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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 4 ~シーブズ・エクスプレス~ 11

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    ウエスタン小説、第11話。
    時速100キロの真上で。

    11.
    「あんたら、無事だったか!」
     6900改の機関室に移ってきたエミルたちを見て、ロドニーがほっとした表情を浮かべる。
    「何とかね」
    「いや、死人が出なくて良かったぜ、まったく。
     にしても後ろの野郎、ぶつけてくるとはな! イカれてんのかよ、マジでよぉ!?」
     依然として敵機関車は6900改のすぐ後ろにおり、この時、ほとんど同じ速度で動いていた。
    「もっと速度出せないの? あいつらまた、追突してくるかも知れないわよ」
    「これが全速力だ。これ以上出すと炉が灼けついちまう。
     にしても、俺の6900改に付いてくるとはな……。向こうのを整備してるヤツも、相当腕がいいみたいだぜ」
    「どうすれば停められる?」
     尋ねたアデルに、ロドニーは苦い顔を返す。
    「ぶっちゃけ、6900改が急減速すりゃ、向こうにとっちゃ鉄の壁が猛スピードで迫ってくるようなもんだからな。ぶつかりゃ向こうが脱線、大破する。
     だがこっちだって無事じゃいられねえ。間違いなくこっちもブッ飛ぶし、そうなりゃ俺も含めて、今度こそあんたらはあの世行きだ」
    「じゃあこれだけ外すって言うのは、ど、どうでしょう? 非常に重たいでしょうし、少なからず、その、ダメージを与えることができると思うんですが……」
     そう言って、サムが後ろの炭水車を指差す。
    「バカ言うなよ」
     が、ロドニーはその意見を一蹴する。
    「運良く後ろのヤツらを停められたとしてもだ、その後どうすんだよ? 燃料が無きゃ、機関車は動かねーんだぜ。
     うまく停まってくれるか分かんねーのに、外した直後に急停車なんかできねー。ある程度は走らにゃならんし、そりゃ10マイル、20マイルって短距離にゃ留められん。
     炭水車から遠く離れたところで停まったが最後、機関車はそこで立ち往生だ。もう自力じゃ動かせなくなる。
     そうなりゃ、後ろのヤツと合わせて数十マイルに渡って線路を塞いじまうことになるぜ」
    「あ……、そ、そうですね」
    「じゃあ、客車はどうだ?」
     アデルの提案にも、ロドニーは苦い顔をする。
    「駄目だ、軽過ぎる。弾き飛ばされるだけだ」
    「じゃあ、両方の案を合わせてみたら?」
     エミルも炭水車を――と言うよりも、炭水車の中に積まれた石炭を指差した。
    「客車だけなら軽過ぎるかも知れないけど、多少は石炭を載せて切り離せば、相当の重石になるんじゃない?」
    「ふむ……、なるほど。そりゃいいかもな」
     ようやくロドニーがうなずき、石炭をくべていたスコップを三人の前に差し出す。
    「俺が連結を外す。誰か機関室に残って、炉の温度を維持しててくれ」
    「え……と。誰がやります?」
     恐る恐る尋ねたサムに、エミルが肩をすくめつつ答える。
    「あいつらもあたしたちが客車に現れれば、あたしたちの思惑に気付くでしょうし、妨害のために銃撃してくる可能性は大きいわ。
     となればこっちも銃を持ってないと、抵抗できないでしょうね」
    「つまり、消去法だ。
     俺は銃を持ってる。エミルもだ。リーランド氏は持ってないが、彼がいなきゃ連結器は外せない」
    「……ですよね」
     スコップはそのまま、サムの手に渡された。

     サムがジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、袖をまくっている間に、残る3人も炭水車の上を歩きやすいよう、軽装になる。
    「気を付けろよ」
    「あんたもね」
     エミルとアデルがひょいと石炭庫の上に乗り、ロドニーから工具を受け取る。
    「よいしょ、っと」
     同様に、難なく炭水車に乗り込んできたロドニーに工具を渡しつつ、エミルが尋ねる。
    「どれくらいかかりそう?」
    「そうだな……、流石の俺も、走ってる最中の車輌を切り離したなんて経験は無い。多少手間取るかも知れん。
     ま、それでも5分ってとこだな」
     それだけ答え、ロドニーは炭水車と客車の間に滑り込む。
     それと同時に、6900改と敵機関車がカーブに差し掛かる。
    「お、っと」
    「大丈夫?」
     よろけたアデルに手を貸し――エミルがもう一度、同じ言葉を投げかけた。
    「本当に大丈夫? 足、怪我してるみたいだけど」
    「あ、ああ。さっき落ちかけた時、どこかに引っ掛けたらしい」
    「見せて」
    「いや、大丈夫だって、ほっときゃそのうち……」
     アデルに構わず、エミルはアデルのスラックスの裾を上げる。
    「これが? サムの坊やが見たら卒倒するくらいの引っかき傷が、ほっといて大丈夫なわけないでしょ? 手当てしたげるわ」
     エミルは自分の服の裾を引きちぎり、アデルの脚に巻いた。
    「う、っ……」
    「消毒なんかはできないけど、これでとりあえずは止血できたはずよ」
    「さ、サンキュー」
     煤だらけの顔を赤くしたアデルに、エミルはため息をついて返した。
    「あたしだけじゃ、銃撃されたら反撃しきれないでしょ? いざっていう時にあんたに倒れられたら、一巻の終わりよ」
    「……お、おう」
     処置を終え、エミルは膝立ちになる。
    「カーブを曲がってる間に、あいつらもあたしたちの目論見に気付いたみたいよ。ライフル構えてるわ」
    「おっと、……よし、そんじゃこっちもやってやるか!」
     エミルたちは銃を構え、同時に引き金を引いた。
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