黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・撹波抄 1

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    麒麟を巡る話、第561話。
    管理下において;朝。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    1.
    《午前7時になりました。皆さん、起床しましょう。繰り返します、午前7時になりました。皆さん、起床しましょう》
     街中に取り付けられたスピーカーから、白猫党員によるアナウンスが聞こえてくる。
    「……ふあ、あ」
     もそもそとベッドから起き上がり、彼は寝室を後にしようとする。
     と、妻がまだベッドにいることに気付き、声をかける。
    「起きろよ、リンダ。急がないと」
    「ふにゃ……、ええ、うん。分かってる……、ふあっ」
     欠伸しながら、妻のリンダがベッドからのそのそと起き出す。
     二人で洗面所の前に並び、揃って歯ブラシを手に取る。
    「今日も残業?」
    「いや、今日は定時通りに帰れることになった」
    「そう」
     二人の会話は、短い。
     結婚して数年になり、半ば倦怠期に入ってきていることも理由の一つだが、他にももっと、大きな理由があるのだ。
    「ご飯作るね」
    「ああ」
     先にリンダが洗面所を出る。その間にひげを剃り、着替えを済ませ、食卓に着く。
    「いただきます」「いただきます」
     食事の挨拶を済ませ、淡々と、二人は食べ物を口に運ぶ。その間、また二人は無口になる。
     しかし食卓は、静かではない。
    《次のニュースです。昨日、我が白猫党の政務対策本部より、央南の青州が正式に、我が党の管理下に置かれることとなったとの発表がありました》
     卓上には白猫党から支給されたラジオが置かれており、延々とニュースや音楽を流しているからだ。
     しかしその大半が、遠く離れた地が白猫党の配下に収まったとか、為替相場でクラムの価値が騰がっていると言った、この夫婦にとってどうでもいいような内容である。
     当然、夫婦がこれらのニュースに対する意見を交わすようなことも無く、黙々と、食卓が片付けられていくだけである。
    「ごちそうさま」「ごちそうさま」
     同時に食べ終わり、リンダが淡々と食器を片付ける。
    「じゃ、先に行くよ」
    「うん」
     彼がかばんを手に取ったところで、リンダが声をかける。
    「ホルヒ、ちょっと待って」
    「え?」
    「お弁当」
    「ああ」
     リンダから弁当箱を受け取ろうとしたところで、彼女がすまなそうな顔で、猫耳をぺたんと伏せながら、謝ってきた。
    「ごめんね。わたしが寝坊したせいで」
    「いいよ。君の料理は美味しいから」
    「でも、食費……」
    「大丈夫さ。じゃ、行ってくるよ。君も遅れないようにね」
    「うん」
     そうこうしているうちに、アナウンスが時報を告げた。
    《午前7時45分になりました。管理職の皆さんは、速やかに上級バスに乗って下さい》

    「上級」とは名ばかりの、普通のバスと何ら変わりのない、硬い金属製の椅子に座ったところで、バスが動き出した。
    「よお、ホルヒ」
    「ああ、おはようサントス」
     横に座っていた同僚が、ニヤニヤしながらかばんを見つめてくる。
    「何だよ?」
    「愛妻弁当か、今日も?」
     嫌味を言われるが、ホルヒは顔に出さない。
    「ああ」
    「大変だなぁ、お前んとこも」
    「別に」
    「チケット、もう無いんだろ? 俺が売ってやろうか?」
    「党領内管理法違反だ」
    「大丈夫だって、こそっとやれば誰にも分かんねえよ」
    「俺にはこれで十分だ」
     ホルヒはかばんを叩き、ぷい、と窓の方に顔を背けた。
    「へっ、やせ我慢は続くもんじゃねえぜ」
     同僚がまだ何か言っていたが、ホルヒの意識は既に窓の外に向けられており、彼の短い耳には一切届かなかった。

    「おはようございます」
     中間管理職クラスの人間が集められ、工場の朝礼が行われる。
    「おはよう、諸君」
     白猫党員のバッジを胸に付け、偉そうにでっぷりと太った工場長が、大儀そうに頭を下げる。
    「昨日までの特別スケジュールが完遂されたことで、党からの追加注文はすべて、無事に納品することができた。ありがとう、諸君。
     しかしまた、党より追加注文があった。ついては明日よりまた、特別スケジュールでの稼働をしてもらいたい。よろしく頼んだぞ」
    「はい、了解いたしました」
     ホルヒを含め、その場にいた人間は淡々と、そう答えた。
     何故ならこうした「特別スケジュール」はこの数年にわたってほぼ毎日組まれており、誰もが再度組まれることを予想していたからである。
     朝礼が終わるとともに、工場のスピーカーからアナウンスが流れてきた。
    《午前9時になりました。皆さん、本日の作業を開始しましょう。繰り返します、午前9時になりました。皆さん、本日の作業を開始しましょう》
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