「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・狼煙抄 1
麒麟を巡る話、第549話。
鼻持ちならない旧友。
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1.
「マロから手紙だ」
「は?」
マークから告げられた言葉が頭の中で処理しきれず、結果、フィオはとぼけた返事をした。
「誰って?」
「だから、マロ。マラネロだよ。
白猫党の幹部で、天狐ゼミの同期生で、僕と君をヘブン王国郊外で殺そうとしたゴールドマン……、いや、アキュラ・ゴールドマン家の狐獣人」
「……あ、あーあー。いたなぁ、そんなの」
記憶の線がつながり、フィオはようやくうなずいた。
「久々だなぁ。いや本当、久々すぎて誰だったか分かんなかった。10年ぶりくらいだっけ?」
「正確には9年かな。566年の話だし。だよね、パラ?」
「あ、はい」
フィオの背後に立っていたエプロン姿のパラが、こくんとうなずく。
「確かそうです。わたくしたちが出会ったのと、同じ日のはずです」
「……なんかさ」
と、マークが苦笑いした表情を浮かべる。
「パラ、話し方が前よりぼんやりしてる気がする。
前だったら『わたくしたちと出会った時期とほぼ合致しております』とか言いそうなのに」
「もう人間ですから。記憶に齟齬(そご)や欠如した部分が出てくるのは自然です」
パラもマークに合わせるように、苦笑して見せる。
「それでマーク、マラネロ氏からの手紙と言うのは、どのような内容なのでしょうか?」
「あ、そうそう。
えーとね、まあ、すごくビックリしたんだけどね、……何でも彼、今、刑務所にいるんだってさ」
「刑務所だって? 白猫党で横領でもしたのか、あいつ?」
「いや、手紙によると、党の方は5年前には抜けてたらしいよ。罪状については、こっちも直接は言及してない――って言うか、多分刑務所の検閲なのかな、あっちこっちがぐりぐり塗り潰されてるんだけど――どうやら金火狐財団に対して、かなり深刻な被害を与えたんだって」
「良く分からないな。手紙、持ってきてるの?」
「ああ。あ、それでさ、パラとルナさんとカズセちゃんと、あとカエデさんにも見せたいから、ちょっと呼んでくるよ。
とりあえず手紙は渡しとく。先に読んでていいから」
「ああ、分かった」
玄関からそそくさと離れるマークの後ろ姿を眺めながら、フィオはくる、と振り向き、パラに尋ねた。
「じゃ、読んでみようか」
「ええ」
「親愛なる同窓生 マーク・トラスへ
私は今、刑務所に収監されています。(検閲)と(検閲)への傷害・殺人教唆と(検閲)への一級業務妨害を犯したためです。
特に後者の罪は(検閲)への影響が大きかったため、情状酌量の余地はおろか、裁判を受ける機会すら与えられることなく、終身刑が課せられました。そのため私は死ぬまで市立刑務所に服役することが確定しており、収監から既に5年が経過しております。
ですがこの数年、どうしても出所したい、それも出来る限り早くと言う強い願いがあり、私はとある知人(訂正 ホンマは俺(訂正 私)の恋人)を通じて(検閲)へ願い出たところ、(検閲)より司法取引が提案されました。
それは私を仮出所させる代わり、私が570年まで加入していた(検閲)に関する情報をすべて(検閲)に提供せよと言うものでした。
当然、私は知りうるすべての情報を伝えました。しかし(検閲)からは「この程度の情報では、(検閲)を撤退させられる可能性は皆無だ」との返答が送られ、この取引は成立しませんでした。
そこで、あなた様を殺そうとした身ながら、厚かましくもお願いしたい件がございます。
どうかゴールドコースト市立刑務所へご足労いただき、あなた様の方で知り得た情報を提供していただけませんでしょうか?
