「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・撹波抄 9
麒麟を巡る話、第569話。
翻弄される白猫党。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
怒れるシエナの指示により、すぐに白猫軍の突撃部隊がマロの宿を強襲したが――。
「いなかった? どう言うコトよ!?」
「どうやら総裁の行動を先読みし、我々が動くよりも早く宿を発ったものと……」
「……~ッ!」
ロンダからの報告を受けたシエナは顔を真っ赤にし、手を振り上げたが、どこにも振り下ろすことなく、そのまま椅子に座った。
「忌々しいわね、まったく!」
「総裁、確認いたしますが……」
「何よ?」
「ゴールドマン氏の話によれば、央中に電波塔が設置されているとのことですが、真偽を確かめるべく調査に向かうべきではないかと。
真実であれば、電波ジャック犯に繋がる情報を得られるやも知れませんし」
「……そうね。アイツの指図を受けるみたいで心底、癪に障るけど、仕方無いわね」
ロンダの意見を受け、シエナは央中に調査隊の派遣を命じた。
その結果、確かにマロが明かした場所に電波塔が発見され、即座に分析が進められた。
《確かに、発信源の一つと思われます》
「『一つ』と言うのは?」
通信機越しにそう尋ねながらも、ロンダの声には落胆の色が感じられる。
《調べたところ、この電波塔の出力ではせいぜい半径50~60キロ程度にしか、放送電波を飛ばせません。央中西部や、ましてや央北まで届くとは考えにくいです。
恐らく他に中継装置があるか、複数箇所から放射して増幅しているものかと》
「どちらの場合にしても、すべてを発見し破壊、もしくは電波ジャック犯を見つけるにはかなりの時間を要すると言うことか……。
やれやれ、また総裁が爆発するな」
ロンダの予想通り、シエナは憤っていた。
「そう。……本っ当、忌々しいわね。実はね、また手紙が来たのよ」
「と言うと、ゴールドマン氏からですか」
「そうよ。『もう一回話し合いの機会を設けろ。今度は襲ったりするなよ』ってね」
「ふむ……。率直な意見を申し上げますと、要求を呑むべきかと」
ロンダの言葉に、シエナは一瞬目を吊り上がらせたが、すぐに目を閉じ、短くうなずいた。
「そうね。ここでまた捕まえろだの逃がしただのって話になるのも面倒だし。ソレに、他の電波塔探しに人員を割くのも、かなりの手間になるのは目に見えてるし。
いいわ、会いに行きましょう。ただし」
シエナは依然として苛立った顔のまま、こう続けた。
「交渉の場を、密かに囲みなさい。ヤツから情報を聞くだけ聞いたら、逃さず殺すのよ。
前にも言った通り、アイツの要求を呑むコトはできない。交渉の振りをして、話がまとまった直後に強襲、そのまま暗殺するのよ」
「ふむ……。確かにゴールドマン氏を引き入れることによって、多大なリスクがもたらされることは明白。
私個人の意見といたしましても、彼が党において就いていた地位、要求する地位はおしなべて彼の才量に見合わぬものばかりであり、仮に今後、彼が復党したとしても、党に混乱をもたらしこそすれ、党の利益に結びつくことは皆無と言ってもよいでしょう」
「アタシも同意見よ。最早ココに、アイツの帰る場所は無いわ」
「ええ、承知いたしました。仰る通りに手配いたします」
同時刻――ゴールドコースト市国、フォコ屋敷。
「ほな、今のところは成功してはるんですね」
「そーみたいです」
総帥の執務室に、5人の人間が集まっていた。
一人はこの屋敷の今の主であり、第19代金火狐財団総帥のルーマ・ゴールドマン。そして彼女の問いに答えたのは金火狐商会の技術研究部主任、ノイン・トポリーノである。
彼女らに続く形で、マロが手を挙げる。
「返事も来てますわ。『近日中、ドミニオン城に交渉の場を設ける』ちゅうてるけど……」
「100%ワナだな、そりゃ」
残る2人のうち、一人は一聖である。
「前回もオレがマロを連れ出した直後に、話し合いのハの字も見せずに強襲してきたヤツらだ。今回の交渉って話も、間違いなく陰に兵を潜ませて拘束する気、満々だろうぜ」
「でもマロには行ってもらわないと」
そして最後の一人はこの電波ジャック騒動を計画した張本人、マークである。
「分かっとる。ここであいつらに動いてもらわな、計画の成功は無いからな」
「ま、マロの安全についてはオレにアイデアがある。何とかするさ」
「よろしくお願いします。……では総帥閣下」
「あの、閣下はちょと……」
恥ずかしそうにほほえんだルーマに、マークもはにかんで返す。
「あ、そうでした。すみません、ルーマさん。ええと、まあ、とにかく。
