「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・狼煙抄 6
麒麟を巡る話、第554話。
白塗りの裏地。
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6.
帰国するなり、マークは父であるトラス王の元に詰め寄った。
「父上、お話があります」
「聞かんぞ」
が、にべもなく断られる。
「お前がそんな顔をして『話があります』などと改まって言い出すような時は、決まって白猫党をどうにかせんと主張する時だ。
何度も言ったはずだ。放っておけとな」
「いいえ、父上」
出鼻をくじかれたものの、マークは折れない。
「今度こそお聞き入れいただきたいのです」
「聞かんと言っている! 下がれ、マーク」
「下がりません」
「いい加減にしろ!」
トラス王は殊更に不快そうな表情を浮かべ、執務机をバンと平手で打ち、がばっと立ち上がる。
「お前は何度、益体もない話を繰り返せば気が済むのだ!?
いいか、お前が何度も何度も主張するように、彼奴らに攻撃を仕掛けたとする! そうなればどうなる!? 現在の平穏を乱された、彼奴らの支配下にある者が、挙ってお前の軽挙妄動を非難するのは目に見えている! ひいては我が国、我が共同体『新央北』もだ!
お前は自分のわがまま、自己満足のために『新央北』3000万の人間を、いわれなき非難にさらしても構わんと言うのかッ!?」
「それは……」
答えに詰まり、マークは唇を噛む。
「分かったか! 分かったらさっさとこの部屋から出ろ! そしてせいぜい、嫁君に頭を冷やしてもらえ!」
霹靂火(へきれきか)の如く怒鳴るトラス王を前に、マークの心はしぼみかけた。
その時だった。
「頭を冷やすのは父上ではありませんか?」
蹴っ飛ばすように扉を開け、マークの妹、ビッキーが入ってきた。
「なんっ、……どう言う意味か言ってみるがいい、ビクトリア」
「ええ、それでは率直に。
父上、あなたは臆病者の上に被害妄想持ちの、明日も見えぬ枯れた老人です」
「おっ……、お、ま、えええッ!」
娘からの容赦無い罵倒に、トラス王は頭のてっぺん、狼耳の先まで真っ赤にして怒り出した。
「そこまで私を罵倒し倒すのならば、それなりの言い分があるのだろうなッ!?」
「あるから言うのです」
対するビッキーは、淡々と返す。
「父上の言い分は結局『新央北』を言い訳にした、ご自分の主張ではありませんか。
『新央北』に住まう皆様の意見が本当に、一人残らず父上の仰ることと一致しているとは、わたしには到底思えません」
「何を言うかッ!」
「そもそも父上ご自身、お兄様とこの話をされる際に、一度ならず『そうした意見もある』と仰っているではありませんか。ならば父上の意見は、総意とは言えません」
「揚げ足を取るな! 大体だな……」
「父上の仰りようでは、まるで自分の意見こそが唯一のよう。それこそ父上のわがまま、自己主張では?」
「そんなことは……」
「さらに申し上げれば」
ビッキーはもう一歩、踏み込んでくる。
「白猫党の支配下にある人間が、必ずしも父上の仰るように、平穏無事に暮らしているわけではないことも、周知の事実ではないのですか?
わたしが調べたところによれば、央北西部戦争以降に党へ下った国の皆様には、言論の自由も無ければ、好きな職に就ける自由もありません。
白猫党は都市ごとに『領民監督局』なる組織を設置し、党に対して叛意を持つ者が現れぬよう監視していますし、党の軍事力・経済競争力を維持するために大規模工場や集団農園を造り、傘下国の国民の8割以上は強制的に、この施設で労働することを強いられています。
その措置・政策を、党は『領民の意思統一により、適正かつ順調な国家の形成・成長を促す』、『領民全員が健全かつ公平な労働に従事することで、不必要な格差の発生を防ぐ』などと主張しておりますが、わたしにははっきり言って、白猫党は傘下国の皆様に対して家畜を扱うかのように接していらっしゃるようにしか見えません」
「そ、それは語弊が……」
目を白黒させ始めたトラス王に、ビッキーはなおも突っかかる。
「語弊がどうであれ、事実は事実です。白猫党が望むのは傘下国すべてが自分たちに隷属することでしかありません。それは紛れもない、ごまかしようのない事実です。
巧言令色を用いて民を扇動し、愚君を追い払い、その座を奪ってすり替わった上で、かつての愚君より民を賎(いや)しく扱うような彼らを排除して、一体どこの誰が悲しみ、我々を謗(そし)ると言うのですか?」
「きょ、極論に過ぎる。そもそも白猫党はあまりに強い。万が一敗北したら……」
「9割方負かす案を、お兄様はお持ちです。
それを聞きもせず追い返すなんて、為政者としてあまりにも思慮に欠けています。それでも一国の王、『新央北』の宗主ですか!」
今度はビッキーが雷鳴を轟かせ、トラス王を圧倒した。
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白塗りの裏地。
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6.
