DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 4 ~シーブズ・エクスプレス~ 3
ウエスタン小説、第3話。
三重のがっかり。
3.
今回の仕事に取り掛かった時点で、エミルはまず、3度落胆した。
まず1つ目は、同行する捜査官が、お世辞にも優秀とは言いがたい青年だったからである。
「はじめまして、クインシー捜査官。俺はパディントン探偵局のアデルバート・ネイサン。こっちはエミル・ミヌーだ」
「よろしく」
駅ではじめて顔を合わせた際、相手の捜査官はコチコチとした動作で、手を恐る恐る差し出してきた。
「よ、よろしくお願いします。ぼ、僕は、えっと、サミュエル・クインシーと、はい、申します、……ど、どうも」
吃音癖があるのか、もしくは極度の上がり症らしく、サム捜査官はこの短い挨拶でさえ、噛み気味に述べていた。
アデルは相手の差し出した手を握りつつ、やんわりと尋ねてみる。
「まあ、そんなに緊張なさらず。……失礼ですが、お仕事は何年ほど?」
「実は、あの、これが、はじめてで……、すみません」
「あら、そうなの?」
相手の頼りない返答に、エミルとアデルは目配せする。
(特務局って、何考えてんのかしらね? 重要な仕事って言ってたクセして、寄越すのはこんな若造?)
(連中も匙投げてんだろうな。『もうどうでもいいや』って感じが見え見えだぜ)
「あ、あのー……?」
その様子を伺っていたサムが、心配そうに二人を眺めてくる。
「ああ、いえ、何でも。
まあ、これから一緒に仕事するんですし、まずは肚を割って話しましょう。……敬語とかも無くて構いませんから」
「は、はい」
まずは打ち解けるため、三人は近くのサルーンに入った。
「コーヒーでいいかしら?」
「え、あ、はい」
依然おどおどとしているサムに、アデルがあれこれと尋ねる。
「で、サム。歳はいくつだ?」
「に、22です」
「へぇ、そうは見えないな。てっきり高校を出たてのハイティーンかと思ってたが」
「よく言われます」
「特務局に入ったきっかけは?」
「大学でスカウトされまして」
「大学? 何を専攻してたんだ?」
「えっと、あの、犯罪心理学って言って、何と言うか、その」
「いや、内容とかは別にいい。まあ、この業界向けのことをやってたってワケだ。
しかし大学で勉強してたってのと、あんたの性格からすれば、どっちかって言うと内勤向けだと思うんだがなぁ……? どうして俺たちと組むことに?」
「本当はそのはずだったんですけど、部長が『一度くらい現場を見た方がいい』って、それで、だから、ここに……」
「なるほどな。ま、そう言う事情なら、今回の事件はそこそこ安心して当たれると思うぜ。上も半分諦めてるような捜査だ。そこいらをうろついて、手がかりがありゃ報告して、無けりゃそれでおしまいだ。
そう考えりゃ、ちょっとした旅行みたいなもんだ。あんまり気負わなくていいぜ」
「は、はあ」
その後も1時間近くアデルはあれこれと話しかけていたが、サムの態度には結局、あまり開放的な変化は見られなかった。
いつまでもサムに構っていられないため、三人は本来の目的である、スターリング&レイノルズ鉄道本社へと向かった。
しかしそこで受けた対応もまた、エミルをがっかりさせるものだった。
「あぁん? パットン鑑定団と、連邦国富調査局?」
「パディントン探偵局と連邦特務捜査局です」
「知らねえなぁ。めんどくさそうだから、他当たってくれや」
社長と面会したところ、かなりぞんざいにあしらわれたからである。
「いえ、ですから御社の鉄道網においてですね……」
「知らねえなぁ」
「被害が出ていると……」
「うちにゃなーんにも盗まれたもんなんかねえ。他人が泥棒に遭ったとか言われても、関係ねえ」
「いや、しかし御社の鉄道網が不正に使用されて……」
「知らねえなぁ。うちんとこの通常運行にゃ、問題ねえらしいからなぁ。
なあ、あんたら。もう話すんのめんどくさいから、帰ってくれや」
取り付く島もなく、三人は憮然とした顔で応接室を後にした。
「何あれ? ふざけ過ぎでしょ」
「自分さえよけりゃ、って感じだな。反吐が出そうだったぜ」
先程のサルーンに戻り、エミルとアデルは憤慨する。
「態度からして、金だけ出してるみたいね」
「ああ。『寝てりゃ金が入ってくる』みたいな雰囲気だったな」
「どうしようもないわね。そのうち潰れるわ、あんな会社」
「同感。勝手に潰れりゃいいんだ」
と、サムが恐る恐る手を挙げる。
「これから、どうするんですか?」
「……どうしようも無いさ。社長があんな様子じゃ、現場の保全なんかもやっちゃいないだろう。手がかりはまず、残っちゃいないさ」
「つまりおしまいってことよ。もう帰るだけね」
「えっ、……えぇー……」
エミルが落胆した3つ目の理由は、今回の仕事があまりにも、馬鹿馬鹿しく感じられたためである。
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三重のがっかり。
3.
