「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・狼煙抄 7
麒麟を巡る話、第555話。
若き狼、反撃の狼煙を上げる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「きゅ、……9割方負かすだと!? 馬鹿な、そんなことができるものかっ」
声を荒らげて見せたが、明らかにトラス王の勢いは失われている。
それに乗じるように、ビッキーはマークに向き直った。
「さ、お兄様。お膳立ては整いました。どうぞ、お話し下さいな」
「い、いや、ビッキー?」
完全に場の空気に呑まれ、唖然としていたマークが、どうにか声を絞り出す。
「なんで知ってるの?」
「カズセちゃんとルナさんとフィオさんと……、つまり『フェニックス』の皆様に伺いました。
と言っても彼らの方から話されたわけではありません。わたしが勘付いてカマを掛けましたから、あの人たちの誠意は疑わなくても大丈夫ですよ」
「……大した奴だよ、君は、本当」
マークはいつの間にか額に浮いていた汗を拭い、こほんと咳払いして、トラス王に向き直った。
「ビッキーからお聞きいただいた通り、白猫党は配下にある国に対し、極めて不平等な関係を強いています。傘下国の憤懣(ふんまん)やるかたないこと、察するに余りあります。
ですので白猫党がかつて行ったように、彼らに反乱を促させては如何でしょうか? これが策の一つ目です」
「一つ目?」
「ええ。勿論、白猫党の監視が行き届き、あちこちに兵士が配備されているような現状では、そんな反乱は起こすに起こせません。けしかけたとしても、相手に見破られて開戦の口実にされるだけでしょう。
そこで二つ目の策として、その監視の目を曇らせ、兵士を散らせてしまうのです。ですがその策を実行するためには、彼らの側に、あるいは側にかつていた者に、協力者が必要です」
「マラネロ氏のことですね?」
尋ねたビッキーに、マークはぎこちなくうなずく。
「そうだけど、先に先に言わないでほしいな。話の段取りがあるんだし」
「お兄様の段取りは、先程父上に突っぱねられたでしょう?」
「それはそれだよ、もう……。
まあ、その、ビッキーの言った通りです。まず第一に、白猫党の元幹部であったマラネロ・ゴールドマン氏を我が国に招聘したいのです。
ですが氏は現在、市国の刑務所に収監されております」
「刑務所!? 罪人をわざわざ呼べと言うのか!?」
「それだけの価値がある男です。
父上、どうかゴールドコースト市国に掛け合い、氏の身柄を預かるよう要請していただけませんか?」
「馬鹿を言え! そんな要求、彼らが呑むものか!
百歩譲って呑んだとしても、5000万エルだの1億エルだのと言う、法外な保釈金を要求されるのは目に見えている! そんな金を出すことを、私が納得すると思うのか!?」
「交渉次第です。『氏を預けてもらえば、白猫党を央中全域から引き上げさせることができる』と言えば、彼らは二つ返事で、氏の身柄を無償で預けてくれるでしょう」
「……ふむ」
マークの言葉に、トラス王は黙り込んだ。
「確かに……、央中にはびこる彼奴らを追い払えるとなれば、大抵の要求は通るだろう。
マーク。お前の策が成功する可能性は、お前自身は何割と見ている?」
「最大限に弄したとして、6割、いえ、7割」
「賭けるには心許ない率だ」
「ですが、賭けるだけの価値はあります。
それは決して、僕の自己満足を満たすと言う小さなものではなく、人類の歴史を懸けるだけの意義がある、そう言う規模での価値です」
「人類の歴史だと? 大きく出たな」
「彼らがもし世界全域にその手を伸ばしきり、『世界再平定』などと言う愚かな夢を実現させ、世界全人類が白猫党の家畜と化す未来と、世界の人々が真に抑圧や隷属から逃れ、自由と平等を克ち得る未来とを天秤に掛ければ、誰もが後者を重いものとするでしょう」
「大言壮語ばかり並べおって。まったく、お前と言う奴は」
トラス王ははーっ、と大きくため息をつき、壁に掛けられていた電話を取った。
「金火狐総帥に連絡する。少し待て」
「……ありがとうございます」
マークと、そしてビッキーは、深々と頭を下げた。
それから5分後、マロの身柄は正式に、トラス王国に預けられることが決定した。
フィオが全く知らない、「フェニックス」の誰もが予想し得なかった未来が、この時――マークを先頭にして、その姿を現し始めた。
白猫夢・狼煙抄 終
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若き狼、反撃の狼煙を上げる。
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「きゅ、……9割方負かすだと!? 馬鹿な、そんなことができるものかっ」
