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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・狼煙抄 5

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    麒麟を巡る話、第553話。
    その時、マークに天啓走る。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     マロは恨みがましく、財団と公安が彼に取った対応を愚痴り始めた。
    「公安も言うてたわ、『そんな情報が何になる』『憶測ばっかりやないか』『いつまで幹部気取りのつもりや』ってな。
     そら盗聴術の話はそこそこ有用やとは言うてたけども、でも『減刑に値するほどの情報やない』ちゅうて、結局なんも無しや。あんまりやあらへんか?」
    「妥当な評価と思われますが」
     憤るマロに対し、パラがにべもなくそう返す。
    「その情報で白猫軍がどうにかなるとは思えませんし」
    「……ぐっ」
     返す言葉が無いらしく、マロはうなだれた。
    「それで? 他には無いの? 白猫党の幹部時代につかんだ裏情報とか」
    「……それくらいしか」
    「あたしが公安とか財団の幹部だったら、それで恩赦なんてするわけ無いわよ」
    「う、ぐうっ……」
     マロは頭を抱え、ぐすぐすと泣き出してしまった。

     べそをかくマロを嘲るように眺めながら、ルナが促す。
    「帰りましょ、マーク。もうこれ以上、ここにいる意味は無いわ。あたしたちから提供できる情報も、こいつを助けるほどじゃないし」
    「……」
     が、マークはマロをじっと見つめたまま、動かない。
    「マーク?」
    「ちょっと待って」
     ルナを制し、マークは黙り込んだ。
    「マロ」
     1分か、2分ほど経って、マークが声をかけた。
    「……なんや」
    「僕の意見としても、このままじゃ君を出してあげられない」
    「もうええわ。俺はこのまま……」「何故って、懸けるものが小さ過ぎるからだ」
     そう続けたマークに、マロは涙で濡れた顔を挙げた。
    「なんやて?」
    「単なる情報と君の釈放じゃ、あまりにレートが違い過ぎる。もっと大きなものを天秤に載せなきゃ、吊り合わないよ」
    「どう言う意味や?」
    「僕に考えがあるんだ。いや、今思いついた。君はその計画に役立つかも知れない」
    「は……?」
     マークは背後に座っていた皆に向き直り、手招きした。
    「今はまだ、僕自身も荒唐無稽としか思えない作戦だ。でもこれが成功すれば、央中からの撤退どころじゃない。
     白猫党は一転、内部分裂の危機を迎え、瞬く間に世界中の戦線から撤退、全面的に手を引くはずだ」
    「……おい、マーク、それって」
     フィオが面食らった様子で尋ねる。
    「『コンチネンタル』か……!?」
    「多分それだ。僕が思いついた作戦は多分、君の世界でそう呼ばれていたものに該当すると思う」
    「フィオの世界? どう言う……?」
     いぶかしむマロをよそに、マークは自分の考えを説明し始めた。
    「現在、白猫党は央北を本拠地とし、央中、央南、そして西方の3地域に版図を拡げている。だけどこれは、相当に無理をしていると思う。その侵攻範囲は今や、自分たちの本拠の2倍近い。満足に統治できているか、僕には疑わしい。
     恐らくだけど、本拠地と支配圏の連絡と言うか、意思疎通は滞ってるんじゃないかな」
    「その可能性は高いな。事実、僕の世界でも支配圏が反乱を起こしてから党本部が対応するまでに、2ヶ月か3ヶ月はかかってたって聞いてるし。アオイや白猫といえども、即座には対応できなかったらしい」
    「その連絡方法も、まさかアオイさんや幹部陣が一々、直接現地に渡ったりするとも考え辛い。そんなことしてたら、体がいくつあっても足りないし。
     となれば考えうるのは、電話とか通信術での連絡だ。そして恐らく、彼らはこの方法が絶対に堅牢、誰にも害されるわけがないと信じて疑ってないはずだ。
     何故なら自分たちが、その害する技術を握ってるからだ」
    「なるほどな。自分たちが通信妨害するコトはあっても、まさか自分たちがされるとは思ってないかも知れねーな」
    「そこんとこどうだった、マロ?」
    「へ? ……んー、まあ、そやな。シエナからして、『この世界で唯一まともに電話できるのはアタシたちだけよ』とか吹かしとったしな。思てへんことは無いやろ」
    「その自信を逆手に取って、僕たちがその通信を妨害できないだろうか?」
    「確かにそれができれば、白猫党は慌てふためくでしょうね。でも、そんなことが可能かしら?」
     懐疑的に尋ねる楓に、一聖がトン、と自分の胸を叩く。
    「オレならできるぜ。アイツの卒論も天狐んトコにあるし、解析して流用できるだろう」
    「流石ね」
    「作戦は他にも立てないといけない。もう少し色々詰めたいところだけど、党の内情もできる限り知っておきたい。
     だから一旦、僕たちは帰国するよ。マロ、君を助けるために」
    「ど、どうやって? いや、なんで帰るねん?」
     まだきょとんとしたままのマロに、マークはニッと笑って見せた。
    「君を作戦会議に加えたい。そのためには、いつまでもこうして、面会室でガラス越しに話してるわけにも行かない。
     だから僕の国を通じて、財団に君の身柄を預けてもらうよう働きかける。君の身柄を引き渡してもらえば、事実上釈放されたようなもんだろ?」
    「……マジで?」
    「マロ」
     マークは一転、真面目な顔になる。
    「それまでに体を、できる限り治しておいてほしい。次に会う時には、もう少しはいい顔色で話をしてもらいたいから」
    「お、……おう、分かった」
     まだ呆然としたままのマロに背を向け、マークたちは面会室を後にした。
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