帰国するなり、マークは父であるトラス王の元に詰め寄った。
「父上、お話があります」
「聞かんぞ」
が、にべもなく断られる。
「お前がそんな顔をして『話があります』などと改まって言い出すような時は、決まって白猫党をどうにかせんと主張する時だ。
何度も言ったはずだ。放っておけとな」
「いいえ、父上」
出鼻をくじかれたものの、マークは折れない。
「今度こそお聞き入れいただきたいのです」
「聞かんと言っている! 下がれ、マーク」
「下がりません」
「いい加減にしろ!」
トラス王は殊更に不快そうな表情を浮かべ、執務机をバンと平手で打ち、がばっと立ち上がる。
「お前は何度、益体もない話を繰り返せば気が済むのだ!?
いいか、お前が何度も何度も主張するように、彼奴らに攻撃を仕掛けたとする! そうなればどうなる!? 現在の平穏を乱された、彼奴らの支配下にある者が、挙ってお前の軽挙妄動を非難するのは目に見えている! ひいては我が国、我が共同体『新央北』もだ!
お前は自分のわがまま、自己満足のために『新央北』3000万の人間を、いわれなき非難にさらしても構わんと言うのかッ!?」
「それは……」
答えに詰まり、マークは唇を噛む。
「分かったか! 分かったらさっさとこの部屋から出ろ! そしてせいぜい、嫁君に頭を冷やしてもらえ!」
霹靂火(へきれきか)の如く怒鳴るトラス王を前に、マークの心はしぼみかけた。
その時だった。
「頭を冷やすのは父上ではありませんか?」
蹴っ飛ばすように扉を開け、マークの妹、ビッキーが入ってきた。
「なんっ、……どう言う意味か言ってみるがいい、ビクトリア」
「ええ、それでは率直に。
父上、あなたは臆病者の上に被害妄想持ちの、明日も見えぬ枯れた老人です」
「おっ……、お、ま、えええッ!」
娘からの容赦無い罵倒に、トラス王は頭のてっぺん、狼耳の先まで真っ赤にして怒り出した。
「そこまで私を罵倒し倒すのならば、それなりの言い分があるのだろうなッ!?」
「あるから言うのです」
対するビッキーは、淡々と返す。
「父上の言い分は結局『新央北』を言い訳にした、ご自分の主張ではありませんか。
『新央北』に住まう皆様の意見が本当に、一人残らず父上の仰ることと一致しているとは、わたしには到底思えません」
「何を言うかッ!」
「そもそも父上ご自身、お兄様とこの話をされる際に、一度ならず『そうした意見もある』と仰っているではありませんか。ならば父上の意見は、総意とは言えません」
「揚げ足を取るな! 大体だな……」
「父上の仰りようでは、まるで自分の意見こそが唯一のよう。それこそ父上のわがまま、自己主張では?」
「そんなことは……」
「さらに申し上げれば」
ビッキーはもう一歩、踏み込んでくる。
「白猫党の支配下にある人間が、必ずしも父上の仰るように、平穏無事に暮らしているわけではないことも、周知の事実ではないのですか?
わたしが調べたところによれば、央北西部戦争以降に党へ下った国の皆様には、言論の自由も無ければ、好きな職に就ける自由もありません。
白猫党は都市ごとに『領民監督局』なる組織を設置し、党に対して叛意を持つ者が現れぬよう監視していますし、党の軍事力・経済競争力を維持するために大規模工場や集団農園を造り、傘下国の国民の8割以上は強制的に、この施設で労働することを強いられています。
その措置・政策を、党は『領民の意思統一により、適正かつ順調な国家の形成・成長を促す』、『領民全員が健全かつ公平な労働に従事することで、不必要な格差の発生を防ぐ』などと主張しておりますが、わたしにははっきり言って、白猫党は傘下国の皆様に対して家畜を扱うかのように接していらっしゃるようにしか見えません」
「そ、それは語弊が……」
目を白黒させ始めたトラス王に、ビッキーはなおも突っかかる。
「語弊がどうであれ、事実は事実です。白猫党が望むのは傘下国すべてが自分たちに隷属することでしかありません。それは紛れもない、ごまかしようのない事実です。
巧言令色を用いて民を扇動し、愚君を追い払い、その座を奪ってすり替わった上で、かつての愚君より民を賎(いや)しく扱うような彼らを排除して、一体どこの誰が悲しみ、我々を謗(そし)ると言うのですか?」
「きょ、極論に過ぎる。そもそも白猫党はあまりに強い。万が一敗北したら……」
「9割方負かす案を、お兄様はお持ちです。
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NoTitle
もうどっちが白猫党だかわからんな……。
とビッキーさんの言動を見て思う。(^^;)
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NoTitle
もしかしたらそうなる未来も、白猫たちが見ていたかも知れませんね。