声を荒らげて見せたが、明らかにトラス王の勢いは失われている。
それに乗じるように、ビッキーはマークに向き直った。
「さ、お兄様。お膳立ては整いました。どうぞ、お話し下さいな」
「い、いや、ビッキー?」
完全に場の空気に呑まれ、唖然としていたマークが、どうにか声を絞り出す。
「なんで知ってるの?」
「カズセちゃんとルナさんとフィオさんと……、つまり『フェニックス』の皆様に伺いました。
と言っても彼らの方から話されたわけではありません。わたしが勘付いてカマを掛けましたから、あの人たちの誠意は疑わなくても大丈夫ですよ」
「……大した奴だよ、君は、本当」
マークはいつの間にか額に浮いていた汗を拭い、こほんと咳払いして、トラス王に向き直った。
「ビッキーからお聞きいただいた通り、白猫党は配下にある国に対し、極めて不平等な関係を強いています。傘下国の憤懣(ふんまん)やるかたないこと、察するに余りあります。
ですので白猫党がかつて行ったように、彼らに反乱を促させては如何でしょうか? これが策の一つ目です」
「一つ目?」
「ええ。勿論、白猫党の監視が行き届き、あちこちに兵士が配備されているような現状では、そんな反乱は起こすに起こせません。けしかけたとしても、相手に見破られて開戦の口実にされるだけでしょう。
そこで二つ目の策として、その監視の目を曇らせ、兵士を散らせてしまうのです。ですがその策を実行するためには、彼らの側に、あるいは側にかつていた者に、協力者が必要です」
「マラネロ氏のことですね?」
尋ねたビッキーに、マークはぎこちなくうなずく。
「そうだけど、先に先に言わないでほしいな。話の段取りがあるんだし」
「お兄様の段取りは、先程父上に突っぱねられたでしょう?」
「それはそれだよ、もう……。
まあ、その、ビッキーの言った通りです。まず第一に、白猫党の元幹部であったマラネロ・ゴールドマン氏を我が国に招聘したいのです。
ですが氏は現在、市国の刑務所に収監されております」
「刑務所!? 罪人をわざわざ呼べと言うのか!?」
「それだけの価値がある男です。
父上、どうかゴールドコースト市国に掛け合い、氏の身柄を預かるよう要請していただけませんか?」
「馬鹿を言え! そんな要求、彼らが呑むものか!
百歩譲って呑んだとしても、5000万エルだの1億エルだのと言う、法外な保釈金を要求されるのは目に見えている! そんな金を出すことを、私が納得すると思うのか!?」
「交渉次第です。『氏を預けてもらえば、白猫党を央中全域から引き上げさせることができる』と言えば、彼らは二つ返事で、氏の身柄を無償で預けてくれるでしょう」
「……ふむ」
マークの言葉に、トラス王は黙り込んだ。
「確かに……、央中にはびこる彼奴らを追い払えるとなれば、大抵の要求は通るだろう。
マーク。お前の策が成功する可能性は、お前自身は何割と見ている?」
「最大限に弄したとして、6割、いえ、7割」
「賭けるには心許ない率だ」
「ですが、賭けるだけの価値はあります。
それは決して、僕の自己満足を満たすと言う小さなものではなく、人類の歴史を懸けるだけの意義がある、そう言う規模での価値です」
「人類の歴史だと? 大きく出たな」
「彼らがもし世界全域にその手を伸ばしきり、『世界再平定』などと言う愚かな夢を実現させ、世界全人類が白猫党の家畜と化す未来と、世界の人々が真に抑圧や隷属から逃れ、自由と平等を克ち得る未来とを天秤に掛ければ、誰もが後者を重いものとするでしょう」
「大言壮語ばかり並べおって。まったく、お前と言う奴は」
トラス王ははーっ、と大きくため息をつき、壁に掛けられていた電話を取った。
「金火狐総帥に連絡する。少し待て」
「……ありがとうございます」
マークと、そしてビッキーは、深々と頭を下げた。
それから5分後、マロの身柄は正式に、トラス王国に預けられることが決定した。
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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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NoTitle
なるほどこれが歴史の転換点になるわけですか。
でもこれでも未来予知能力といえるまでの計算能力を持つ相手には分が悪そうだなあ……。
でもこれでも未来予知能力といえるまでの計算能力を持つ相手には分が悪そうだなあ……。
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NoTitle
予知対策については、次回みんなで論じます。