「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・狼煙抄 2
麒麟を巡る話、第550話。
マークの侠気。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「え、……マーク、それマジで言ってる?」
「ああ」
ルナ、一聖、そして楓を伴って戻ってきたマークに、フィオたちがマロへの返答を尋ねたところ、マークはなんと、この厚かましい要請に応じると答えたのだ。
「なんでさ?」
「なんでって、……まあ、確かに僕たちを殺そうとした奴にこんなお願いをされるのは不愉快だし、自分の罪をちゃんと償わず帳消しにしようと画策してるってのも鼻持ちならないけどさ、それでも彼は本気で困ってると思うんだ。きっと本当に、僕以外に頼れる人がいないんだろう。
だって、腐っても金火狐一族だろ? それなら傍系のアキュラ家であろうと、金と人脈、権力を使って多少の減刑はできると思う。でも終身刑は、市国で一番重い罰のはずだ。それを受けてるってことは、減刑がまったく叶わなかったんだろうな、って。となれば十中八九、彼は金火狐一族から勘当・除籍されちゃってるんだろう。
金火狐一族と白猫党、その両方に見放された彼が頼れるのは、本当にもう、僕だけなんだろう。その僕までもがマロを見捨てたら、彼にとってはどれだけ絶望的か。……そう考えたら、断るに断れないなって」
「お人好しね」
マークの主張を、ルナは鼻で笑う。
「で、あたしたちを呼んだ理由は? もう行くって決めてるなら、一人でさっさと行けばいいじゃない」
「いや、このまま僕が行ったとしても多分、何にも変わらない。だって白猫党に対して僕が知ってる情報なんて、マロ以上にあると思えないもの」
「ま、そりゃそーだ。元幹部と勧誘されかけた一個人じゃ、な」
一聖が肩をすくめ、こう続ける。
「で、オレたちが知ってる情報も併せて伝えれば、ってコトか?」
「ええ、そうです。何しろ『フェニックス』として活動してきたこの5年間、白猫党、取り分けその中核であるアオイさんについて調べた情報は、決して少ないものではない。
それを提供すれば、財団も多少は取り計らってくれると思うんです」
「あたくしは反対ですわね」
楓がぱたぱたと手を振り、こう返す。
「あたくしたちが集めてきた情報をみだりに漏らすことは、あたくしたちの状況を危うくすることに直結いたしますもの。
アオイが自分についてのあれやこれやを公表されて、呑気に構えているとは到底思えませんし。きっと知った人間、そして言いふらした人間を、速やかに口封じしようと動くでしょう」
楓の意見に、パラも続く。
「わたくしも同意見です。アオイの機動力を甘く見るべきではありません。
そもそもこの話は、マークにとって何の利益もありません。それどころか、この手紙に検閲された箇所が多数見受けられることから考えると、安易な情報の提供・交換は、市国当局に拘束される可能性があります。
危険性しか無い行為です。面会することを、強く反対いたします」
「でも……」
マークが反論しかけたところで、一聖が手を挙げた。
「オレは賛成。付いてくぜ」
「なんでよ?」
「人を助けんのに、うだうだ言うつもりはねーよ。ソレにマロだって、オレんとこに在籍してた学生だ。教え子が困ってんのに、手を差し伸べない先生がいるかっつの」
「カズセちゃん……!」
マークは一聖の手を取り、深々と頭を下げる。
「いいって。……んで、どうする? 他に来る気のあるヤツはいるか?」
「……じゃあ、僕も行くよ」
と、フィオが挙手する。
「え? いいの?」
「親友がわざわざ危険に足を突っ込んで、それをほっとくような僕じゃない。ま、マロが期待するような情報は、残念ながら持ってないけどさ」
「ありがとう、フィオ!」
マークがフィオに対しても頭を下げたところで、パラも申し出た。
「フィオが行くならわたくしも行きます。わたくしの夫ですし。一蓮托生です」
「へっ、隙あらばのろけやがって。お熱いね、お二人さん」
「えへ、へへ……」「……うぅ、口走ってしまいました」
フィオとパラが揃って顔を赤くしたところで、ルナが肩をすくめた。
「じゃあ芋づる式に、あたしも行くことになるわね。娘夫婦を危険にさらせないし」
「ありがとうございます、お母様」
「となれば、コレで全員か。楓は、……まあ、行く義理は無いか」
期待の無さそうな口ぶりで一聖がそう尋ねたが、楓はしかめっ面でこう答えた。
「ここであたくしだけ行かない、とは申せませんでしょう?
