DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 4 ~シーブズ・エクスプレス~ 1
年一回更新のウエスタン小説。
大陸横断鉄道。
1.
日本やフランス、その他欧州圏の人間には信じられない事実であろうが、アメリカ合衆国には現在に至るまで、「国鉄」なるものが存在したことが無い。つまりアメリカ合衆国が単独で、ひとつの鉄道会社や鉄道網を所有した事実は無いのだ。
即ち、アメリカ全土を網羅し、西部開拓史の象徴の一つにもなっている「鉄道」は全て在野、民間人の所有なのである。
開拓史を代表する鉄道網――その最たる例は何と言っても、「大陸横断鉄道」だろう。
西部開拓民が長年建設を要望していたこの鉄道網は、南北戦争中に着工された。それ故、この鉄道網には「合衆国の分断に歯止めをかける」と言う、政治的な目論見もあったとされている。
だが、そんな裏事情を抜きにしても、この鉄道には国家的な意義があったことは間違いない。事実、鉄道網の完成前には、東海岸から西海岸までの横断には数ヶ月を要していたが、完成後にはおよそ一週間にまで短縮されている。
交通網の劇的な充足は、西部の開拓をより一層加速させた。
一方で――この鉄道が2つのものを完膚なきまでに破壊したこともまた、厳然たる事実である。
一つは敷設用地の確保のため、インディアンの土地が大規模に奪われたこと。そしてもう一つは列車の安全運行のため、線路を横切るバッファローが大量に殺されたこと。
この鉄道網は、合衆国にとって大きな利益をもたらしたと共に、一つの文化、一つの種を「人為的に絶滅せしめた」と言う暗黒面も、同時に持ち合わせている。
そして、公には知られざるもう一つの暗黒面がこの時代、密かに存在していた。
「おーし、積み終わったな!」
黒塗りの貨物列車の中から、顔を布で隠した男が現れる。
「行くぞ! 火ぃ入れろッ!」
「了解っス!」
男の手下らしき数名が、先頭の機関車両に乗り込む。
「グズグズするなよ! もうじき夜明けだからな!」
「分かってますって! すぐ出せます!」
手下が答えた通り、間もなく機関車から蒸気が立ち上り始める。
「……へっ、来やがったな」
と、男が灯り一つ無い街中に、大きな影を見付ける。
「準備でき次第出せ! 保安官が馬で来てるぞ!」
「了解! 出ます!」
ぼおおお……、と音を立てて、機関車の煙突から白煙が噴き上がる。
「……アハハ、ハハ」
列車が動き出したと同時に、男は笑い出した。
「間抜けだねぇ、奴らときたら! 時代は既に『コイツ』なんだぜ? まーだ馬なんか使ってやがらぁ」
パン、パンとライフルの音が聞こえてくるが、男たちの乗る列車には到底、届かない。
「そんじゃ、ま」
男は保安官らしき影に、おどけた仕草で敬礼して見せる。
「お見送りご苦労さん、……ってか」
やがて影は街ごと、地平線の向こうへと消えていく。
列車が時速30マイルほどの速度に達した辺りで、男は顔から布を外した。
「ふう……」
あらわになったその顔を、地平線から昇ってきた朝日が照らす。
「今日もいーい天気になりそうだぜ」
男は貨物車の中に目をやり、手下たちを一瞥してから、隅に置いてあったバーボンの瓶を手に取る。
「祝杯と行こうや。我が強盗団が、今回の仕事も無事に成功させたことを祝って」
「ええ」「いただきます」
手下たちが酒瓶を手に取る一方で、男は機関車にいる手下にも声をかける。
「ほれ、お前も飲め」
「ありがとうございます、ボス」
にっこり笑って酒瓶を受け取った手下に向かって、男も満面の笑みで返す。
「いいってことよ。
よし、全員酒持ったな? それじゃ……、乾杯!」
男は――たった今、汚れ仕事を終えたばかりとは思えない――さわやかな仕草で、酒をあおった。
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大陸横断鉄道。
1.
