DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 4 ~シーブズ・エクスプレス~ 4
ウエスタン小説、第4話。
捜査続行。
4.
その日の晩、三人はサルーンの1階に集まって夕食を取っていた。
「あのー」
と、サムが恐る恐る尋ねてくる。
「どうした?」
「本当にもう、調査は……」
「ああ」
アデルは一瞬周りを見回し、サムに目配せした。
「えっ?」
しかし、要領の悪いサムはきょとんとしている。
見かねたエミルが、サムの椅子を蹴っ飛ばす。サムは椅子ごと、床へ横倒しになった。
「おわっ!?」
「ごめんなさいね、引っ掛けちゃったわ」
「あいてて……、ひ、ひどいですよ」
立ち上がろうとしたサムを、アデルが助け起こし――ているように見せかけ、彼の耳元で囁く。
(勿論、これで終わりなんてことは無いぜ)
「えっ?」
(バカ、声がでかい)
「……あ、すみません」
「ったく、大丈夫かよ、お前さん」
サムが椅子に座り直したところで、アデルは口元をフォークで指し示した。
(詳しいことは部屋で話す。後でお前の部屋に集まろう)
「……」
口の動きだけで示したアデルに、サムはぎこちなくうなずいて返した。
夜遅く、三人はサムの泊まる部屋に集まった。
「明日早く、S&R鉄道の車輌基地に忍び込むぞ」
「え? ど、どうしてですか?」
「ちょっと気になってな。お前さんも、あの社長がバカそうだってことは感じただろ?」
「え、ええ、まあ、そう言う言い方は、えっと、……まあ、でも、はい」
「あの社長の態度からすると、S&R鉄道の管理体制はかなり甘そうだ。
『らしい』だの『めんどくさい』だのこぼしてたし、あのバカ社長は恐らく、人員や車輌とかの細かい管理については全部、人任せにしてるんだろう。
となりゃ、実際に管理してる奴なり外部の奴なりが、何かしらピンハネできるんじゃないか? 俺はそう考えた」
「『何かしら』? それってつまり……」
尋ねたエミルに、アデルは深々とうなずいた。
「ああ。考えてみりゃ、そこいらの泥棒が列車を1輌まるまる手に入れられるなんてこと、そうそう有るわけが無い。あそこみたいに、よっぽど管理の緩い鉄道会社から盗んだのでもなけりゃな」
「そもそも、あの社長の態度も怪しいわよね。さっさと帰って欲しそうにしてたし。いかにも『秘密を抱えてます』って感じ」
「確かにな。もしかしたら、もしかするかも知れんぜ。
で、その裏付けのために明日、車輌基地を調べる。……と言うわけでだ、今日はもう寝ちまおう」
「わっ、分かりました!」
ようやく「らしい」仕事ができると分かり、サムは嬉しそうに敬礼する。
「おいおい、大げさだなぁ」
アデルも笑いながら、敬礼を返した。
日付が変わり、未明頃。
エミルたち三人は密かに、S&R鉄道の車輌基地前に集まっていた。
「見張りは?」
「いないわ」
最も身軽なエミルが基地の外壁に登り、双眼鏡で安全を確認する。
「本当、管理がなってないわね。守衛所みたいなのがあるけど、中で2人、ぐっすり寝てるわ。酒瓶抱えて」
「とんでもない会社だなぁ。マジで潰れるぜ」
エミルが先んじて中に入り、内側から門を開ける。アデルとサムはそのまま、門から侵入した。
「他に見回ってるらしい人影も無し。調べ放題ね」
「よし、じゃあちゃっちゃと回っちまおう」
三人はまず、倉庫へと向かう。
「ん……、と」
「それらしいのがあったぜ」
入って間もなく、アデルが箱を棚から下ろす。
「『18XX下半期 車輌管理リスト』。……はは、こりゃひでえ」
アデルが中の書類を確認し、顔をひきつらせる。
「どうしたの?」
「大当たりだ。3年前の9月、ユニオン・パシフィック鉄道から蒸気機関車8輌を購入してる。
だが月末に、『7輌の間違い』って訂正されてる。しかし9月の半ばまでには、8輌分の運行記録が付けられている。
いくらなんでも、こんなもんでごまかせないっつの」
「杜撰(ずさん)もいいところね。社長は気付かなかったのかしらね?」
「あの調子じゃ、気付いちゃいないだろうな。それともグルだったか」
その他の資料を確かめれば確かめるほど、この会社がいかに放漫な管理体制であるかが判明していった。
「この3年間でちょくちょく、機関車の予備パーツやら保安部品やらの数が合わないことが起こっているらしい。
明らかに盗まれてるが、……ま、社長にバレたらまずいってことなんだろ、無理矢理帳尻合わせてごまかしてるな」
「ここまで来ると、恐らく社長は無関係ね。もし一枚噛んでるなら、ここの管理記録に残る前にガメるでしょうし」
「だろうな。そしてここの奴らも無関係だろう。……関係するまでも無いからな。外から堂々盗めちまうし」
流石のサムも、「これはひどいですね、本当に」とつぶやいていた。
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捜査続行。
4.
