DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 4 ~シーブズ・エクスプレス~ 9
ウエスタン小説、第9話。
機関車バカ。
9.
「な、……なんだよ?」
男はぎょっとした表情を浮かべ、モンキーレンチを握りしめる。
「動くな。もしそいつをぶん回そうとしたら、俺のウィンチェスターが先に火を噴くぜ」
「あんたら、まさか強盗なのか? 黒い格好してるし……」
「どっちが強盗だよ」
「何がだよ?」
男とアデルとの問答を眺めていたエミルが、首を傾げる。
「とりあえず、名前から聞いていいかしら」
「誰の?」
「あなたに決まってるでしょ」
「俺か? 俺はロドニー・リーランドだ」
「リーランド? もしかしてこの会社の……」
「あー、それは親父のやつ。
8年前に親父が死んだんで、会社を畳んだんだ。そんでたっぷり遺産ができたし、俺はそいつで隠居暮らししてる。んで、趣味の機関車改造にどっぷり没頭してる。
俺についてはそんなとこだ。オーケー?」
「オーケーよ。じゃあリッチバーグで盗みを働いたのは、あなたじゃないのね」
「誰がそんなことするもんか。カネなら腐るほどある」
「マジかよ」
フン、と鼻を鳴らしたロドニーの態度に、背後にいたアデルは唖然とする。
「後ろの兄さんよぉ、もういいだろ? そんなもん向けなくてもよぉ」
「あ、……おう」
アデルが小銃を収めたところで、今度はロドニーが質問してくる。
「盗みとか強盗とか、何の話だ?」
「不正に列車を動かして、この辺りの街を襲って強盗しまくってる奴らがいるのよ。あたしたちはそれを調べに来た、東部の探偵」
「あ、僕は探偵じゃなくて……」
サムの説明に耳を貸さず、ロドニーはぎょろ、と目をむいた。
「なんだって? 列車を使って強盗だぁ?」
「ええ」
「ふてえ奴らだな、そりゃあ! 列車好きの俺としちゃ、許せん話だぜ!
よおし、そんなら俺が一肌脱いでやろうじゃねえか!」
「え?」
「物心ついた時からこの辺りの線路は渡り尽くしてるし、どの路線をどの車輌が通るかってのもバッチリ把握してるんだ。そう言うふてぶてしい奴らがどこを通りそうか、ピンと来るってもんさ。
ちょっと来い」
ロドニーはモンキーレンチを肩に担ぎながら、三人に付いてくるよう促す。
言われるまま付いていくと、やがてロドニーは、昔はそれなりに威厳をにじませていたと思われる、足跡だらけのドアの前に立ち、それを蹴っ飛ばして押し開いた。
「こいつがここら辺の路線図だ」
昔は社長室として使っていたであろうその部屋に入るなり、ロドニーはモンキーレンチで壁を指し示した。
「あのド真ん中の赤い点が、このマーシャルスプリングスだ。見ての通り、ここもそれなりに路線が重なってるが、そこから北東に数十マイル行くと、……ほれ、あの辺り。
ここよりもっと、色んな鉄道会社の路線が交差してるだろ? いわゆる交通結節点なんだ、あの辺りは。もっとも、地下水が湧いてるマーシャルスプリングスと違って、水とかの生活に必要なモノが近くに無いから、街は作れなかったらしいがな」
「となると、もしかしたら強盗団も、ここを通る可能性がありますね」
冷静に分析したサムに、ロドニーはニヤッと笑って返す。
「おうよ。だからあの周りで列車を転がして待ち構えてりゃ、出くわしても全然おかしかねえ。
ってわけで、だ」
2時間後――ロドニー自慢の改造蒸気機関車、HKP6900改は煙突からごうごうと白煙を噴き上げ、西部の荒野を驀進(ばくしん)していた。
「ひっ、ひいいい~っ……」
「おいおいおいおい、大丈夫かよ!?」
機関車後部に取り付けられた炭水車の、そのさらに後方で引っ張られている客車から、サムと、そしてアデルの悲鳴が上がる。
何故なら熱心に整備された機関車とは違い、客車は8年前から放置されていたものを、何の補修もせずに取り付けただけなのである。
ボロボロの客車には窓も扉も無く、うっすらと明るくなり始めた地平線が覗いている。そのスカスカな光景に、流石のエミルも若干、顔を青くしている。
「ねえ、リーランドさん! 客車、真っ二つに折れそうなんだけど!?」
三人が口々に怒鳴るが、機関部が立てる爆音か、もしくは猛烈な風切り音にかき消されているらしく、ロドニーからは何の返事も無い。
その代わりに、のんきな歌声が機関部の方から聞こえてくる。
「せーんろっではったらーくぜー、いーっちにーちーじゅーうっ♪」
ギシギシと軋む客車の中で、アデルがぼそ、とつぶやいた。
「あの機関車バカめ……。停まったらブン殴ってやる」
「無事に停まれれば、……ね」
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機関車バカ。
9.