日本やフランス、その他欧州圏の人間には信じられない事実であろうが、アメリカ合衆国には現在に至るまで、「国鉄」なるものが存在したことが無い。つまりアメリカ合衆国が単独で、ひとつの鉄道会社や鉄道網を所有した事実は無いのだ。
即ち、アメリカ全土を網羅し、西部開拓史の象徴の一つにもなっている「鉄道」は全て在野、民間人の所有なのである。
開拓史を代表する鉄道網――その最たる例は何と言っても、「大陸横断鉄道」だろう。
西部開拓民が長年建設を要望していたこの鉄道網は、南北戦争中に着工された。それ故、この鉄道網には「合衆国の分断に歯止めをかける」と言う、政治的な目論見もあったとされている。
だが、そんな裏事情を抜きにしても、この鉄道には国家的な意義があったことは間違いない。事実、鉄道網の完成前には、東海岸から西海岸までの横断には数ヶ月を要していたが、完成後にはおよそ一週間にまで短縮されている。
交通網の劇的な充足は、西部の開拓をより一層加速させた。
一方で――この鉄道が2つのものを完膚なきまでに破壊したこともまた、厳然たる事実である。
一つは敷設用地の確保のため、インディアンの土地が大規模に奪われたこと。そしてもう一つは列車の安全運行のため、線路を横切るバッファローが大量に殺されたこと。
この鉄道網は、合衆国にとって大きな利益をもたらしたと共に、一つの文化、一つの種を「人為的に絶滅せしめた」と言う暗黒面も、同時に持ち合わせている。
そして、公には知られざるもう一つの暗黒面がこの時代、密かに存在していた。
「おーし、積み終わったな!」
黒塗りの貨物列車の中から、顔を布で隠した男が現れる。
「行くぞ! 火ぃ入れろッ!」
「了解っス!」
男の手下らしき数名が、先頭の機関車両に乗り込む。
「グズグズするなよ! もうじき夜明けだからな!」
「分かってますって! すぐ出せます!」
手下が答えた通り、間もなく機関車から蒸気が立ち上り始める。
「……へっ、来やがったな」
と、男が灯り一つ無い街中に、大きな影を見付ける。
「準備でき次第出せ! 保安官が馬で来てるぞ!」
「了解! 出ます!」
ぼおおお……、と音を立てて、機関車の煙突から白煙が噴き上がる。
「……アハハ、ハハ」
列車が動き出したと同時に、男は笑い出した。
「間抜けだねぇ、奴らときたら! 時代は既に『コイツ』なんだぜ? まーだ馬なんか使ってやがらぁ」
パン、パンとライフルの音が聞こえてくるが、男たちの乗る列車には到底、届かない。
「そんじゃ、ま」
男は保安官らしき影に、おどけた仕草で敬礼して見せる。
「お見送りご苦労さん、……ってか」
やがて影は街ごと、地平線の向こうへと消えていく。
列車が時速30マイルほどの速度に達した辺りで、男は顔から布を外した。
「ふう……」
あらわになったその顔を、地平線から昇ってきた朝日が照らす。
「今日もいーい天気になりそうだぜ」
男は貨物車の中に目をやり、手下たちを一瞥してから、隅に置いてあったバーボンの瓶を手に取る。
「祝杯と行こうや。我が強盗団が、今回の仕事も無事に成功させたことを祝って」
「ええ」「いただきます」
手下たちが酒瓶を手に取る一方で、男は機関車にいる手下にも声をかける。
「ほれ、お前も飲め」
「ありがとうございます、ボス」
にっこり笑って酒瓶を受け取った手下に向かって、男も満面の笑みで返す。
「いいってことよ。
よし、全員酒持ったな? それじゃ……、乾杯!」
男は――たった今、汚れ仕事を終えたばかりとは思えない――さわやかな仕草で、酒をあおった。
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今見に来まして、知らずに別記事を先にアップしてしまいました。
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