「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・撹波抄 8
麒麟を巡る話、第568話。
苛立つシエナ。
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8.
この報告を受けた途端――アローサが予期していた通り――シエナは苦い顔をした。
「いまさら?」
「私も同感ですが……、しかし有益な情報です」
「裏は取ったの? 本当にマロが、犯人を知ってるって証拠は?」
「我々の内情を間接的に知っていたことから、信憑性は高いと思われます」
「いくらでも知る方法はあるだろう」
と、二人の間にイビーザが割って入る。
「白猫党は今や、世界を股にかける大政治結社だ。そこかしこにねずみの一匹や二匹紛れていたとて、何らおかしくはなかろう?
本部が騒いでいる程度の話なぞ、既にあちこちに漏れているだろう」
「そっちの話も、聞く分には裏が無さそうね。うわさ話って感じ」
アローサの話を頭から否定したイビーザも、シエナがあからさまに煙たがって見せる。
「とにかく現状においては、マロの要求は承諾しかねるわ。
まず第一に、今言った通りだけど、話が信用できない。本当にジャック犯を知ってるって証拠を見せてもらわないと、ソレこそ話にならないわ。
第二に――コレは今以って、党幹部の総意と考えてるけど――アイツは満場一致で幹部陣から追い出されたろくでなしよ。ソレをいまさら迎え入れる理由は無いし、仮に迎え入れたとして、アイツに何ができるのかって話よ。
まず間違いなく、財務部は門前払いするわ。政務部だって断るでしょうね。軍なんて論外。じゃ、後はドコが残ってる?」
「それは……」
「アンタだって嫌でしょ? アイツは結局、ろくに結果も残せず党のカネを使い潰しただけのヤツなのよ? ソレをうちのドコが引き取るのよ」
かつての同窓生を散々にこき下ろすシエナに眉をひそめはしたものの、確かに彼女の言う通り、党員管理部でも持て余すのは目に見えている。
「検討の余地は無いわ。返事はノーよ。そう伝え……」
にべもなく却下しようとしたところで――アローサの秘書がおずおずと、手紙を手に近付いてきた。
「お話中、失礼いたします」
「何よ?」
アローサを含む幹部3名ににらまれ、秘書はぎょっとする。
「取り込み中よ。見て分からない?」
「いえ、それがですね、……その、この手紙を送ってきた方から、このタイミングで総裁閣下に渡すようにと」
「……? どう言うコトよ」
シエナは首を傾げつつもその手紙を受け取り、開封した。
「この手紙を読む直前、きっとお前は俺の申し出を断ろうとしているだろう。
信じられないのは無理もない。信じるに足る話をしてなかったからな。
証拠はある。央中、ハイネン共和国のコールマインに電波塔が1基、密かに設置されている。ジャック犯はあちこちに電波塔を建て、本当の発信源を特定しにくくしている。
勿論俺の話を信じず、白猫党総動員で中央大陸のあっちこっちを探っても、俺は一向に構わない。ただ、俺を信じて取引した方が、それよりずっと楽に済むであろうことは、事実だと断言する。
俺の提案を前向きに検討してくれるなら、本日中に連絡を寄越してくれ。
マラネロ」
「……チッ」
普段から感情的に振る舞うことで知られるシエナも、流石に公衆の面前で、こうまであけすけに悪態をつくことは、これまで無かったのだが――。
「忌々しいクソ狐め! アオイの真似でもしたつもりッ!?」
手紙をびりびりと引き裂き、その場に撒き散らし、両肩と拳をプルプルと震わせ、やがてこれ以上ないくらい苛立たしげに、こう言い放った。
「ロンダを呼んで!」
「ろ、ロンダ司令を? 何故?」
呆気に取られたイビーザに、依然としてシエナが怒鳴り散らす。
「交渉なんか絶対しないわ! してやるもんですか! この腐れ狐を拘束して、ジャック犯の居場所を吐かせるのよ!」
「か、閣下!? いや、それはあまりに……」
うろたえつつも諌めようとしたイビーザを、シエナはギロリとにらみつける。
「意見はいらない! すぐ呼べッ!」
「わ、分かりました。……すまんが君、こう言うわけだ。頼まれてくれるか?」
「はあ……」
シエナの豹変ぶりに面食らっていたアローサの秘書は、大急ぎでその場を離れていった。
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苛立つシエナ。
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この報告を受けた途端――アローサが予期していた通り――シエナは苦い顔をした。
「いまさら?」
「私も同感ですが……、しかし有益な情報です」
「裏は取ったの? 本当にマロが、犯人を知ってるって証拠は?」
「我々の内情を間接的に知っていたことから、信憑性は高いと思われます」
「いくらでも知る方法はあるだろう」
と、二人の間にイビーザが割って入る。
「白猫党は今や、世界を股にかける大政治結社だ。そこかしこにねずみの一匹や二匹紛れていたとて、何らおかしくはなかろう?
