「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・撹波抄 6
麒麟を巡る話、第566話。
栄光なき最高幹部。
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6.
政務部と財務部がその国の悪事・悪評を嗅ぎ付け、策を仕掛けて支配者層への支持を急落させ、混乱が極まった頃に白猫軍が攻め込み、占領する――これが白猫党が今まで行ってきた、諸国乗っ取りの「手口」である。
では乗っ取った後は、どこの部署が、何をするのか? それはこのアローサが管轄する、党員管理部に委ねられている。
アローサ率いる党員管理部は白猫党員を占領下の各国・各都市に送り込み、そこで既存の産業を解体・廃業させ、自分たち白猫党にとって都合のいいように構造を変えるのである。
まず、あらゆる商社・商会はすべて都市部に集約され、ほとんどの地域で既存の経済を成り立たなくさせるとともに、領地内の人間からあらゆる選択の自由を奪う。
地方の人間には工場や農園などの第一次・第二次産業の職を割り当て、すべてを労働者に変える。有り余る労働力により豊富な資源と資材、食糧、さらには車輌や銃火器と言った製品を手に入れた白猫党は、それを新たな戦地に投入していくのだ。
白猫党と言う巨大な組織を維持するためには、党員管理部は無くてはならない裏方なのだが――。
(何が『普段から仕事なぞ大してしておらんのだから』よ!? 私のセクションが無きゃ、白猫党の兵站は破綻するって言うのに!)
裏方役である故に、華々しく活動する他の部署に比べて、党員管理部には目立つような業績・実績を挙げる機会が無い。
そのため党の発足以来ずっと、アローサは事ある毎に他の幹部たちより下に見られることが多く、それが彼女の不満につながっていた。
(あの嫌味ジジイめ、今に吠え面かかせてやる!)
アローサは無言のまま、しかし、明らかに怒った足取りで、自分の執務室へと向かった。
アローサが執務室に入ったところで、すぐにドアがノックされる。
「開けるわ」
極力苛立ちを抑えつつ、アローサは振り返ってドアを開けた。
「何?」
「本部長、先程手紙が……」
秘書から手紙を差し出され、アローサは短くうなずく。
「ありがとう」
「いえ。……それでは」
どことなくほっとした様子の秘書を見て、アローサは内心、自分を戒めた。
(また顔に出てたかしら? 気を付けないと)
再度執務室に戻り、顔を軽くぽんぽんと叩いてから、アローサは机に着いた。
「手紙、……ね。誰からかしら?」
ひょいと封筒を裏返したところで、アローサは「えっ」と短く声を上げた。
「『M・A・ゴールドマン』、……って、あのゴールドマンかしら?」
一旦、封筒を机に置き、アローサは逡巡する。
(彼だとしたら、どうして今頃……? 何か、嫌な予感がするわね)
悩んだものの、アローサは渋々、手紙の封を切った。
「親愛なる元同僚 ミリアム・アローサへ
俺は現在、党を離れてはいるが、そっちで今、騒ぎが起こっていることは把握している。
そしてその騒動の原因、中心人物についても、俺は把握している。
密かにどこかで話せないか? いつでも、どこでもいい。返信は南区1番街12―2、『狐の女神』亭へ頼む。
マラネロ・アキュラ・ゴールドマンより」
手紙を読み終え、アローサは再度、逡巡する。
(やっぱり、あのゴールドマンだったわね。『騒ぎ』って、あの電波ジャックのことかしら?
怪しい。どうして彼が――自分で言ってるけど――党内の騒ぎを知っているのか。しかも犯人を知ってるなんて。
考えられるのは、彼自身が犯人である場合。だとすれば当事者である私に接触し、私が困ってる様子を見て、愉快犯的に楽しもうとしているのかも。
そこまで極端な話じゃなくても、最早党から追い出され、風来坊同然のはずの彼がわざわざ、党内の人間にしか知り得ないような情報をチラつかせるなんて。怪しすぎるわ……。
でも、このまま手をこまねいているよりは、ダメ元で情報を手に入れに動いた方が得策かも知れない)
アローサは紙とペンを手に取り、マロへの返事を書いた。
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栄光なき最高幹部。
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政務部と財務部がその国の悪事・悪評を嗅ぎ付け、策を仕掛けて支配者層への支持を急落させ、混乱が極まった頃に白猫軍が攻め込み、占領する――これが白猫党が今まで行ってきた、諸国乗っ取りの「手口」である。
では乗っ取った後は、どこの部署が、何をするのか? それはこのアローサが管轄する、党員管理部に委ねられている。
アローサ率いる党員管理部は白猫党員を占領下の各国・各都市に送り込み、そこで既存の産業を解体・廃業させ、自分たち白猫党にとって都合のいいように構造を変えるのである。
まず、あらゆる商社・商会はすべて都市部に集約され、ほとんどの地域で既存の経済を成り立たなくさせるとともに、領地内の人間からあらゆる選択の自由を奪う。
地方の人間には工場や農園などの第一次・第二次産業の職を割り当て、すべてを労働者に変える。有り余る労働力により豊富な資源と資材、食糧、さらには車輌や銃火器と言った製品を手に入れた白猫党は、それを新たな戦地に投入していくのだ。
白猫党と言う巨大な組織を維持するためには、党員管理部は無くてはならない裏方なのだが――。
(何が『普段から仕事なぞ大してしておらんのだから』よ!? 私のセクションが無きゃ、白猫党の兵站は破綻するって言うのに!)
