蒼天剣・恋慕録 32008-12-30 Tue 20:38 晴奈の話、181話目。 女騎士のような。 3. その時だった。 「まだ20にも満たぬ少女を4人がかりで惨殺か。それだからお前らは堕ちるのだ」 盗賊たちの背後から、鋭い一喝が飛んできた。 「だ、誰だッ!?」 盗賊たちは一斉に振り向く。フォルナも目を開け、声のした方を見る。 「お前らに名乗るような下賎な名前など、持ち合わせて……」「コウさま!」「……」 そこには口上を邪魔されて憮然としている晴奈と、後ろを向いて肩を震わせる小鈴がいた。 「く、くっく……。晴奈、かっこよく登場したのに台無しね、……ぷふっ、くくく」 「ま、まあ、いいです。……コホン」 晴奈は刀を抜き、盗賊たちを威嚇する。 「まあ、そこの少女に名乗られてしまったから、名乗っておく。 私は黄晴奈。央南出身の旅の者だ。お前らの非道、許すわけには行かぬ」 「ゆ、許さなきゃどうだってんだ」 「大人しく投降し、縛に付けば命は助けてやろう。だが、私やその少女に刃を向けるとあらば……」 晴奈は刀を正眼に構えた。 「返り討ちにしてくれるぞ」 この脅しだけで、盗賊4人の士気は大幅に下がる。百戦錬磨の晴奈と、4人がかりで弱者をいたぶる彼らとでは、勝負になるわけが無かった。 だが――。 「う、うるせえ! さ、さ、さ、3000万を諦めてたまるかってんだ!」 いかにも粗暴そうな男が、ナイフを腰だめに構えて向かってきた。 「……愚か者め」 次の瞬間、男の顔をほとんど縦に割るように、晴奈の刀が走った。 「ぎゃ、……ッ」 向かってきた男はナイフを落とし、のた打ち回る。 「致命傷ではない。が、今すぐ手当てをしなければ命に関わる」 晴奈は残った3人に刀を向ける。 「どうする? 来るか? それとも投降するか?」 「……お侍さんよお」 頭の良さそうな男が、すい、と前に出る。 「こいつの言った通り、この子から3000万が取れるんだ。3000万だぜ? な、ここでさ、山分けしないか? アンタに1500、俺たちに1500。悪い話じゃねーよな?」 「貴様の性根が最も腐っているな」 晴奈は刀を構え直し、男に一歩詰め寄る。 「この黄晴奈、金では買えぬ」 「またまたぁ。どーせ俺たちを皆殺しにして、3000万独り占めする気だろ? 言っとくけどな、俺たちにゃまだまだ仲間がいるんだ。アンタが俺たち殺したら、そのうわさ広めるぜ」 「何を馬鹿な」 晴奈はもう一歩、間合いを詰める。 「嘘や方便は通用しない。他に仲間がいれば、こうして刀を向けられている今、出てくるべきだろう? それにな、私の実家は央南随一の大商家だ。そんな金など、塵や芥に等しい」 「それこそ嘘だろ? 何で大金持ちが、こんな森の中をテクテク歩いて……」 「お前はとんだ愚か者だな。たった今、その少女が3000万を持っていると言ったばかりでは無いか」 愚か者とののしった瞬間、男の顔色が変わった。 「……んだと? 俺が、愚か者?」 「そうでなければ何だと言うのだ。人を襲い金と命を奪うことを繰り返す――性根が捻じ曲がった愚者でなければ、とてもできぬことだ」 この一言に、男は逆上した。 「バカに……、バカにすんなーッ!」 男はナイフを振り上げ、晴奈に向かって投げる。だが、晴奈は顔色一つ変えずに刀でそれを弾く。弾かれたナイフは回転しながら弧を描き、男の肩に突き刺さった。 「ひっ……!」 「そうやってすぐに怒り狂うのは、己が愚かである証拠だ。……さあ、どうする?」 晴奈は残った2人をギロリとにらむ。2人は顔を真っ青にして、ナイフを捨てた。 晴奈に刃向かい怪我をした2人は手当てを受け、そのまま縛られた。