今回の仕事に取り掛かった時点で、エミルはまず、3度落胆した。
まず1つ目は、同行する捜査官が、お世辞にも優秀とは言いがたい青年だったからである。
「はじめまして、クインシー捜査官。俺はパディントン探偵局のアデルバート・ネイサン。こっちはエミル・ミヌーだ」
「よろしく」
駅ではじめて顔を合わせた際、相手の捜査官はコチコチとした動作で、手を恐る恐る差し出してきた。
「よ、よろしくお願いします。ぼ、僕は、えっと、サミュエル・クインシーと、はい、申します、……ど、どうも」
吃音癖があるのか、もしくは極度の上がり症らしく、サム捜査官はこの短い挨拶でさえ、噛み気味に述べていた。
アデルは相手の差し出した手を握りつつ、やんわりと尋ねてみる。
「まあ、そんなに緊張なさらず。……失礼ですが、お仕事は何年ほど?」
「実は、あの、これが、はじめてで……、すみません」
「あら、そうなの?」
相手の頼りない返答に、エミルとアデルは目配せする。
(特務局って、何考えてんのかしらね? 重要な仕事って言ってたクセして、寄越すのはこんな若造?)
(連中も匙投げてんだろうな。『もうどうでもいいや』って感じが見え見えだぜ)
「あ、あのー……?」
その様子を伺っていたサムが、心配そうに二人を眺めてくる。
「ああ、いえ、何でも。
まあ、これから一緒に仕事するんですし、まずは肚を割って話しましょう。……敬語とかも無くて構いませんから」
「は、はい」
まずは打ち解けるため、三人は近くのサルーンに入った。
「コーヒーでいいかしら?」
「え、あ、はい」
依然おどおどとしているサムに、アデルがあれこれと尋ねる。
「で、サム。歳はいくつだ?」
「に、22です」
「へぇ、そうは見えないな。てっきり高校を出たてのハイティーンかと思ってたが」
「よく言われます」
「特務局に入ったきっかけは?」
「大学でスカウトされまして」
「大学? 何を専攻してたんだ?」
「えっと、あの、犯罪心理学って言って、何と言うか、その」
「いや、内容とかは別にいい。まあ、この業界向けのことをやってたってワケだ。
しかし大学で勉強してたってのと、あんたの性格からすれば、どっちかって言うと内勤向けだと思うんだがなぁ……? どうして俺たちと組むことに?」
「本当はそのはずだったんですけど、部長が『一度くらい現場を見た方がいい』って、それで、だから、ここに……」
「なるほどな。ま、そう言う事情なら、今回の事件はそこそこ安心して当たれると思うぜ。上も半分諦めてるような捜査だ。そこいらをうろついて、手がかりがありゃ報告して、無けりゃそれでおしまいだ。
そう考えりゃ、ちょっとした旅行みたいなもんだ。あんまり気負わなくていいぜ」
「は、はあ」
その後も1時間近くアデルはあれこれと話しかけていたが、サムの態度には結局、あまり開放的な変化は見られなかった。
いつまでもサムに構っていられないため、三人は本来の目的である、スターリング&レイノルズ鉄道本社へと向かった。
しかしそこで受けた対応もまた、エミルをがっかりさせるものだった。
「あぁん? パットン鑑定団と、連邦国富調査局?」
「パディントン探偵局と連邦特務捜査局です」
「知らねえなぁ。めんどくさそうだから、他当たってくれや」
社長と面会したところ、かなりぞんざいにあしらわれたからである。
「いえ、ですから御社の鉄道網においてですね……」
「知らねえなぁ」
「被害が出ていると……」
「うちにゃなーんにも盗まれたもんなんかねえ。他人が泥棒に遭ったとか言われても、関係ねえ」
「いや、しかし御社の鉄道網が不正に使用されて……」
「知らねえなぁ。うちんとこの通常運行にゃ、問題ねえらしいからなぁ。
なあ、あんたら。もう話すんのめんどくさいから、帰ってくれや」
取り付く島もなく、三人は憮然とした顔で応接室を後にした。
「何あれ? ふざけ過ぎでしょ」
「自分さえよけりゃ、って感じだな。反吐が出そうだったぜ」
先程のサルーンに戻り、エミルとアデルは憤慨する。
「態度からして、金だけ出してるみたいね」
「ああ。『寝てりゃ金が入ってくる』みたいな雰囲気だったな」
「どうしようもないわね。そのうち潰れるわ、あんな会社」
「同感。勝手に潰れりゃいいんだ」
と、サムが恐る恐る手を挙げる。
「これから、どうするんですか?」
「……どうしようも無いさ。社長があんな様子じゃ、現場の保全なんかもやっちゃいないだろう。手がかりはまず、残っちゃいないさ」
「つまりおしまいってことよ。もう帰るだけね」
「えっ、……えぇー……」
エミルが落胆した3つ目の理由は、今回の仕事があまりにも、馬鹿馬鹿しく感じられたためである。
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