黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・撹波抄 4

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    麒麟を巡る話、第564話。
    電波ジャック。

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    4.
    「……!?」
     何が起こっているのか分からず、ホルヒとリンダは顔を見合わせ、そして同時に、互いのほおを引っ張り合う。
    「あいてて」「いたっ」
     ほおに痛みが走り、これが夢ではないと悟る。
    「今の……」「なに?」
     二人は同時にラジオに顔を向け、息を殺して音声に耳を傾ける。
    《繰り返します。白猫党に日々、虐げられし皆さん。どうか寝てしまう前に、私の話を聞いて下さい。
     私は白猫党を憎む者です。白猫党があなた方に行っている仕打ちに対し、強い憤りを感じている者です。
     あ、言い忘れましたが、この放送は集合住宅向けの放送電波をジャック(乗っ取り)して流しています。この放送があったことは、白猫党員には伝えないで下さいね。
     そもそも、彼らはあなた方向けのラジオなんか聞いてませんから、あなた方が黙っていてくれれば、彼らはこんな放送があったことなんか、知る由も無いでしょうし》
    「いや、でも」
     ホルヒの口から思わず、反論の言葉が漏れる。しかしそれを見越したかのように、ラジオはこう返していた。
    《もしかしたら党領内管理法の第19条3項、『党領内の人間は白猫党が指定するすべての通信手段に対し、党からの指示無く操作を行うことを禁ずる』、つまりラジオとかを勝手に切ったりしてはいけないって法律を思い浮かべた方もいるかも知れませんが、白猫党の方はこんな法律、全然守ってなんかいません。となれば当然、ラジオなんかこれっぽっちも聞いてませんよ。
     党領管法は党の領地下にあるあなた方の自由を奪うために設定されてるんであって、侵略者である彼らがそれに拘束される道理が無いんですから》
    「……」
    《今だって、もう午後11時半を回ろうかって頃ですけど、党員の皆さんは夜遊びしてますよ。皆さんが何年か前の休日に一回だけ飲んだであろうコーラとかビールとかも、皆さん毎晩、浴びるように飲んでますし。
     あなた方が無理矢理0時に寝かされた後も、党員の皆さんは好き放題に遊んでます。あなた方が無理矢理9時に出勤させられた後も、党員の皆さんは朝寝、二度寝、三度寝してます。不公平だと思いませんか?》
    「……思う」
     依然として涙声のまま、リンダがつぶやいた。
    《思う、と答えて下さった方、少なからずいらっしゃることと思います。ありがとうございます。一方、思わないと答えた方も、よく考えて下さい。
     あなた方は毎日毎日、家と仕事場とを往復し、押し付けられた仕事をこなし、そうやって得たわずかなお金を『積立』と称して奪われている。一方、白猫党員の方々は好きな仕事を適当にこなし、あなた方がら積立によって得た金を、好き放題に使っている。
     これが公平だと、本当に思いますか?》
    「え……?」
     思いもよらない情報に、ホルヒが声を上げた。
    《あれ? もしかして積立金、本当に慰安旅行や家になって返って来ると思っていましたか? いえいえ残念ながら、事実はそうではありません。
     彼らは資金調達の方便として、あなた方が稼いだクラムを『積立』と称し、搾取しているのです。詳しい説明は省きますが、党の活動資金や戦費を調達するに当たり、新たにクラムを増発するよりも、あなた方からあの手この手で搾り取る方が、彼らにとっては実に都合がいいからです》
    「本当か!?」
     ホルヒは声を荒らげ、答えるはずの無いラジオに向かって問いかける。
     一方、声が届くはずの無いラジオも、会話が成立しているかのように話し続ける。
    《勿論、勿論。これは本当の話です。搾取の手段は他にも数多くありますし、そのいくつかに薄々気付いてらっしゃる方も、少なからずいらっしゃると思います。
     例えば物価。年々上がっていることは確かでしょう。ですが本当に、領内の物価は世界の平均と同様に上がっていると思いますか?
     そう、実はほんの少し、ほんの少しずつ、実際よりも高く値を上げているんです。そしてその差額、利幅は税金として、党に入っていくんです》
    「……」
     リンダの顔に険が浮かんでいる。彼女も今、ラジオが伝えた内容に対し、強い共感を抱いているらしかった。
    《っと……、もうそろそろ、本来の放送の終了時間が近付いてきましたね。これ以上放送を乗っ取ってるとバレちゃうかも知れないので、今日はここまでです。いいですか? 内緒ですよ、皆さん。
     以上、私こと『Mr.コンチネンタル』がお送りいたしました。ではまた明日、この時間にお会いしましょう。ごきげんよう、さようなら……ザ……ザザ……ザッ……前0時に……ザ……ました。皆さん、就寝しましょう。繰り返します、午前0時になりました。皆さん、就寝しましょう。
     それでは本日の領民放送を終了します。……ザー……》
    「……」「……」
     食卓に延々とノイズが流れる中、ホルヒとリンダはもう一度、互いのほおをつねり、そして顔をしかめた。
    「いてて」「いたい。……夢じゃ、ないのね?」
     妻の問いに、ホルヒは無言でうなずいた。
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