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蒼天剣・恋慕録 3

晴奈の話、181話目。
女騎士のような。



3.
 その時だった。
「まだ20にも満たぬ少女を4人がかりで惨殺か。それだからお前らは堕ちるのだ」
 盗賊たちの背後から、鋭い一喝が飛んできた。
「だ、誰だッ!?」
 盗賊たちは一斉に振り向く。フォルナも目を開け、声のした方を見る。
「お前らに名乗るような下賎な名前など、持ち合わせて……」「コウさま!」「……」
 そこには口上を邪魔されて憮然としている晴奈と、後ろを向いて肩を震わせる小鈴がいた。
「く、くっく……。晴奈、かっこよく登場したのに台無しね、……ぷふっ、くくく」
「ま、まあ、いいです。……コホン」
 晴奈は刀を抜き、盗賊たちを威嚇する。
「まあ、そこの少女に名乗られてしまったから、名乗っておく。
 私は黄晴奈。央南出身の旅の者だ。お前らの非道、許すわけには行かぬ」
「ゆ、許さなきゃどうだってんだ」
「大人しく投降し、縛に付けば命は助けてやろう。だが、私やその少女に刃を向けるとあらば……」
 晴奈は刀を正眼に構えた。
「返り討ちにしてくれるぞ」
 この脅しだけで、盗賊4人の士気は大幅に下がる。百戦錬磨の晴奈と、4人がかりで弱者をいたぶる彼らとでは、勝負になるわけが無かった。
 だが――。
「う、うるせえ! さ、さ、さ、3000万を諦めてたまるかってんだ!」
 いかにも粗暴そうな男が、ナイフを腰だめに構えて向かってきた。
「……愚か者め」
 次の瞬間、男の顔をほとんど縦に割るように、晴奈の刀が走った。
「ぎゃ、……ッ」
 向かってきた男はナイフを落とし、のた打ち回る。
「致命傷ではない。が、今すぐ手当てをしなければ命に関わる」
 晴奈は残った3人に刀を向ける。
「どうする? 来るか? それとも投降するか?」
「……お侍さんよお」
 頭の良さそうな男が、すい、と前に出る。
「こいつの言った通り、この子から3000万が取れるんだ。3000万だぜ? な、ここでさ、山分けしないか? アンタに1500、俺たちに1500。悪い話じゃねーよな?」
「貴様の性根が最も腐っているな」
 晴奈は刀を構え直し、男に一歩詰め寄る。
「この黄晴奈、金では買えぬ」
「またまたぁ。どーせ俺たちを皆殺しにして、3000万独り占めする気だろ? 言っとくけどな、俺たちにゃまだまだ仲間がいるんだ。アンタが俺たち殺したら、そのうわさ広めるぜ」
「何を馬鹿な」
 晴奈はもう一歩、間合いを詰める。
「嘘や方便は通用しない。他に仲間がいれば、こうして刀を向けられている今、出てくるべきだろう? それにな、私の実家は央南随一の大商家だ。そんな金など、塵や芥に等しい」
「それこそ嘘だろ? 何で大金持ちが、こんな森の中をテクテク歩いて……」
「お前はとんだ愚か者だな。たった今、その少女が3000万を持っていると言ったばかりでは無いか」
 愚か者とののしった瞬間、男の顔色が変わった。
「……んだと? 俺が、愚か者?」
「そうでなければ何だと言うのだ。人を襲い金と命を奪うことを繰り返す――性根が捻じ曲がった愚者でなければ、とてもできぬことだ」
 この一言に、男は逆上した。
「バカに……、バカにすんなーッ!」
 男はナイフを振り上げ、晴奈に向かって投げる。だが、晴奈は顔色一つ変えずに刀でそれを弾く。弾かれたナイフは回転しながら弧を描き、男の肩に突き刺さった。
「ひっ……!」
「そうやってすぐに怒り狂うのは、己が愚かである証拠だ。……さあ、どうする?」
 晴奈は残った2人をギロリとにらむ。2人は顔を真っ青にして、ナイフを捨てた。

