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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第10部

    白猫夢・落葉抄 8

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    麒麟を巡る話、第548話。
    非・白猫の夢。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
     白猫党、そして葵の目論見は、すべてが現実のものとなった。
    「連合再統合の期待を寄せられたアマハラ氏がたった4ヶ月で更迭、後任が決まらず未だ紛糾、……と。もう連合もおしまいね」
    「そうだね」
     葵の自室にて、彼女とシエナが報告書を前に、会話を交わしていた。
    「この後は?」
    「東部にやったのと同じように交渉して。『あたしたちに下る』って言うのは納得しないし抵抗してくるけど、『あたしたちと協力する』だったら、すんなり応じるよ。
     後はうまいこと言って実質的に支配下に置けば、それで終わりだから」
    「分かったわ。……あのさ、アオイ」
     シエナはぺこっと、葵に頭を下げた。
    「この前はホント、ごめんね。ひどいコト言って」
    「気にしてないよ」
    「なら、いいけど」
    「これからも信じてくれるなら、いい」
    「そ、ソレはもう、勿論! 二度と疑ったりしないわ! ええ、絶対!」
    「ん」
    「……アオイ」
    「なに?」
     シエナは顔を伏せたまま、葵の両肩をつかむ。
    「アタシを、見捨てないでね」
    「……」
    「いつイビーザやロンダに寝首をかかれるか、不安でならないのよ……!
     こうしてアンタが一緒に寝てくれてなかったら、アタシ、一睡もできないのよ。ううん、ソレどころか、アンタがちょっと離れた途端、動悸が収まんなくなったり、息苦しくなったりするし……」
    「心配し過ぎだよ。あたしには、あの二人があなたを殺す未来なんて『見たことない』から」
    「……そ、そう?」
    「あたしの預言は外れない。そうでしょ?」
    「ええ、……ええ、そうね、ええ」
     ぶるぶると震えるシエナの手を肩からはがしながら、葵は淡々と返した。
    「眠いし、もう寝よう?」



     葵の見る夢はこの20年以上、一つしかなかった。白猫への「謁見」だけである。
     だから当然、この夢もその類と思っていた。
    「……」
     夢の中であるから、景色に大きな意味は無い。
     無機質な壁に囲まれていると思えば、いつの間にか森の中にいたりするし、ふと気が付けば駅前の繁華街にいることもある。
     白猫がいじったりしない限り、それらの光景はすべて、葵自身が以前に見たことのあるものが反映されていた。
    「あれ?」
     しかしこの光景は、一度も目にしたことが無かった。央南風の、どこかの家屋のようだが、葵には見覚えが無い。
     と、縁側に人影を見つける。庭からの逆光で見辛いが、どうやら猫獣人のようだった。
    「白猫?」
     葵はこれも白猫のいたずらじみた趣向と思い、そう呼びかける。
     だが、相手に反応は無い。こちらに背を向けたまま、じっとしている。
    「……」
     と、その人影が静かに振り向く。だがやはり、その顔は逆光のせいで確認できない。
    「誰?」
     葵がもう一度尋ねたところで、その人影が話しかけてきた。
    「大馬鹿者め」
    「え?」
     その声は白猫の、中性的な声ではない。強くはっきりとした、女性の声だった。
    「お前は己が成してきたこと、真に成すべきことの分からぬ、どうしようもない愚か者だ」
    「あなた、誰?」
     葵の質問に、影は答えない。
    「お前は、己の身の振りを省みたことがあるのか?」
     荒げこそしないものの、声色には少なからず、怒りが込められている。
    「お前がこれまで歩んできた20余年の道は、どれほど血にまみれていることか。それこそ『悪魔』と称されても申し開きのできぬ、鬼畜の所業ばかりで固められた道だ」
    「あなたに関係があるの?」
    「そしてこれからのことも、だ」
     葵の言葉に応じないまま、影からの叱責が続く。
    「お前はどんな理由や思惑があれ、いずれもう一度、妹に刃を向けることになる。このままではな。
     それをお前は、良しとするのか?」
    「するわけない。でも、仕方無いでしょ?」
    「阿呆が」
     影は音もなく立ち上がり、光を背にしたまま、葵に詰め寄る。
    「何を以って『仕方無いこと』と考えるのだ? 白猫には何を以ってしても逆らえぬと?」
    「そうでしょう?」
    「不可能ではないはずだ。事実、やった者はいる」
    「白猫に逆らうだけならできるよ。でも逆らったら、今度は……」
    「葛が取り込まれると懸念しているのか?」
    「そうだよ。それはあたしにとって……」「分からん奴だな、葵」
     影は葵のすぐ目の前まで迫り、そしてこう告げた。
    「葛はお前の後ろで守られるだけの存在では、既に無いのだ。
     そしてお前の前に立ちはだかる敵でも、決して無い。
     きっといつか、お前の横に立って、共に戦ってくれる者だ」
    「……!」



    「待って! それって……」
     葵ががば、と飛び起きる。
    「……ふあ?」
     だが、それに答えたのは夢の中の影ではなく、傍らのシエナだった。
    「どしたの……?」
    「……」
     葵は上半身を起こしたまま、黙り込む。
    「ねえ?」
    「……ごめん。寝ぼけた」
    「あ、……そ」
     やがてぽふ、と寝転び、葵はもう一度目を閉じた。

    白猫夢・落葉抄 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    明日、明後日に番外編を掲載しますが、ひとまず第10部はこれで終了です。

    今回もドロドロの権謀術数が展開された上に、二度、三度も陰湿な文章を書いたせいで、
    僕の心は今現在、かなり荒んでいます。



    少しでも自分の心を癒やしたいので、スカッとするような話を書いてから、
    最終部となる第11部の執筆に取り掛かりたいと思います。
    とりあえず今のところ、久々にあの短編を掲載すべく、執筆に取り掛かっています。
    この話は本当に分かりやすい、勧善懲悪モノ。書いてて楽しくなります。
    言葉遣いは多少、乱暴ですけども。

    「白猫夢 第11部」の完成は、もうちょっと先になります。
    完成したらツイッターで「終わった……!」とか「脱稿しました!」とかつぶやく予定です。
    上記の理由もあるので、恐らく7月末までには脱稿できると思います。

    ちょっとクサイことを書いてしまったので、いつものように隠しています。
    気になったら覗いてみてください。流石に気恥ずかしいですが。覗き方のヒントは、HTMLです。
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