その情報が(検閲)にとって有益なものであれば、今度こそ、私の仮出所が現実になるのではと期待しています。
私の、後人生のすべてを懸けた願いを聞いていただければと、切に願っています。どうかよろしく、お願いいたします。
マラネロ・アキュラ・ゴールドマン」
「……パラ」
手紙を読み終え、フィオはげんなりした声でパラに尋ねる。
「なんでしょう?」
「マロの奴、マジで厚かましいって言うか、図々しいと思わない?」
尋ねたフィオに、パラはこくこくとうなずいて返した。
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鼻持ちならない旧友。
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「マロから手紙だ」
「は?」
マークから告げられた言葉が頭の中で処理しきれず、結果、フィオはとぼけた返事をした。
「誰って?」
「だから、マロ。マラネロだよ。
白猫党の幹部で、天狐ゼミの同期生で、僕と君をヘブン王国郊外で殺そうとしたゴールドマン……、いや、アキュラ・ゴールドマン家の狐獣人」
「……あ、あーあー。いたなぁ、そんなの」
記憶の線がつながり、フィオはようやくうなずいた。
「久々だなぁ。いや本当、久々すぎて誰だったか分かんなかった。10年ぶりくらいだっけ?」
「正確には9年かな。566年の話だし。だよね、パラ?」
「あ、はい」
フィオの背後に立っていたエプロン姿のパラが、こくんとうなずく。
「確かそうです。わたくしたちが出会ったのと、同じ日のはずです」
「……なんかさ」
と、マークが苦笑いした表情を浮かべる。
「パラ、話し方が前よりぼんやりしてる気がする。
前だったら『わたくしたちと出会った時期とほぼ合致しております』とか言いそうなのに」
「もう人間ですから。記憶に齟齬(そご)や欠如した部分が出てくるのは自然です」
パラもマークに合わせるように、苦笑して見せる。
「それでマーク、マラネロ氏からの手紙と言うのは、どのような内容なのでしょうか?」
「あ、そうそう。
えーとね、まあ、すごくビックリしたんだけどね、……何でも彼、今、刑務所にいるんだってさ」
「刑務所だって? 白猫党で横領でもしたのか、あいつ?」
「いや、手紙によると、党の方は5年前には抜けてたらしいよ。罪状については、こっちも直接は言及してない――って言うか、多分刑務所の検閲なのかな、あっちこっちがぐりぐり塗り潰されてるんだけど――どうやら金火狐財団に対して、かなり深刻な被害を与えたんだって」
「良く分からないな。手紙、持ってきてるの?」
「ああ。あ、それでさ、パラとルナさんとカズセちゃんと、あとカエデさんにも見せたいから、ちょっと呼んでくるよ。
とりあえず手紙は渡しとく。先に読んでていいから」
「ああ、分かった」
玄関からそそくさと離れるマークの後ろ姿を眺めながら、フィオはくる、と振り向き、パラに尋ねた。
「じゃ、読んでみようか」
「ええ」
「親愛なる同窓生 マーク・トラスへ
私は今、刑務所に収監されています。(検閲)と(検閲)への傷害・殺人教唆と(検閲)への一級業務妨害を犯したためです。
特に後者の罪は(検閲)への影響が大きかったため、情状酌量の余地はおろか、裁判を受ける機会すら与えられることなく、終身刑が課せられました。そのため私は死ぬまで市立刑務所に服役することが確定しており、収監から既に5年が経過しております。
ですがこの数年、どうしても出所したい、それも出来る限り早くと言う強い願いがあり、私はとある知人(訂正 ホンマは俺(訂正 私)の恋人)を通じて(検閲)へ願い出たところ、(検閲)より司法取引が提案されました。
それは私を仮出所させる代わり、私が570年まで加入していた(検閲)に関する情報をすべて(検閲)に提供せよと言うものでした。
当然、私は知りうるすべての情報を伝えました。しかし(検閲)からは「この程度の情報では、(検閲)を撤退させられる可能性は皆無だ」との返答が送られ、この取引は成立しませんでした。
そこで、あなた様を殺そうとした身ながら、厚かましくもお願いしたい件がございます。
どうかゴールドコースト市立刑務所へご足労いただき、あなた様の方で知り得た情報を提供していただけませんでしょうか?
その情報が(検閲)にとって有益なものであれば、今度こそ、私の仮出所が現実になるのではと期待しています。
私の、後人生のすべてを懸けた願いを聞いていただければと、切に願っています。どうかよろしく、お願いいたします。
マラネロ・アキュラ・ゴールドマン」
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