にのっぺらぼうが映る。
「っ……!?」
「どうしたの?」
「……あ」
よく見てみると、それは仮面だった。
「ま、目が覚めたようで何よりね。わたしは克渾沌。あなたの名前は?」
「……かえ……え……」
しゃべろうとするが、声が十分に出ない。
「ああ、ごめんね。まだくっついて間も無いから、しゃべれないわよね」
「く……つ……?」
「覚えてない? あなた、葵にバラバラにされたのよ」
「……あ……う……」
途切れ途切れに応じる楓に、渾沌はそっと指を伸ばす。
「まず、両腕と両脚。攻撃も防御も撤退もできなくなったところで、葵はさらに、あなたを細切れにしたのよ。
あなたは本当に運がいいわよ。普通、首を飛ばされたら死ぬもの」
「くい……を……?」
「声が出にくいのはそのせい。ま、トラス博士は優秀だから、もう数週間寝てれば完全にくっつくわよ。
それにしても、ひどいことするわよね。あなたみたいな可愛い子を、ここまでぶつ切りにするなんて」
「……あた……くし……」
「ま、寝てなさいな。今は寝るのが一番よ」
そう言って、渾沌は楓の額にちょん、と口付けした。
楓が目を覚まして以降、様々な人間が彼女の元を訪れた。
「おはようございます、アマハラ先輩。僕のこと覚えてますか?」
首をわずかに横に振った楓に、マークは残念そうな顔を向ける。
「マーク・トラス、……あ、そうか、マーク・セブルスです。562年上半期に天狐ゼミに入った」
「……」
再度、楓は首を横に振る。
「覚えてないんですね。……まあ、いいです。とりあえず主治医として、あなたの状態を説明しますね。
コントンさんから説明を受けたと思いますが、先輩はアオイさんによって全身を八つ裂きにされました。でも僕たちのチームが急いであなたの体を回収し、処置を施しました。
全治には半年から9ヶ月はかかる見込みだったんですが、それより大分早くなると思います。先輩の体は妙に代謝能力と言うか、自然治癒力が高くて、実はほとんどもう、くっついてるんです。と言うか先輩じゃなきゃ、処置なんて絶対無理な状態でした」
「……なえ」
「え?」
楓はのろのろと舌を動かし、マークに尋ねる。
「なえ……あたくしを?」
「救出した理由ですか?」
マークの問いに、今度は首を縦に振った。
「色々あります。まず、先輩が『アル』なる人物と接触し、力を授けてもらったこと。回復すれば貴重な戦力になると、ルナさんやコントンさんが言っていました。
それからアオイさんについて独自に調査していたみたいですから、何か僕たちの知らないことを知っているんじゃないか、と。
後は『よしみ』ですね。正直、ゼミ時代はちょっと苦手だなって思ってましたけど、やっぱり知ってる人が死にそうになってて、そしてそれを、いちかばちかでも助けられるって手段があったなら、助けたくなるのが人情ですしね」
「……」
楓は何も言わず、短く頭を下げた。
「よー、天原。久しぶりだな」
天狐を目にし、楓は思わず声を上げていた。
「てんこ……ちゃん……?」
「そーだよ、オレだよ。お前が入院したって聞いたからな、こうして駆けつけてやった」
「あり……あとう……」
「無理にしゃべんなくていいぜ。……あ、そうそう」
天狐は声を潜め、楓の狐耳に口を当てる。
「渾沌がお前のコト狙ってるみたいだぜ。なんでも『昔のわたしと似てて好み』らしい」
「え……れも」
「アイツは女が好きなんだ」
「……」
「あ、あのー……」
葛も、楓を見舞いにやって来た。
「この度はうちのバカ姉貴が本っ当に、申し訳ないコトをしました。代わりにならないかもですけど、あたしが謝罪します!」
深々と頭を下げられるが、楓には何がなんだか分からない。
「あの……?」
「あ、言い忘れてましたね。あたし、カズラ・ハーミットって言いますー。アオイの妹です、ごめんなさい」
「……べつに……いもうとさんに……あやまってもらうことは……」
「でも本当に、アイツがひどいコトしたし」
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