DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 4 ~シーブズ・エクスプレス~ 5
ウエスタン小説、第5話。
名策士で名士で名探偵で。
5.
「……と言うわけで、この会社がそもそもの元凶って感じでした」
《ははは……、とんでもない会社だったもんだ》
アデルからの報告を受け、パディントン局長が電話の向こうで大笑いする。
《分かった。私のツテを使って、そこに監査を送らせよう。
株式会社だから、株主総会で管理体制の甘さと粉飾について糾弾すれば即、社長は解任されるだろう》
「そこまでするんですか?」
驚いたアデルに、局長の真面目な声が返ってくる。
《そんなコソ泥御用達のような会社がいつまでものさばっていては、はっきり言って社会の悪だ。株式を持っている資産家たちにも迷惑だしな》
「……まさか局長、S&Rの株を持ってたりなんかしませんよね?」
《私は杜撰な投機などやらん。持ってる有価証券と言えば、アメリカとヨーロッパ数ヶ国の国債くらいだ。後は友人の会社の株、いずれも1%以下程度だな。『資産は手堅く、博打は打たず』が私の座右の銘だよ。
ま、私の友人の中には、そこのを持ってる奴がいるかも知れんがね》
局長がうそぶいた通り、ものの3日で、S&R鉄道株式会社に会計事務所の人間が押し寄せた。
そして局長の読み通り――会計事務所によって山のような不正・粉飾が次々と暴かれ、S&R鉄道の業務は即座に停止した。
「だからあのバカ社長、追い出したがったのね」
「今も揉めてるらしいぜ。まーだ『なんも知らねえ、帰ってくれ』ってごねてるらしい」
「とんでもないですね」
大手を振って調査を行えるようになったため、三人は再び、S&R鉄道の車輌基地内にいた。
ただし、今度は会計事務所の人間があちこちで監査を行う中での調査である。
「すみません、そっちには触れないで下さい」
「あ、悪り」
「そっちもまだ手を付けてないので……」
「あら、そう」
「触んないでって言ってるでしょう!」
「ご、ごめんなさい、あの、すみません、本当……」
調べようとする度に検査員に止められるため、結局、三人は調査を切り上げてサルーンに戻った。
「ま、落ち着くまで待つとするか」
「そうね。時間はたっぷりあるし」
「いや、でも、僕は……」
困った顔をするサムに、アデルがこう返す。
「局長から頼んで、出向期間を伸ばしてくれるらしいぜ。
本来の目的じゃないが、ここの不正もそこそこ大きな事件になったっぽいからな。もう大手の新聞にも記事が出てるくらいだし、特務捜査局もホクホクだって言ってた」
「そ、そうですか、それなら、ええ」
と――じりりん、とサルーンの電話が鳴り、マスターが出る。
「まいど、……あん? どちらさんで? ……へ? ああ、それっぽい人たちなら確かに、うちにいますよ」
マスターは受話器を手で塞ぎ、怪訝な顔でエミルたちに声をかける。
「パディントン探偵局ってとこから電話が来たんだけど、あんたたち知ってるか?」
「へっ?」
アデルは目を点にする。
「ああ、関係者だけど……」
「そうか。局長さんから電話来てるよ」
「ど、ども。……マジかよ」
たどたどしく席を立ち、電話に出たアデルを眺めながら、エミルはつぶやく。
「ほんっと、名探偵だこと」
「アデルさんがですか?」
きょとんとしながら尋ねたサムに、エミルはぱたぱたと手を振って答える。
「違うわ、パディントン局長よ。
よくもまあ、遠く離れた東部のオフィスから、あたしたちがこのサルーンにいるって分かったもんね、……ってことよ」
「……そう、ですね」
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名策士で名士で名探偵で。
5.
「……と言うわけで、この会社がそもそもの元凶って感じでした」
《ははは……、とんでもない会社だったもんだ》
アデルからの報告を受け、パディントン局長が電話の向こうで大笑いする。
《分かった。私のツテを使って、そこに監査を送らせよう。
株式会社だから、株主総会で管理体制の甘さと粉飾について糾弾すれば即、社長は解任されるだろう》
「そこまでするんですか?」
驚いたアデルに、局長の真面目な声が返ってくる。
《そんなコソ泥御用達のような会社がいつまでものさばっていては、はっきり言って社会の悪だ。株式を持っている資産家たちにも迷惑だしな》
「……まさか局長、S&Rの株を持ってたりなんかしませんよね?」
《私は杜撰な投機などやらん。持ってる有価証券と言えば、アメリカとヨーロッパ数ヶ国の国債くらいだ。後は友人の会社の株、いずれも1%以下程度だな。『資産は手堅く、博打は打たず』が私の座右の銘だよ。
ま、私の友人の中には、そこのを持ってる奴がいるかも知れんがね》
局長がうそぶいた通り、ものの3日で、S&R鉄道株式会社に会計事務所の人間が押し寄せた。
そして局長の読み通り――会計事務所によって山のような不正・粉飾が次々と暴かれ、S&R鉄道の業務は即座に停止した。
「だからあのバカ社長、追い出したがったのね」
「今も揉めてるらしいぜ。まーだ『なんも知らねえ、帰ってくれ』ってごねてるらしい」
「とんでもないですね」
大手を振って調査を行えるようになったため、三人は再び、S&R鉄道の車輌基地内にいた。
ただし、今度は会計事務所の人間があちこちで監査を行う中での調査である。
「すみません、そっちには触れないで下さい」
「あ、悪り」
「そっちもまだ手を付けてないので……」
「あら、そう」
「触んないでって言ってるでしょう!」
「ご、ごめんなさい、あの、すみません、本当……」
調べようとする度に検査員に止められるため、結局、三人は調査を切り上げてサルーンに戻った。
「ま、落ち着くまで待つとするか」
「そうね。時間はたっぷりあるし」
「いや、でも、僕は……」
困った顔をするサムに、アデルがこう返す。
「局長から頼んで、出向期間を伸ばしてくれるらしいぜ。
本来の目的じゃないが、ここの不正もそこそこ大きな事件になったっぽいからな。もう大手の新聞にも記事が出てるくらいだし、特務捜査局もホクホクだって言ってた」
「そ、そうですか、それなら、ええ」
と――じりりん、とサルーンの電話が鳴り、マスターが出る。
「まいど、……あん? どちらさんで? ……へ? ああ、それっぽい人たちなら確かに、うちにいますよ」
マスターは受話器を手で塞ぎ、怪訝な顔でエミルたちに声をかける。
「パディントン探偵局ってとこから電話が来たんだけど、あんたたち知ってるか?」
「へっ?」
アデルは目を点にする。
「ああ、関係者だけど……」
「そうか。局長さんから電話来てるよ」
「ど、ども。……マジかよ」
たどたどしく席を立ち、電話に出たアデルを眺めながら、エミルはつぶやく。
「ほんっと、名探偵だこと」
「アデルさんがですか?」
きょとんとしながら尋ねたサムに、エミルはぱたぱたと手を振って答える。
「違うわ、パディントン局長よ。
よくもまあ、遠く離れた東部のオフィスから、あたしたちがこのサルーンにいるって分かったもんね、……ってことよ」
「……そう、ですね」
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