「な、……なんだよ?」
男はぎょっとした表情を浮かべ、モンキーレンチを握りしめる。
「動くな。もしそいつをぶん回そうとしたら、俺のウィンチェスターが先に火を噴くぜ」
「あんたら、まさか強盗なのか? 黒い格好してるし……」
「どっちが強盗だよ」
「何がだよ?」
男とアデルとの問答を眺めていたエミルが、首を傾げる。
「とりあえず、名前から聞いていいかしら」
「誰の?」
「あなたに決まってるでしょ」
「俺か? 俺はロドニー・リーランドだ」
「リーランド? もしかしてこの会社の……」
「あー、それは親父のやつ。
8年前に親父が死んだんで、会社を畳んだんだ。そんでたっぷり遺産ができたし、俺はそいつで隠居暮らししてる。んで、趣味の機関車改造にどっぷり没頭してる。
俺についてはそんなとこだ。オーケー?」
「オーケーよ。じゃあリッチバーグで盗みを働いたのは、あなたじゃないのね」
「誰がそんなことするもんか。カネなら腐るほどある」
「マジかよ」
フン、と鼻を鳴らしたロドニーの態度に、背後にいたアデルは唖然とする。
「後ろの兄さんよぉ、もういいだろ? そんなもん向けなくてもよぉ」
「あ、……おう」
アデルが小銃を収めたところで、今度はロドニーが質問してくる。
「盗みとか強盗とか、何の話だ?」
「不正に列車を動かして、この辺りの街を襲って強盗しまくってる奴らがいるのよ。あたしたちはそれを調べに来た、東部の探偵」
「あ、僕は探偵じゃなくて……」
サムの説明に耳を貸さず、ロドニーはぎょろ、と目をむいた。
「なんだって? 列車を使って強盗だぁ?」
「ええ」
「ふてえ奴らだな、そりゃあ! 列車好きの俺としちゃ、許せん話だぜ!
よおし、そんなら俺が一肌脱いでやろうじゃねえか!」
「え?」
「物心ついた時からこの辺りの線路は渡り尽くしてるし、どの路線をどの車輌が通るかってのもバッチリ把握してるんだ。そう言うふてぶてしい奴らがどこを通りそうか、ピンと来るってもんさ。
ちょっと来い」
ロドニーはモンキーレンチを肩に担ぎながら、三人に付いてくるよう促す。
言われるまま付いていくと、やがてロドニーは、昔はそれなりに威厳をにじませていたと思われる、足跡だらけのドアの前に立ち、それを蹴っ飛ばして押し開いた。
「こいつがここら辺の路線図だ」
昔は社長室として使っていたであろうその部屋に入るなり、ロドニーはモンキーレンチで壁を指し示した。
「あのド真ん中の赤い点が、このマーシャルスプリングスだ。見ての通り、ここもそれなりに路線が重なってるが、そこから北東に数十マイル行くと、……ほれ、あの辺り。
ここよりもっと、色んな鉄道会社の路線が交差してるだろ? いわゆる交通結節点なんだ、あの辺りは。もっとも、地下水が湧いてるマーシャルスプリングスと違って、水とかの生活に必要なモノが近くに無いから、街は作れなかったらしいがな」
「となると、もしかしたら強盗団も、ここを通る可能性がありますね」
冷静に分析したサムに、ロドニーはニヤッと笑って返す。
「おうよ。だからあの周りで列車を転がして待ち構えてりゃ、出くわしても全然おかしかねえ。
ってわけで、だ」
2時間後――ロドニー自慢の改造蒸気機関車、HKP6900改は煙突からごうごうと白煙を噴き上げ、西部の荒野を驀進(ばくしん)していた。
「ひっ、ひいいい~っ……」
「おいおいおいおい、大丈夫かよ!?」
機関車後部に取り付けられた炭水車の、そのさらに後方で引っ張られている客車から、サムと、そしてアデルの悲鳴が上がる。
何故なら熱心に整備された機関車とは違い、客車は8年前から放置されていたものを、何の補修もせずに取り付けただけなのである。
ボロボロの客車には窓も扉も無く、うっすらと明るくなり始めた地平線が覗いている。そのスカスカな光景に、流石のエミルも若干、顔を青くしている。
「ねえ、リーランドさん! 客車、真っ二つに折れそうなんだけど!?」
三人が口々に怒鳴るが、機関部が立てる爆音か、もしくは猛烈な風切り音にかき消されているらしく、ロドニーからは何の返事も無い。
その代わりに、のんきな歌声が機関部の方から聞こえてくる。
「せーんろっではったらーくぜー、いーっちにーちーじゅーうっ♪」
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