黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・撹波抄 3

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    麒麟を巡る話、第563話。
    管理下において;晩。

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    3.
    《午後6時になりました。定時勤務の皆さんは、作業を止めて退勤しましょう。残業勤務のある皆さんは、1時間の休憩を取りましょう。繰り返します……》
     スピーカーからの指示が終わらないうちに、工場からぞろぞろと人が出てくる。
    「いやぁ、今日はびっくりしたなぁ」
    「イメネス班長が逮捕されたってやつ?」
    「うんうん、びっくりしたよねー」
    「でも俺、あのおっさん嫌いだったんだよな。いなくなってせいせいする」
    「あ、分かる。あたしも嫌いだった」
    「そうそう、あのおっさん……」
     工員たちの話題は、今日起こった事件のことで持ち切りだった。

     彼らには、それ以外の話題が一つも無いのだ。
     何故なら――。
    (こうして何の味気も無い一日が終わる。明日もまた無味乾燥の、同じ一日だ。その次もまた、同じ一日。朝7時に起きて、9時に仕事が始まる。13時に休憩。14時再開。18時に終業。残業があれば、23時までだ。
     俺たちにはそれ以外が、無い。
     遊びに行く時間は無い。学ぶ時間も無い。与えられないんだ。仕事が終われば、すぐバスに乗せられて『自宅』行きだ。その自宅なんてのも名ばかり、奴らが指定した集合住宅に連行されるんだ。
     そこから残りわずかな時間で遊ぼうにも、集合住宅の周りにある店は食糧品店と日用品店と、後は制服やパジャマを売ってるところしか無い。本屋とか喫茶店とか、その他遊べる店なんて、近くに一つも無い。そんな楽しい店なんか、バスで2時間以上かかる街にしか無いし、そこまで行くと『帰宅時刻』をオーバーしてしまう。午前0時には、スピーカーから『寝ろ』と命令されるんだからな。
     かと言って、休日なんてものもずっと前から、無い。ずっとずっと、『特別スケジュール』を組まされて、引っ切り無しに働かされている。週末も、双月節も、関係なしにだ。俺なんかもう500日か、600日は連続で働かされてる。
     その『スケジュール』を乱せば――遅刻や欠勤なんかしたヤツ、時間を守らないヤツは、容赦なくペナルティが課せられる。配給チケットを没収され、昼食や酒、煙草、薬がもらえなくなる。その上、『反省の色が見られない』と判断されたヤツは強制連行されて『更生施設』に入れられ、そのまま行方不明って話だ。
     俺たちはみんな、白猫党を維持するための部品なんだ。その維持を乱すヤツは不良品、そのまま……)
    「……廃棄することとします。では次、エランド班長。本日の作業報告をお願いします」
    「……」
    「エランド班長?」
    「……」
    「エランド? 呼ばれてるぞ」
    「あ、……すみません」
     物思いにふけっていたホルヒは慌てて立ち上がり、本日の成果を報告した。

     ホルヒが家に戻ったのは、午後10時を回った頃だった。
    「おかえり」
    「ただいま。……まだ起きてたのか? 疲れてるだろ?」
    「先に寝てるの、嫌だから。ご飯できてるよ」
    「そうか、ありがとう。すぐ食べるよ」
     この間も、ラジオはニュースと音楽を、繰り返し流している。
     騒々しいのを嫌うホルヒとしては電源を落としてしまいたいのだが、落とせばそれも、白猫党が定めた法律に違反することになる。
    《……本日、財務対策本部より、新たに積立プランが発表されました。1ヶ月につき3598クラムの積立により、庶民でも8年で自動車を購入できるとのことです》
    「うそばっかり」
     このニュースに、リンダが口をとがらせる。
    「前だって、1500クラムの積立を3年やって保養地に1ヶ月宿泊できるとか、2400クラムの積立を5年で一軒家に住めるとか言ってたのに、全然できないじゃない。
     文句言ったら『価格改定が行われた』とか、『急激な物価高により』とかごまかされて、逆にもっと積立しろって言ってくるし」
    「仕方無いさ。実際、物価は上がってる」
    「それでももう、月2万クラムは積立に使ってるのよ! もう収入の4分の1以上じゃない!」
    「他に使いようもないからな」
    「そんなことばっかり……!」
     リンダは頭を抱え、ぐすぐすとした涙声で不満を漏らす。
    「ずっとずっと働いてるのに、お休みも無いしお金は取られるし、このままじゃ頭がどうかなりそうよ……」
    「もう休もう。疲れてるんだ、君は。俺も疲れたし」
    「……うん」
     ホルヒは泣きじゃくる妻の肩を抱きながら、寝室に向かおうとした。

     その時だった。
    《次のニュースで……ザ……今日……ザザ……との……ザー……ザッ……白猫党に虐げられし皆さん。寝る前にちょっとだけ、耳をお貸し下さい》
     ラジオから延々と聞こえていた、ニュースを淡々と読み上げていた女性の声が、途中でまったく別の、若い男の声に変わった。
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