黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・撹波抄 5

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    麒麟を巡る話、第565話。
    ニュースの余波。

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    5.
    「Mr.コンチネンタル」なる人物から秘密にするよう言われてはいたものの、人の口に戸は立てられないのが、世の常である。
    「なあ、聞いたか?」
     工場へと向かう上級バスの奥で、ホルヒと同僚は党バッジを付けた運転手に聞かれないよう、こそこそと話し合っていた。
    「もしかして、昨夜のアレか?」
    「そう、アレだ。Mr.コン……」「言うなって」「……あ、ああ。そうだったな。でも、じゃあ、……やっぱり聞いたのか、みんな?」
    「ああ」
    「……マジかな」
    「何がだよ」
    「言ってたこと。マジでピンハネされてんのかな」
    「かもな。実際のところ、本当に価格を水増しされてたとしても、俺たちには分からないんだからな」
    「それじゃ、積立も……」
    「実際、3年、5年で還付されるって言ってた話は何一つ、実現しちゃいないんだ。還付されたって奴もいるらしいが、それだって知り合いの知り合いの、そのまた知り合いの話だからな」
    「じゃあ全部、白猫党が流した嘘ってことなのか?」
    「そうとは言い切れない。でも、党の言ってることが本当だと実証することもできない」
    「……」
     話している間に、バスは工場に到着した。

     ホルヒが監督している班においても、作業の合間、あちこちでうわさが飛び交っているのが確認できた。
    「……ラジオ……」
    「……うん……」
    「……本当かな……」
    「……でも……」
     皆の意識は目の前の作業ではなく、ラジオの信憑性に向けられている。当然――。
    「皆、しっかりしてくれ。ラインが遅れているぞ」
    「す、すみません」
    「……君たちの話題については」
     注意したものの、ホルヒ自身も気を引かれてしまっている。
    「俺も今夜、もう一度確かめたいと思っている」
    「え……?」
    「だから、とにかく、今のところは、作業に集中してくれ」
    「は、はい」

     その日はまたも「特別スケジュール」により、夜11時まで作業が続いていたが、ホルヒは仕事が終わるなり、大急ぎでバスに乗り込み、家へと舞い戻った。
    「ただいまっ!」
    「おかえりなさい。もうすぐ、昨日と同じ時間になるよ」
    「分かった」
     夫婦揃って食卓に着き、ラジオに集中する。
    《次のニュースです。今朝……ザ……ザザッ……ザー……こんばんは、皆さん》
    「あっ……!」「来た!」
     思わず声を漏らし、二人は慌てて口を抑えて――ラジオから流れてくる男の声に、静かに耳を傾けていた。
    《白猫党に虐げられし皆さんのために、今夜も私、Mr.コンチネンタルが、真実をお伝えします》



     この、謎の放送が流れ始めてから数日が過ぎ、白猫党もようやく、この密かで、かつ大胆な「攻撃」に気付き、対策に追われることとなった。

    「これは我が党の秩序を根底から揺るがす、極めて憂慮すべき事態よ」
     席から立ち上がり、党首シエナが一喝する。
    「勿論、その点は承知しております」
     その視線の先には、冷や汗を額に浮かべる短耳の女性――党内の人事を統括する部署、党員管理部の長であるミリアム・アローサの姿があった。
    「既に白猫軍の諜報部に、発信源を特定させるべく調査を依頼しております」
    「そう。ではロンダ、特定にはどのくらいかかると?」
    「数日を要するとのことです」
     白猫軍司令、ロンダからの返答を受け、シエナが続いてアローサに問いかける。
    「その間、放送は?」
    「既に放送局には放送電波の送出を停止させ、代わりにジャミング電波を流して敵性放送を妨害しております。
     この間の放送に代わる手段として、第五・第六位党員を派遣し、トラックと拡声器を使って時報を行わせております」
    「手は足りてるの?」
    「率直に申し上げますと、かなり厳しい状況にあるのが現状です。第五位以下の党員を総出で向かわせても一都市に2~3名が限界であり、早急に軍からの支援を要請したいと考えております」
    「それは……」
     シエナはチラ、とロンダに視線を投げかけるが、ロンダは苦い顔を返し、口を開いた。
    「現時点においては、その要請に答えることは非常に難しい。確かに央南の戦線は落ち着きを見せ始めてはいるが、まだまだ多量の人員を要する。
     一方で今年より、再び西方での戦線拡大を進め始めたところでもある。そちらにも人手を割かねばならんし、よしんば呼び戻すにしても、数日では間に合わない。
     アローサ君には悪いが、軍の方からは人を貸せん。私にできることは、諜報部に特定を急がせることくらいだ」
    「現状の維持はどれくらいできそう?」
    「交代要員も覚束ないため、不休となります。1週間か2週間が限度かと」
     アローサの返答に、イビーザがフン、と鼻を鳴らした。
    「普段から仕事なぞ大してしておらんのだから、こう言う時にこそ働かせんでどうする」
    「……っ」
     一瞬、アローサの目に怒りの色が浮かぶが、すぐに冷静を装って答える。
    「幹事長閣下が高座で見下ろしているよりは、実際の彼らは仕事に邁進しております。まあ、閣下はあまり本部にいらっしゃいませんから、彼らの仕事ぶりを目にすることはあまり無いとは思いますが」
    「……ふん」
     イビーザの細い目がさらに細くなったところで、苛立たしげにシエナが場を締めた。
    「ともかく、対外活動を拡大しようと言うこの状況で、余計な内部混乱なんか起きてる場合じゃ無いのよ。
     一刻も早く、この敵性放送を行っている奴を検挙して、領内統治を正常化しなさい。いいわね、アローサ?」
    「ええ、重々承知しております」
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