次の作戦も、ご協力をよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
白猫夢・撹波抄 終
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翻弄される白猫党。
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怒れるシエナの指示により、すぐに白猫軍の突撃部隊がマロの宿を強襲したが――。
「いなかった? どう言うコトよ!?」
「どうやら総裁の行動を先読みし、我々が動くよりも早く宿を発ったものと……」
「……~ッ!」
ロンダからの報告を受けたシエナは顔を真っ赤にし、手を振り上げたが、どこにも振り下ろすことなく、そのまま椅子に座った。
「忌々しいわね、まったく!」
「総裁、確認いたしますが……」
「何よ?」
「ゴールドマン氏の話によれば、央中に電波塔が設置されているとのことですが、真偽を確かめるべく調査に向かうべきではないかと。
真実であれば、電波ジャック犯に繋がる情報を得られるやも知れませんし」
「……そうね。アイツの指図を受けるみたいで心底、癪に障るけど、仕方無いわね」
ロンダの意見を受け、シエナは央中に調査隊の派遣を命じた。
その結果、確かにマロが明かした場所に電波塔が発見され、即座に分析が進められた。
《確かに、発信源の一つと思われます》
「『一つ』と言うのは?」
通信機越しにそう尋ねながらも、ロンダの声には落胆の色が感じられる。
《調べたところ、この電波塔の出力ではせいぜい半径50~60キロ程度にしか、放送電波を飛ばせません。央中西部や、ましてや央北まで届くとは考えにくいです。
恐らく他に中継装置があるか、複数箇所から放射して増幅しているものかと》
「どちらの場合にしても、すべてを発見し破壊、もしくは電波ジャック犯を見つけるにはかなりの時間を要すると言うことか……。
やれやれ、また総裁が爆発するな」
ロンダの予想通り、シエナは憤っていた。
「そう。……本っ当、忌々しいわね。実はね、また手紙が来たのよ」
「と言うと、ゴールドマン氏からですか」
「そうよ。『もう一回話し合いの機会を設けろ。今度は襲ったりするなよ』ってね」
「ふむ……。率直な意見を申し上げますと、要求を呑むべきかと」
ロンダの言葉に、シエナは一瞬目を吊り上がらせたが、すぐに目を閉じ、短くうなずいた。
「そうね。ここでまた捕まえろだの逃がしただのって話になるのも面倒だし。ソレに、他の電波塔探しに人員を割くのも、かなりの手間になるのは目に見えてるし。
いいわ、会いに行きましょう。ただし」
シエナは依然として苛立った顔のまま、こう続けた。
「交渉の場を、密かに囲みなさい。ヤツから情報を聞くだけ聞いたら、逃さず殺すのよ。
前にも言った通り、アイツの要求を呑むコトはできない。交渉の振りをして、話がまとまった直後に強襲、そのまま暗殺するのよ」
「ふむ……。確かにゴールドマン氏を引き入れることによって、多大なリスクがもたらされることは明白。
私個人の意見といたしましても、彼が党において就いていた地位、要求する地位はおしなべて彼の才量に見合わぬものばかりであり、仮に今後、彼が復党したとしても、党に混乱をもたらしこそすれ、党の利益に結びつくことは皆無と言ってもよいでしょう」
「アタシも同意見よ。最早ココに、アイツの帰る場所は無いわ」
「ええ、承知いたしました。仰る通りに手配いたします」
同時刻――ゴールドコースト市国、フォコ屋敷。
「ほな、今のところは成功してはるんですね」
「そーみたいです」
総帥の執務室に、5人の人間が集まっていた。
一人はこの屋敷の今の主であり、第19代金火狐財団総帥のルーマ・ゴールドマン。そして彼女の問いに答えたのは金火狐商会の技術研究部主任、ノイン・トポリーノである。
彼女らに続く形で、マロが手を挙げる。
「返事も来てますわ。『近日中、ドミニオン城に交渉の場を設ける』ちゅうてるけど……」
「100%ワナだな、そりゃ」
残る2人のうち、一人は一聖である。
「前回もオレがマロを連れ出した直後に、話し合いのハの字も見せずに強襲してきたヤツらだ。今回の交渉って話も、間違いなく陰に兵を潜ませて拘束する気、満々だろうぜ」
「でもマロには行ってもらわないと」
そして最後の一人はこの電波ジャック騒動を計画した張本人、マークである。
「分かっとる。ここであいつらに動いてもらわな、計画の成功は無いからな」
「ま、マロの安全についてはオレにアイデアがある。何とかするさ」
「よろしくお願いします。……では総帥閣下」
「あの、閣下はちょと……」
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