それにゼミ時代には、マロからお酒などをご馳走になった縁がございますし。借りは返しておきたいですから」
「いいね、上等だ。マーク、お前さんの見る目は間違ってなかったみたいだな」
一聖にほめられ、マークは「へへ……」とはにかんだ。
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マークの侠気。
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「え、……マーク、それマジで言ってる?」
「ああ」
ルナ、一聖、そして楓を伴って戻ってきたマークに、フィオたちがマロへの返答を尋ねたところ、マークはなんと、この厚かましい要請に応じると答えたのだ。
「なんでさ?」
「なんでって、……まあ、確かに僕たちを殺そうとした奴にこんなお願いをされるのは不愉快だし、自分の罪をちゃんと償わず帳消しにしようと画策してるってのも鼻持ちならないけどさ、それでも彼は本気で困ってると思うんだ。きっと本当に、僕以外に頼れる人がいないんだろう。
だって、腐っても金火狐一族だろ? それなら傍系のアキュラ家であろうと、金と人脈、権力を使って多少の減刑はできると思う。でも終身刑は、市国で一番重い罰のはずだ。それを受けてるってことは、減刑がまったく叶わなかったんだろうな、って。となれば十中八九、彼は金火狐一族から勘当・除籍されちゃってるんだろう。
金火狐一族と白猫党、その両方に見放された彼が頼れるのは、本当にもう、僕だけなんだろう。その僕までもがマロを見捨てたら、彼にとってはどれだけ絶望的か。……そう考えたら、断るに断れないなって」
「お人好しね」
マークの主張を、ルナは鼻で笑う。
「で、あたしたちを呼んだ理由は? もう行くって決めてるなら、一人でさっさと行けばいいじゃない」
「いや、このまま僕が行ったとしても多分、何にも変わらない。だって白猫党に対して僕が知ってる情報なんて、マロ以上にあると思えないもの」
「ま、そりゃそーだ。元幹部と勧誘されかけた一個人じゃ、な」
一聖が肩をすくめ、こう続ける。
「で、オレたちが知ってる情報も併せて伝えれば、ってコトか?」
「ええ、そうです。何しろ『フェニックス』として活動してきたこの5年間、白猫党、取り分けその中核であるアオイさんについて調べた情報は、決して少ないものではない。
それを提供すれば、財団も多少は取り計らってくれると思うんです」
「あたくしは反対ですわね」
楓がぱたぱたと手を振り、こう返す。
「あたくしたちが集めてきた情報をみだりに漏らすことは、あたくしたちの状況を危うくすることに直結いたしますもの。
アオイが自分についてのあれやこれやを公表されて、呑気に構えているとは到底思えませんし。きっと知った人間、そして言いふらした人間を、速やかに口封じしようと動くでしょう」
楓の意見に、パラも続く。
「わたくしも同意見です。アオイの機動力を甘く見るべきではありません。
そもそもこの話は、マークにとって何の利益もありません。それどころか、この手紙に検閲された箇所が多数見受けられることから考えると、安易な情報の提供・交換は、市国当局に拘束される可能性があります。
危険性しか無い行為です。面会することを、強く反対いたします」
「でも……」
マークが反論しかけたところで、一聖が手を挙げた。
「オレは賛成。付いてくぜ」
「なんでよ?」
「人を助けんのに、うだうだ言うつもりはねーよ。ソレにマロだって、オレんとこに在籍してた学生だ。教え子が困ってんのに、手を差し伸べない先生がいるかっつの」
「カズセちゃん……!」
マークは一聖の手を取り、深々と頭を下げる。
「いいって。……んで、どうする? 他に来る気のあるヤツはいるか?」
「……じゃあ、僕も行くよ」
と、フィオが挙手する。
「え? いいの?」
「親友がわざわざ危険に足を突っ込んで、それをほっとくような僕じゃない。ま、マロが期待するような情報は、残念ながら持ってないけどさ」
「ありがとう、フィオ!」
マークがフィオに対しても頭を下げたところで、パラも申し出た。
「フィオが行くならわたくしも行きます。わたくしの夫ですし。一蓮托生です」
「へっ、隙あらばのろけやがって。お熱いね、お二人さん」
「えへ、へへ……」「……うぅ、口走ってしまいました」
フィオとパラが揃って顔を赤くしたところで、ルナが肩をすくめた。
「じゃあ芋づる式に、あたしも行くことになるわね。娘夫婦を危険にさらせないし」
「ありがとうございます、お母様」
「となれば、コレで全員か。楓は、……まあ、行く義理は無いか」
期待の無さそうな口ぶりで一聖がそう尋ねたが、楓はしかめっ面でこう答えた。
「ここであたくしだけ行かない、とは申せませんでしょう?
それにゼミ時代には、マロからお酒などをご馳走になった縁がございますし。借りは返しておきたいですから」
「いいね、上等だ。マーク、お前さんの見る目は間違ってなかったみたいだな」
一聖にほめられ、マークは「へへ……」とはにかんだ。
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550話到達。
9月26日現在、既に「白猫夢」は完成しています。
その話数、実に600話オーバー。当初の予想を大幅に上回りました。
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マロのご先祖様も「死なんかったらまたゲームの卓に付けるんやで」って言ってますし。
不屈揃いの金火狐、まだ縋れるものがあれば縋ります。