「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・撹波抄 2
麒麟を巡る話、第562話。
管理下において;昼。
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2.
《午後1時になりました。皆さん、休憩しましょう。繰り返します、午後1時になりました。皆さん、休憩しましょう》
スピーカーから休憩時間が告げられ、工場内にいた者たちはぞろぞろと、食堂へ向かう。
しかしホルヒは一人、休憩室に入り、ロッカーからかばんを取り出した。
「よお、ホルヒ」
休憩室の奥で煙草を吸っていた、あの面倒くさい同僚が声をかけてくる。
「おつかれ、サントス」
「どこで食うんだ?」
「公園」
「ヨメさんとか?」
「そうだ」
「お前も大変だなぁ。あんなのが相手じゃなぁ」
「お前には分からないよ。彼女の良さは」
「いやぁ分かるさ、たまんねえ体つき……」
まだ何かわめいていたが、ホルヒは構わず外に出た。
工場から出て2、3分ほど歩き、ホルヒは公園に到着する。
「こっち、こっち」
すぐにリンダを見付け、ホルヒは彼女の隣りに座る。
「席、取っておいたよ」
「ありがとう」
「ここ、静かでしょ?」
「……あんまり、大きな声で言っちゃいけないよ」
「あ、……うん」
「じゃ、いただきます」「いただきます」
揃って弁当箱を開け、二人は黙々と食事を始めた。
「今日は大丈夫だった?」
と、ホルヒが尋ねる。
「あ、うん。二度寝しなかったよ。ちゃんと8時15分のバスに乗れた」
「そうか」
「ごめんね。わたしのせいで、あなたのチケットまで没収されちゃって」
「いいさ。こうして昼ご飯が食べられるんだから、実害はない。よそじゃ更生施設に送られるなんて話もあるんだから、チケットが没収されるだけで済んで良かったよ」
「……うん」
落ち込んだ様子のリンダをなぐさめるように、ホルヒがつぶやく。
「本当にここは静かだね」
「え? あ、うん、そうでしょ? スピーカーも無いし」
「ああ。本当にあれは、気が休まらないからな」
「うんうん」
「でも難を挙げれば、時間が分からないことかな。もう少しゆっくりしていたいけど、そろそろ行かなきゃ」
ホルヒはそう言って、懐中時計をリンダに見せた。
「あ、本当。そろそろね」
「じゃ、行こうか」
「うん」
二人揃って公園を後にし、道を歩いているところで、またあのうっとうしいスピーカーが騒ぎ始めた。
《午後1時45分になりました。皆さん、それぞれの職場に戻りましょう。繰り返します……》
二人の職場である工場に戻ったところで、白猫党の車が工場の門前に停まっているのが見えた。
「ん……?」
「何かあったのかな?」
顔を見合わせている間に、奥から白猫党の憲兵2名と、彼らに両脇を抱えて連行される、あのいけ好かない同僚の姿が目に映った。
「お、おい! ホルヒ! ホルヒ・エランド! た、助けてくれよ! 証言してくれ!」
「……」
ひと目で面倒事に巻き込まれそうだと察したホルヒは、黙って見送る。
「なあ! おいって! 証言してくれ! 俺は何にもやってないんだって!」
と、同行していた憲兵が、ホルヒの方に近付いてきた。
「なんでしょう?」
尋ねたホルヒに、憲兵が尋ねてくる。
「君は、彼が不当に配給チケットの販売を行っていたと知っていたか?」
「いいえ」
「関わったことは?」
「ありません」
「本当に?」
「私と妻は今月のはじめ、遅刻によるペナルティとしてチケットを没収されています。それ以降、チケットを手にしていません。
もしその後にチケットを入手していたら、外で食事はしないでしょう。食費も馬鹿になりませんしね」
そう言って、ホルヒはかばんから弁当箱を取り出す。横にいたリンダからも同様に弁当箱を見せられ、憲兵はうなずいた。
「ふむ、失礼した。……まあ、規則は守るように」
「はい」
まだ何かわめき立てている元同僚に背を向け、ホルヒたちは工場の中へ入る。
それから数分後、工場は何事も無かったかのように、スピーカーからの指示と共に稼働し始めた。
《午後2時になりました。皆さん、作業を再開して下さい。繰り返します……》
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2.
