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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 4 ~シーブズ・エクスプレス~ 12

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    ウエスタン小説、第12話。
    狙撃。

    12.
     風にかき消されながらも、パン、パンと言う破裂音が、線路上で轟く。
    「うひょおっ!?」
     下で作業していたロドニーが、悲鳴じみた声を上げる。
    「大丈夫か!?」
    「お、おう! 気にせず撃ってくれ!」
    「分かった! ……っと!」
     相手からも銃撃が始まり、アデルのすぐ右、炭水車の端から火花が散る。
    「気を付けろよ、エミル!」
    「了解!」
     6900改も相手も、相当のスピードで線路を駆けているはずだが、双方から放たれる銃弾は、互いの車輌に着弾しているらしい。
     エミルたちの周りでしきりに火花が散る一方、敵機関車の方でも、あちこちで光が瞬いているのが確認できる。
    「当たってるっちゃ当たってるが……、いまいち狙い通りのところには当たってないな」
    「これだけ風であおられてちゃ、ね。でもいいとこ行ってるみたいよ、どっちも」
     そう返すエミルのすぐ側で、石炭が爆ぜる。
    「弾、あと何発ある?」
    「40発ってところかしら? あんたは?」
    「30発、……も無さそうだ」
    「あんまり無駄撃ちできそうにないわね。運良く停められたとしても、逃げられる可能性もあるし」
    「かと言って応戦しなきゃ、リーランド氏がヤバい。石炭積み込む時間も考えると……」
     と、そのロドニーの声がする。
    「こっちはオーケーだ! 後は軽く小突きさえすりゃ外れる! 石炭を載せてってくれ!」
    「分かった!」
     アデルはライフルを下ろし、弾と一緒にエミルへ渡す。
    「手伝ってくる。悪いが、頼む!」
    「オーケー」
    「すぐ戻る!」
     そう言うなり、アデルは炭水車と客車の間に降りていった。

     一人になったエミルは、被っていた帽子をぱさ、と石炭の上に置いた。
    「……すー……」
     自分の拳銃をしまい、アデルのライフルを取り、エミルは深呼吸する。
    「(久々に、……本気出してみましょうか、ね)」
     エミルは英語ではない言葉をつぶやきつつ、立ち上がってライフルを構えた。
    「Pousse!」
     パン、と音を立てて、ライフル弾が1発、放たれる。
     その銃弾は若干、風にあおられながらも、後方の敵機関車の側面――幅わずか3~4インチのエアブレーキ管を、ものの見事に貫通した。



     敵機関車の側面からバシュッ、と空気が抜ける音が響き、相手の騒ぐ声が聞こえる。
    「……やべ……爆発……!?」
    「……落ち着け……大したこと……!」
     その一瞬、相手全員の意識が6900改ではなく、自車の破損箇所に向けられる。
     その一瞬を突き――。
    「せ、え……」「の……っ!」
     連結器を外し、石炭を載せ終えた客車を、アデルとロドニーが蹴っ飛ばした。
    「よっしゃ、上に上がるぞ!」
    「おう!」
     アデルたちが炭水車をよじ登る間に、客車は敵機関車へと、相対的に迫っていく。
    「……止まれ……ブレーキ……!」
    「……駄目だ……動か……!」
     エミルによってブレーキを破壊された敵機関車は時速1マイルも減速できずに、そのまま客車に衝突した。
    「うわああああーっ!」
     悲鳴が一斉に、荒野に響き渡り――敵機関車は斜め上へと飛び上がり、そのまま線路の左前方へと落ちて、ぐしゃぐしゃと言う鈍い金属音を立てながら、ごろごろと地面を転がっていった。
    「やった……!」
     炭水車の側面に張り付いたまま、アデルが歓喜の叫びを上げる。
    「……っと、こうしちゃいられねえ! こっちも停車しねーとな」
     ロドニーが炭水車から機関部へ移る間に、エミルがアデルに手を貸し、引き上げる。
    「上手く行ったみたいね」
    「ああ。……いててて、安心したら痛くなってきたぜ」
     アデルがうずくまり、再度スラックスの裾を上げる。動き回っていたためか、白かった布は半分以上、赤く染まっていた。
    「巻き直した方がいいわね。思ってたより、傷が深そうだし」
    「だな」
     炭水車の上でエミルがアデルの手当てをしている間に、6900改は停車した。

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    ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
    ありがとうございます!
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