裏方役である故に、華々しく活動する他の部署に比べて、党員管理部には目立つような業績・実績を挙げる機会が無い。
そのため党の発足以来ずっと、アローサは事ある毎に他の幹部たちより下に見られることが多く、それが彼女の不満につながっていた。
(あの嫌味ジジイめ、今に吠え面かかせてやる!)
アローサは無言のまま、しかし、明らかに怒った足取りで、自分の執務室へと向かった。
アローサが執務室に入ったところで、すぐにドアがノックされる。
「開けるわ」
極力苛立ちを抑えつつ、アローサは振り返ってドアを開けた。
「何?」
「本部長、先程手紙が……」
秘書から手紙を差し出され、アローサは短くうなずく。
「ありがとう」
「いえ。……それでは」
どことなくほっとした様子の秘書を見て、アローサは内心、自分を戒めた。
(また顔に出てたかしら? 気を付けないと)
再度執務室に戻り、顔を軽くぽんぽんと叩いてから、アローサは机に着いた。
「手紙、……ね。誰からかしら?」
ひょいと封筒を裏返したところで、アローサは「えっ」と短く声を上げた。
「『M・A・ゴールドマン』、……って、あのゴールドマンかしら?」
一旦、封筒を机に置き、アローサは逡巡する。
(彼だとしたら、どうして今頃……? 何か、嫌な予感がするわね)
悩んだものの、アローサは渋々、手紙の封を切った。
「親愛なる元同僚 ミリアム・アローサへ
俺は現在、党を離れてはいるが、そっちで今、騒ぎが起こっていることは把握している。
そしてその騒動の原因、中心人物についても、俺は把握している。
密かにどこかで話せないか? いつでも、どこでもいい。返信は南区1番街12―2、『狐の女神』亭へ頼む。
マラネロ・アキュラ・ゴールドマンより」
手紙を読み終え、アローサは再度、逡巡する。
(やっぱり、あのゴールドマンだったわね。『騒ぎ』って、あの電波ジャックのことかしら?
怪しい。どうして彼が――自分で言ってるけど――党内の騒ぎを知っているのか。しかも犯人を知ってるなんて。
考えられるのは、彼自身が犯人である場合。だとすれば当事者である私に接触し、私が困ってる様子を見て、愉快犯的に楽しもうとしているのかも。
そこまで極端な話じゃなくても、最早党から追い出され、風来坊同然のはずの彼がわざわざ、党内の人間にしか知り得ないような情報をチラつかせるなんて。怪しすぎるわ……。
でも、このまま手をこまねいているよりは、ダメ元で情報を手に入れに動いた方が得策かも知れない)
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今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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思い出したことですけど
第二次大戦のおり、イギリス政府は、敵国ドイツに、ドイツの放送局が流しているラジオ放送のふりをして、
「勇敢なるドイツ人同法諸君! なんとも忌まわしいことに、前線から逃亡する卑怯で愚かな兵士が後をたたない! その手口はこうだ……」
と、「前線から逃亡し連合軍側に降伏する方法」を微に入り細を穿って説明する、という謀略放送をやったそうであります。
そしてその数か月後、今度は連合軍側に、逃亡兵を憂えるイギリス政府が作った公式の新聞という形をとった、「前線から逃亡しドイツ軍に降伏する方法」を微に入り細を穿って説明するブックレットがドイツ軍側の手でまかれたそうで……。(実話)
「勇敢なるドイツ人同法諸君! なんとも忌まわしいことに、前線から逃亡する卑怯で愚かな兵士が後をたたない! その手口はこうだ……」
と、「前線から逃亡し連合軍側に降伏する方法」を微に入り細を穿って説明する、という謀略放送をやったそうであります。
そしてその数か月後、今度は連合軍側に、逃亡兵を憂えるイギリス政府が作った公式の新聞という形をとった、「前線から逃亡しドイツ軍に降伏する方法」を微に入り細を穿って説明するブックレットがドイツ軍側の手でまかれたそうで……。(実話)
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NoTitle
敵地への怪ラジオ送信は、いかにもな戦術ですね。