その日の晩、三人はサルーンの1階に集まって夕食を取っていた。
「あのー」
と、サムが恐る恐る尋ねてくる。
「どうした?」
「本当にもう、調査は……」
「ああ」
アデルは一瞬周りを見回し、サムに目配せした。
「えっ?」
しかし、要領の悪いサムはきょとんとしている。
見かねたエミルが、サムの椅子を蹴っ飛ばす。サムは椅子ごと、床へ横倒しになった。
「おわっ!?」
「ごめんなさいね、引っ掛けちゃったわ」
「あいてて……、ひ、ひどいですよ」
立ち上がろうとしたサムを、アデルが助け起こし――ているように見せかけ、彼の耳元で囁く。
(勿論、これで終わりなんてことは無いぜ)
「えっ?」
(バカ、声がでかい)
「……あ、すみません」
「ったく、大丈夫かよ、お前さん」
サムが椅子に座り直したところで、アデルは口元をフォークで指し示した。
(詳しいことは部屋で話す。後でお前の部屋に集まろう)
「……」
口の動きだけで示したアデルに、サムはぎこちなくうなずいて返した。
夜遅く、三人はサムの泊まる部屋に集まった。
「明日早く、S&R鉄道の車輌基地に忍び込むぞ」
「え? ど、どうしてですか?」
「ちょっと気になってな。お前さんも、あの社長がバカそうだってことは感じただろ?」
「え、ええ、まあ、そう言う言い方は、えっと、……まあ、でも、はい」
「あの社長の態度からすると、S&R鉄道の管理体制はかなり甘そうだ。
『らしい』だの『めんどくさい』だのこぼしてたし、あのバカ社長は恐らく、人員や車輌とかの細かい管理については全部、人任せにしてるんだろう。
となりゃ、実際に管理してる奴なり外部の奴なりが、何かしらピンハネできるんじゃないか? 俺はそう考えた」
「『何かしら』? それってつまり……」
尋ねたエミルに、アデルは深々とうなずいた。
「ああ。考えてみりゃ、そこいらの泥棒が列車を1輌まるまる手に入れられるなんてこと、そうそう有るわけが無い。あそこみたいに、よっぽど管理の緩い鉄道会社から盗んだのでもなけりゃな」
「そもそも、あの社長の態度も怪しいわよね。さっさと帰って欲しそうにしてたし。いかにも『秘密を抱えてます』って感じ」
「確かにな。もしかしたら、もしかするかも知れんぜ。
で、その裏付けのために明日、車輌基地を調べる。……と言うわけでだ、今日はもう寝ちまおう」
「わっ、分かりました!」
ようやく「らしい」仕事ができると分かり、サムは嬉しそうに敬礼する。
「おいおい、大げさだなぁ」
アデルも笑いながら、敬礼を返した。
日付が変わり、未明頃。
エミルたち三人は密かに、S&R鉄道の車輌基地前に集まっていた。
「見張りは?」
「いないわ」
最も身軽なエミルが基地の外壁に登り、双眼鏡で安全を確認する。
「本当、管理がなってないわね。守衛所みたいなのがあるけど、中で2人、ぐっすり寝てるわ。酒瓶抱えて」
「とんでもない会社だなぁ。マジで潰れるぜ」
エミルが先んじて中に入り、内側から門を開ける。アデルとサムはそのまま、門から侵入した。
「他に見回ってるらしい人影も無し。調べ放題ね」
「よし、じゃあちゃっちゃと回っちまおう」
三人はまず、倉庫へと向かう。
「ん……、と」
「それらしいのがあったぜ」
入って間もなく、アデルが箱を棚から下ろす。
「『18XX下半期 車輌管理リスト』。……はは、こりゃひでえ」
アデルが中の書類を確認し、顔をひきつらせる。
「どうしたの?」
「大当たりだ。3年前の9月、ユニオン・パシフィック鉄道から蒸気機関車8輌を購入してる。
だが月末に、『7輌の間違い』って訂正されてる。しかし9月の半ばまでには、8輌分の運行記録が付けられている。
いくらなんでも、こんなもんでごまかせないっつの」
「杜撰(ずさん)もいいところね。社長は気付かなかったのかしらね?」
「あの調子じゃ、気付いちゃいないだろうな。それともグルだったか」
その他の資料を確かめれば確かめるほど、この会社がいかに放漫な管理体制であるかが判明していった。
「この3年間でちょくちょく、機関車の予備パーツやら保安部品やらの数が合わないことが起こっているらしい。
明らかに盗まれてるが、……ま、社長にバレたらまずいってことなんだろ、無理矢理帳尻合わせてごまかしてるな」
「ここまで来ると、恐らく社長は無関係ね。もし一枚噛んでるなら、ここの管理記録に残る前にガメるでしょうし」
「だろうな。そしてここの奴らも無関係だろう。……関係するまでも無いからな。外から堂々盗めちまうし」
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