《午後1時になりました。皆さん、休憩しましょう。繰り返します、午後1時になりました。皆さん、休憩しましょう》
スピーカーから休憩時間が告げられ、工場内にいた者たちはぞろぞろと、食堂へ向かう。
しかしホルヒは一人、休憩室に入り、ロッカーからかばんを取り出した。
「よお、ホルヒ」
休憩室の奥で煙草を吸っていた、あの面倒くさい同僚が声をかけてくる。
「おつかれ、サントス」
「どこで食うんだ?」
「公園」
「ヨメさんとか?」
「そうだ」
「お前も大変だなぁ。あんなのが相手じゃなぁ」
「お前には分からないよ。彼女の良さは」
「いやぁ分かるさ、たまんねえ体つき……」
まだ何かわめいていたが、ホルヒは構わず外に出た。
工場から出て2、3分ほど歩き、ホルヒは公園に到着する。
「こっち、こっち」
すぐにリンダを見付け、ホルヒは彼女の隣りに座る。
「席、取っておいたよ」
「ありがとう」
「ここ、静かでしょ?」
「……あんまり、大きな声で言っちゃいけないよ」
「あ、……うん」
「じゃ、いただきます」「いただきます」
揃って弁当箱を開け、二人は黙々と食事を始めた。
「今日は大丈夫だった?」
と、ホルヒが尋ねる。
「あ、うん。二度寝しなかったよ。ちゃんと8時15分のバスに乗れた」
「そうか」
「ごめんね。わたしのせいで、あなたのチケットまで没収されちゃって」
「いいさ。こうして昼ご飯が食べられるんだから、実害はない。よそじゃ更生施設に送られるなんて話もあるんだから、チケットが没収されるだけで済んで良かったよ」
「……うん」
落ち込んだ様子のリンダをなぐさめるように、ホルヒがつぶやく。
「本当にここは静かだね」
「え? あ、うん、そうでしょ? スピーカーも無いし」
「ああ。本当にあれは、気が休まらないからな」
「うんうん」
「でも難を挙げれば、時間が分からないことかな。もう少しゆっくりしていたいけど、そろそろ行かなきゃ」
ホルヒはそう言って、懐中時計をリンダに見せた。
「あ、本当。そろそろね」
「じゃ、行こうか」
「うん」
二人揃って公園を後にし、道を歩いているところで、またあのうっとうしいスピーカーが騒ぎ始めた。
《午後1時45分になりました。皆さん、それぞれの職場に戻りましょう。繰り返します……》
二人の職場である工場に戻ったところで、白猫党の車が工場の門前に停まっているのが見えた。
「ん……?」
「何かあったのかな?」
顔を見合わせている間に、奥から白猫党の憲兵2名と、彼らに両脇を抱えて連行される、あのいけ好かない同僚の姿が目に映った。
「お、おい! ホルヒ! ホルヒ・エランド! た、助けてくれよ! 証言してくれ!」
「……」
ひと目で面倒事に巻き込まれそうだと察したホルヒは、黙って見送る。
「なあ! おいって! 証言してくれ! 俺は何にもやってないんだって!」
と、同行していた憲兵が、ホルヒの方に近付いてきた。
「なんでしょう?」
尋ねたホルヒに、憲兵が尋ねてくる。
「君は、彼が不当に配給チケットの販売を行っていたと知っていたか?」
「いいえ」
「関わったことは?」
「ありません」
「本当に?」
「私と妻は今月のはじめ、遅刻によるペナルティとしてチケットを没収されています。それ以降、チケットを手にしていません。
もしその後にチケットを入手していたら、外で食事はしないでしょう。食費も馬鹿になりませんしね」
そう言って、ホルヒはかばんから弁当箱を取り出す。横にいたリンダからも同様に弁当箱を見せられ、憲兵はうなずいた。
「ふむ、失礼した。……まあ、規則は守るように」
「はい」
まだ何かわめき立てている元同僚に背を向け、ホルヒたちは工場の中へ入る。
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