残った2人も同様に縛られ、街道の途中にあった小屋に放り込まれた。 「外から戸を封じておく。後ほど警吏をよこすから、来るまでしばらく反省するがいい」 「……」 盗賊4人は魂が抜けたような顔をするだけで、晴奈の言葉には反応しなかった。 「……さてと、フォルナだったか」 「は、はい」 助けられたフォルナは、晴奈を見て縮こまっている。 「何故、付いてきた?」 「その、えっと……」 「危険だとは思わなかったのか?」 晴奈の口調は先ほど盗賊たちを威嚇した時とは違い、幼い子を諭すような優しげなものに変わっている。 「……考えておりませんでした」 「無茶にもほどがある。このようなこともあるのだから、もっと考えて行動しなければ」 「……クス」 背後で小鈴が笑っているが、晴奈は構わず説教を続ける。 「歳は、いくつだ?」 「16です」 「16でこんな、人里離れた場所を一人でうろつくなど……」 「……クスクス」 なぜか、小鈴は晴奈が何か言う度に笑っている。 「……何ですか、小鈴殿」 「んふふ……、晴奈。あたし、アンタの子供の頃の話、雪乃から聞いてるんだけど」 「え」 「13歳で、黄海から飛び出して弟子入りを頼み込んだって言う……」 「う……」 偉そうに説教していた晴奈は、ばつが悪くなって赤面する。きょとんとするフォルナを見た小鈴は、フォルナに耳打ちした。 「あのね、このコウさんは13歳の頃、街で出会った剣士に弟子入りするために、一人でこーんな山道を……」「聞こえてます、小鈴殿」 晴奈は顔をしかめ、腕組みをしてそっぽを向く。 「……それはまあ、確かに私にも、似た経験がありますけども」 「気持ちも一緒よ? この子、アンタと一緒に旅がしたくて、ココまで付いてきたんだから」 「あっ」 小鈴に秘めていた想いをばらされ、フォルナも顔を真っ赤に染める。 「……私と旅を?」 晴奈はけげんな顔をして、フォルナに向き直る。 「何故?」 「そ、その……、わたくし、あなたのことを、お慕い申しておりまして」 「は?」 この時小鈴にまた、イタズラ心が沸いた。 「つまりね、フォルナちゃんは晴奈のコトが気になって仕方ないのよ。あんまり、かっこいいから。……連れてってあげなさいよ、晴奈」 「いや、しかし旅慣れていない者を連れて行くのは」 「あら、それじゃこの森の中を一人で帰させる気?」 そう言って小鈴は森を指差す。 「む……」 「いいじゃん。三人旅も楽しいわよ、きっと」 「いや、楽しいとかそう言う問題ではなく、私は日上を……」 「大丈夫だって。このまま進めばゴールドコーストへの便があるルーバスポートに行けるんだし、そこで送り返せばいいじゃないの。それまでは一緒に、ってコト。これならアンタの邪魔にならないでしょ?」 「ふ、む……」 小鈴の提案を聞き、晴奈は考え込む。その間に、小鈴はフォルナにまた耳打ちした。 「アンタも、それでいい?」 「ええ。それまでにコウさまを惚れさせて、『離れたくない』と言わせてみせますわ」 「アハハ、頑張って」 本当のことを知っている小鈴は、おかしくてたまらない。と、ここで思案していた晴奈は顔を上げ、同意した。 「分かりました。では、ルーバスポートまでは、一緒に行くと言うことで」 「よしよし。……よろしくね、フォルナちゃん」 「はいっ。よろしくお願いします、コスズさん、それから」 フォルナは晴奈の手を取り、最大限とも言える満面の笑顔を見せ付けた。 「よろしくお願いします、コウさま」 「ああ、よろしく」 晴奈は相変わらず、フォルナが自分に惚れているなどとは考えもしなかった。 |
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