本部が騒いでいる程度の話なぞ、既にあちこちに漏れているだろう」
「そっちの話も、聞く分には裏が無さそうね。うわさ話って感じ」
アローサの話を頭から否定したイビーザも、シエナがあからさまに煙たがって見せる。
「とにかく現状においては、マロの要求は承諾しかねるわ。
まず第一に、今言った通りだけど、話が信用できない。本当にジャック犯を知ってるって証拠を見せてもらわないと、ソレこそ話にならないわ。
第二に――コレは今以って、党幹部の総意と考えてるけど――アイツは満場一致で幹部陣から追い出されたろくでなしよ。ソレをいまさら迎え入れる理由は無いし、仮に迎え入れたとして、アイツに何ができるのかって話よ。
まず間違いなく、財務部は門前払いするわ。政務部だって断るでしょうね。軍なんて論外。じゃ、後はドコが残ってる?」
「それは……」
「アンタだって嫌でしょ? アイツは結局、ろくに結果も残せず党のカネを使い潰しただけのヤツなのよ? ソレをうちのドコが引き取るのよ」
かつての同窓生を散々にこき下ろすシエナに眉をひそめはしたものの、確かに彼女の言う通り、党員管理部でも持て余すのは目に見えている。
「検討の余地は無いわ。返事はノーよ。そう伝え……」
にべもなく却下しようとしたところで――アローサの秘書がおずおずと、手紙を手に近付いてきた。
「お話中、失礼いたします」
「何よ?」
アローサを含む幹部3名ににらまれ、秘書はぎょっとする。
「取り込み中よ。見て分からない?」
「いえ、それがですね、……その、この手紙を送ってきた方から、このタイミングで総裁閣下に渡すようにと」
「……? どう言うコトよ」
シエナは首を傾げつつもその手紙を受け取り、開封した。
「この手紙を読む直前、きっとお前は俺の申し出を断ろうとしているだろう。
信じられないのは無理もない。信じるに足る話をしてなかったからな。
証拠はある。央中、ハイネン共和国のコールマインに電波塔が1基、密かに設置されている。ジャック犯はあちこちに電波塔を建て、本当の発信源を特定しにくくしている。
勿論俺の話を信じず、白猫党総動員で中央大陸のあっちこっちを探っても、俺は一向に構わない。ただ、俺を信じて取引した方が、それよりずっと楽に済むであろうことは、事実だと断言する。
俺の提案を前向きに検討してくれるなら、本日中に連絡を寄越してくれ。
マラネロ」
「……チッ」
普段から感情的に振る舞うことで知られるシエナも、流石に公衆の面前で、こうまであけすけに悪態をつくことは、これまで無かったのだが――。
「忌々しいクソ狐め! アオイの真似でもしたつもりッ!?」
手紙をびりびりと引き裂き、その場に撒き散らし、両肩と拳をプルプルと震わせ、やがてこれ以上ないくらい苛立たしげに、こう言い放った。
「ロンダを呼んで!」
「ろ、ロンダ司令を? 何故?」
呆気に取られたイビーザに、依然としてシエナが怒鳴り散らす。
「交渉なんか絶対しないわ! してやるもんですか! この腐れ狐を拘束して、ジャック犯の居場所を吐かせるのよ!」
「か、閣下!? いや、それはあまりに……」
うろたえつつも諌めようとしたイビーザを、シエナはギロリとにらみつける。
「意見はいらない! すぐ呼べッ!」
「わ、分かりました。……すまんが君、こう言うわけだ。頼まれてくれるか?」
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シエナの豹変ぶりに面食らっていたアローサの秘書は、大急ぎでその場を離れていった。
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