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    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・狼煙抄 4

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    麒麟を巡る話、第552話。
    元幹部からの情報。

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    4.
     マロはまず、党首シエナについて話し始めた。
    「白猫党の党首はシエナ・チューリン。540年、ゴールドコーストの下町生まれ。詳しいことは聞かんんかったけど、下町時代には結構ひどい目に遭うてたらしいわ。
     その後、半独学で魔術の勉強して、天狐ゼミに入る。……とまあ、ここまではお前らも知っとるやろ?」
    「ええ、聞いた覚えがあります」
     マークと、背後にいたフィオ、楓がうなずいたところで、マロはニヤッと笑う。
    「ほな、シエナの研究テーマは何やったか、覚えとるか?」
    「いや……、あんまり。ぼんやりとしか」
     首を傾げたマークに代わり、一聖が答える。
    「通信魔術についてだろ? 近年爆発的に普及した電信・電話に対抗して、古来より使われてきた通信術にアドバンテージを見出だし、再利用できないかって言う内容だったな」
    「え、ちょ? お前なんで知っとんの?」
     マロはこの黒少女が、天狐の中身だとは知らない。それを説明せず、一聖が煙に巻く。
    「ま、ちょっとな。お前らの先生とはすごく親しいんだよ」
    「はあ、そうかー……。ま、ええわ。ともかく、その研究内容が重要やねん。それこそが、白猫党の常勝無敗の理由の一つや」
    「って言うと?」
     尋ねたルナに、マロは得意気に説明する。
    「結論から言うとな、シエナは通信術に限らず、あらゆる種類の電信・電話をも傍受・妨害でける魔術を編み出しよったんや。アオイさんと共同でな」
    「マジかよ」
     これを聞いて、一聖が苦い顔をする。
    「となりゃ、敵のトップ同士が電話で会談したり、敵陣営で司令本部から指揮官へ命令が下されたりって言うのが全部……」
    「せや。『預言』が無くとも、俺たちは事前に敵が自陣でベラベラ無警戒にしゃべり倒した内容を、好き放題に盗聴して把握できたんや」
     楓も合点がいったらしく、両手をぱちんと合わせた。
    「そう言えばあたくしの兄も、電話では重要な内容を伝えようとは全くされませんでしたわね。重要な話はいつも、直接会ってしておりましたし」
    「ああ、せやったな。アマハラさんのお兄さん、新聞で見ましたわ。まあ、盗聴に気付いて対策しとる奴もおるやろな、術が使われだしてから何年も経っとるし」
    「確かにそんなもん使われてたら、軍の指揮系統なんかメチャクチャになっちまうな。上意下達が成り立たねー軍隊なんか、まともに機能するワケがねーよ。
     なるほど、そりゃ勝てなかったワケだぜ」
    「勝てへん理由はもう一つある。単純に、使てる兵器がめっちゃ強いんや。
     元々の設計は金火狐商会のものなんやけど、それを改修したんがデリック・ヴィッカーっちゅうヤツやねん」
    「ヴィッカー? 聞いたコトあるな。金火狐商会のヤツだろ?」
     そう返した一聖に対し、マロは「ちゃうちゃう」と首を振る。
    「それは親の方やな。金火狐商会武器開発部長やった、デビッド・ヴィッカーの方やろ? 俺が言うてるんは、その息子や。
     その口ぶりやと、親の方の評判も聞いとるよな?」
    「ああ。自動小銃やら回転連射砲、機関砲やらを開発した天才銃火器開発者、『死の博士』ヴィッカーだろ? その息子も同じ道に進んだと聞いてるが……、白猫党にいるのか?」
    「俺の持っとる確かな情報では、568年までは党におった。央北での戦争が終わった直後に白猫軍が組織されたんやけど、その司令とソリが合わへんようになってな。
     ほんで、党を抜けてたはずやねんけど……」
    「はず、とは?」
     尋ねた楓に、マロは自信なさげに答える。
    「どうも復党しとるっぽいねんな。新聞で読んだ話やけど、央南の戦争が下火になりだした辺りから、あいつら兵器の大改修やり出したらしいな」
    「ええ、そのようですわね」
    「変やないか? 戦争真っ只中で戦況がどんどん激しくなる、もっと強い武器がいるでって時やったら、改修するんは当たり前や。
     でも戦争が終わりそうや、現状の戦力でもう十分やろっちゅう見込みが立つような時に、なんでわざわざ、……て思わへんか?」
    「まあ……、確かに」
    「もしかしたら、これは復党したヴィッカー博士が指示しとるんやないか、と俺はにらんどるんよ。
     新聞でも、565年の党結成と同時に使い始めてから、それまで一回もやってへんかった改修をいきなり――央中の新聞に載るくらいに――大々的にやりよるっちゅう理由は多分、それしか無い。博士がこしらえたもんをがらっと改修でけるんは、博士本人くらいやろしな」
    「一理あるわね」
     ルナはうなずきつつも、続いてこう返す。
    「でもそれだけじゃ、そのヴィッカー博士がいるって根拠としては不十分ね。そもそもその博士が一人いるくらいで、何がどう変わるのかしら」
    「央中攻略戦の時、白猫軍が簡単に市国を攻めへんかったんは、市国側の攻撃力が侮れへんかったからや。それは即ち、市国が持っとる金火狐製の兵器を警戒してたからやで。
     その、白猫党すら脅威と思う兵器を自在に改造・改修でける奴がいとることを、脅威や無いと?」
    「離れたって割には、随分と白猫党を持ち上げるわね」
    「……お前も公安と同じこと言うんか」
     マロはがっくりとうなだれ、失望の色を見せた。
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