「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・掴雲抄 5
麒麟を巡る話、第560話。
ビッキーの驚くべき奇策。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
ビッキーの意図が読めず、マークとフィオは同時に首を傾げた。
「って言うと?」
「お兄様が、本来わたしが行うはずだったと言う『コンチネンタル』を実行し、その結果、白猫党を大混乱に陥れることに成功すれば、アオイはその収拾に当たるはずです。
それはフィオさんの世界で、事実として起こっていたことであり、わたしたちの世界においても、実際に事態の収拾を付けなければ、彼女の目論見が破綻するからです」
「まあ、うん」
「そう言われてみれば、やらないわけが無いよな」
「となれば、この一点においてはかなり高い精度で、アオイの動きを読めるのではないでしょうか?」
「なるほど……」
「確かに、可能性は高そうだ。となるとその情報をどう活かすか、だよな」
依然として難しい表情を互いに浮かべながら、マークとフィオが相談する。
「僕が『コンチネンタル』を実行し、白猫党が大混乱に陥るとする」
「そこでアオイが動く。……まではいいとして」
「そのアオイさんをどうすりゃいいのかな」
「どうって、……真っ向から戦うのは無茶だよな。カズラがいるとは言え」
「あの」
と、ビッキーが呆れた顔で二人を見つめている。
「なに?」
「お兄様。そしてフィオさん。あなた方二人とも、ずれてます。見当違いもいいところです」
「はあ?」
「アオイをどうかしなきゃってことは確かだろ?」
「詰め方が下手だと言ってるんです。チェスの3手目、5手目でいきなりキングを取ろうとするような話をしてどうするんですか」
「え?」
ビッキーの突飛な比喩に、二人は硬直する。
「白猫党が大混乱に陥れば、アオイはチューリン女史を身代わりにして収拾を付ける。アオイがそう行動すると読んだ上で、さらにもう一手、講じる必要があります。
彼女が取るであろうその行動を、先回りして取れないようにしては如何かと、わたしは思うのですが」
「そんなことしてどうなるのさ?」
「どんな人間であろうと、いいえ、アオイほどの英傑であればこそ、自分がまったく予想できないような事態に直面すれば、その思考を完全に破綻させることができるはずです。
例えばフィオさんたちがそのままチューリン女史の処刑現場に赴き、アオイと戦うとしても、勝利するかどうかは怪しいでしょう?」
「確かに不安要素はある」
「その不安は結局、アオイがどんな手を打ってくるか分からない、予測できないと言うところに起因しています。今までに伺ったお話でも、確かに奇想天外な行動ばかりしていると、わたしも思ってます。
ですが彼女がわたしたちの予想をそれだけ覆せるのは、彼女が万全であるからこそ。彼女の思考が、彼女自身にとって正常に動いていればこそ、わたしたちに考えの付かない行動を取り、周囲を翻弄できるのではないでしょうか?」
「はあ……、まあ」
「だろうと思う」
「その思考・論理を崩し、彼女の思考を破綻・停止させて初めて、お兄様たちに勝機が訪れるんです。
例えばカズラさんがアオイを撃退した時、アオイの予知能力でカズラさんの動きが捉えられない、などと言うことは、彼女にとってはまさに予想外の出来事だったはずです。
そしてその事態に直面したその時、彼女はすぐにその場から逃げ去ったとも聞いています。その行動こそ、わたしたちからすれば非常に分かりやすい選択です。『どうしていいか分からなくなって逃げた』と、容易に看破できる行動です。
即ち――これと同様に彼女の思考を破綻させ、前後不覚に陥らせることができれば、その瞬間だけは彼女をわたしたちの意のままに操り、御すことが可能になるはずです」
「ふむ……」
と、ここで葛が手を挙げる。
「例えばさー、ビッキーちゃんはどうしようって思ってるのー?」
「と仰ると?」
「姉貴がうろたえるよーなコトするってなると、相当とんでもないコトしなきゃいけないよ? その、チューリンさんのトコまで行って、あたしたちは何をすればいいの?」
「単純明快です」
ビッキーはビシ、と葛を指差した。
「そのチューリン女史をさらいなさい」
「なっ……」
ビッキーの言葉に、マークが目を丸くする。
「アオイさんも相当奇矯な人だけど、君もなかなか、とんでもないことばっかり考えつくなぁ。
いやでも、確かに生贄にしようとしてたシエナさんがいなくなれば、アオイさんにとっては相当なダメージだ。他に身代わりなんていないわけだし。僕がアオイさんの立場だったら、卒倒しかねないよ」
「一考の余地はございますわね」
「ただし、この計画を実行するとなれば、非常にシビアなタイミングを狙わなければならないでしょうね」
ビッキーは腕を組み、持論の展開を続ける。
「遅く実行しようとすれば、チューリン女史が亡くなってしまいます。かと言ってすぐ実行しようものなら、アオイさんは別の身代わりか、別の作戦を立ててしまうでしょう。
実行のタイミングは、まさにフィオさんのお話の通り――白猫党が混乱の極みにあり、それを収拾しようとアオイさんが動く、その直前です」
白猫夢・掴雲抄 終