 晴奈に刃向かい怪我をした2人は手当てを受け、そのまま縛られた。残った2人も同様に縛られ、街道の途中にあった小屋に放り込まれた。
「外から戸を封じておく。後ほど警吏をよこすから、来るまでしばらく反省するがいい」
「……」
 盗賊4人は魂が抜けたような顔をするだけで、晴奈の言葉には反応しなかった。
「……さてと、フォルナだったか」
「は、はい」
 助けられたフォルナは、晴奈を見て縮こまっている。
「何故、付いてきた?」
「その、えっと……」
「危険だとは思わなかったのか?」
 晴奈の口調は先ほど盗賊たちを威嚇した時とは違い、幼い子を諭すような優しげなものに変わっている。
「……考えておりませんでした」
「無茶にもほどがある。このようなこともあるのだから、もっと考えて行動しなければ」
「……クス」
 背後で小鈴が笑っているが、晴奈は構わず説教を続ける。
「歳は、いくつだ?」
「16です」
「16でこんな、人里離れた場所を一人でうろつくなど……」
「……クスクス」
 なぜか、小鈴は晴奈が何か言う度に笑っている。
「……何ですか、小鈴殿」
「んふふ……、晴奈。あたし、アンタの子供の頃の話、雪乃から聞いてるんだけど」
「え」
「13歳で、黄海から飛び出して弟子入りを頼み込んだって言う……」
「う……」
 偉そうに説教していた晴奈は、ばつが悪くなって赤面する。きょとんとするフォルナを見た小鈴は、フォルナに耳打ちした。
「あのね、このコウさんは13歳の頃、街で出会った剣士に弟子入りするために、一人でこーんな山道を……」「聞こえてます、小鈴殿」
 晴奈は顔をしかめ、腕組みをしてそっぽを向く。
「……それはまあ、確かに私にも、似た経験がありますけども」
「気持ちも一緒よ? この子、アンタと一緒に旅がしたくて、ココまで付いてきたんだから」
「あっ」
 小鈴に秘めていた想いをばらされ、フォルナも顔を真っ赤に染める。
「……私と旅を?」
 晴奈はけげんな顔をして、フォルナに向き直る。
「何故?」
「そ、その……、わたくし、あなたのことを、お慕い申しておりまして」
「は?」
 この時小鈴にまた、イタズラ心が沸いた。
「つまりね、フォルナちゃんは晴奈のコトが気になって仕方ないのよ。あんまり、かっこいいから。……連れてってあげなさいよ、晴奈」
「いや、しかし旅慣れていない者を連れて行くのは」
「あら、それじゃこの森の中を一人で帰させる気?」
 そう言って小鈴は森を指差す。
「む……」
「いいじゃん。三人旅も楽しいわよ、きっと」
「いや、楽しいとかそう言う問題ではなく、私は日上を……」
「大丈夫だって。このまま進めばゴールドコーストへの便があるルーバスポートに行けるんだし、そこで送り返せばいいじゃないの。それまでは一緒に、ってコト。これならアンタの邪魔にならないでしょ?」
「ふ、む……」
 小鈴の提案を聞き、晴奈は考え込む。その間に、小鈴はフォルナにまた耳打ちした。
「アンタも、それでいい?」
「ええ。それまでにコウさまを惚れさせて、『離れたくない』と言わせてみせますわ」
「アハハ、頑張って」
 本当のことを知っている小鈴は、おかしくてたまらない。と、ここで思案していた晴奈は顔を上げ、同意した。
「分かりました。では、ルーバスポートまでは、一緒に行くと言うことで」
「よしよし。……よろしくね、フォルナちゃん」
「はいっ。よろしくお願いします、コスズさん、それから」
 フォルナは晴奈の手を取り、最大限とも言える満面の笑顔を見せ付けた。
「よろしくお願いします、コウさま」
「ああ、よろしく」
 晴奈は相変わらず、フォルナが自分に惚れているなどとは考えもしなかった。

テーマ:ファンタジー小説 - ジャンル:小説・文学

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