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ビッキーの驚くべき奇策。
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ビッキーの意図が読めず、マークとフィオは同時に首を傾げた。
「って言うと?」
「お兄様が、本来わたしが行うはずだったと言う『コンチネンタル』を実行し、その結果、白猫党を大混乱に陥れることに成功すれば、アオイはその収拾に当たるはずです。
それはフィオさんの世界で、事実として起こっていたことであり、わたしたちの世界においても、実際に事態の収拾を付けなければ、彼女の目論見が破綻するからです」
「まあ、うん」
「そう言われてみれば、やらないわけが無いよな」
「となれば、この一点においてはかなり高い精度で、アオイの動きを読めるのではないでしょうか?」
「なるほど……」
「確かに、可能性は高そうだ。となるとその情報をどう活かすか、だよな」
依然として難しい表情を互いに浮かべながら、マークとフィオが相談する。
「僕が『コンチネンタル』を実行し、白猫党が大混乱に陥るとする」
「そこでアオイが動く。……まではいいとして」
「そのアオイさんをどうすりゃいいのかな」
「どうって、……真っ向から戦うのは無茶だよな。カズラがいるとは言え」
「あの」
と、ビッキーが呆れた顔で二人を見つめている。
「なに?」
「お兄様。そしてフィオさん。あなた方二人とも、ずれてます。見当違いもいいところです」
「はあ?」
「アオイをどうかしなきゃってことは確かだろ?」
「詰め方が下手だと言ってるんです。チェスの3手目、5手目でいきなりキングを取ろうとするような話をしてどうするんですか」
「え?」
ビッキーの突飛な比喩に、二人は硬直する。
「白猫党が大混乱に陥れば、アオイはチューリン女史を身代わりにして収拾を付ける。アオイがそう行動すると読んだ上で、さらにもう一手、講じる必要があります。
彼女が取るであろうその行動を、先回りして取れないようにしては如何かと、わたしは思うのですが」
「そんなことしてどうなるのさ?」
「どんな人間であろうと、いいえ、アオイほどの英傑であればこそ、自分がまったく予想できないような事態に直面すれば、その思考を完全に破綻させることができるはずです。
例えばフィオさんたちがそのままチューリン女史の処刑現場に赴き、アオイと戦うとしても、勝利するかどうかは怪しいでしょう?」
「確かに不安要素はある」
「その不安は結局、アオイがどんな手を打ってくるか分からない、予測できないと言うところに起因しています。今までに伺ったお話でも、確かに奇想天外な行動ばかりしていると、わたしも思ってます。
ですが彼女がわたしたちの予想をそれだけ覆せるのは、彼女が万全であるからこそ。彼女の思考が、彼女自身にとって正常に動いていればこそ、わたしたちに考えの付かない行動を取り、周囲を翻弄できるのではないでしょうか?」
「はあ……、まあ」
「だろうと思う」
「その思考・論理を崩し、彼女の思考を破綻・停止させて初めて、お兄様たちに勝機が訪れるんです。
例えばカズラさんがアオイを撃退した時、アオイの予知能力でカズラさんの動きが捉えられない、などと言うことは、彼女にとってはまさに予想外の出来事だったはずです。
そしてその事態に直面したその時、彼女はすぐにその場から逃げ去ったとも聞いています。その行動こそ、わたしたちからすれば非常に分かりやすい選択です。『どうしていいか分からなくなって逃げた』と、容易に看破できる行動です。
即ち――これと同様に彼女の思考を破綻させ、前後不覚に陥らせることができれば、その瞬間だけは彼女をわたしたちの意のままに操り、御すことが可能になるはずです」
「ふむ……」
と、ここで葛が手を挙げる。
「例えばさー、ビッキーちゃんはどうしようって思ってるのー?」
「と仰ると?」
「姉貴がうろたえるよーなコトするってなると、相当とんでもないコトしなきゃいけないよ? その、チューリンさんのトコまで行って、あたしたちは何をすればいいの?」
「単純明快です」
ビッキーはビシ、と葛を指差した。
「そのチューリン女史をさらいなさい」
「なっ……」
ビッキーの言葉に、マークが目を丸くする。
「アオイさんも相当奇矯な人だけど、君もなかなか、とんでもないことばっかり考えつくなぁ。
いやでも、確かに生贄にしようとしてたシエナさんがいなくなれば、アオイさんにとっては相当なダメージだ。他に身代わりなんていないわけだし。僕がアオイさんの立場だったら、卒倒しかねないよ」
「一考の余地はございますわね」
「ただし、この計画を実行するとなれば、非常にシビアなタイミングを狙わなければならないでしょうね」
ビッキーは腕を組み、持論の展開を続ける。
「遅く実行しようとすれば、チューリン女史が亡くなってしまいます。かと言ってすぐ実行しようものなら、アオイさんは別の身代わりか、別の作戦を立ててしまうでしょう。
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「鷲は舞い降りた」というよりも「鷲狩りに向かう」といったところでしょうか。