「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・上弦抄 1
麒麟を巡る話、第570話。
雑談。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「最近さー」
「うん」
「主任、見かけなくない?」
「……あー、確かに」
トラス王国、「フェニックス」研究所。
休憩時間に集まっていた研究員たちが、雑談を交わしていた。
「いや、来てるっぽいんだけど、なんか勤務時間一杯、新設された棟にこもってるみたい」
「何してるんでしょうね?」
「んで、代わりにさー」
「代わりに?」
一人が辺りを見回し、小声になる。
「主任の妹……、ビクトリア姫が来るようになったよね」
「あー、うん」
「いや、確かにちょっと変だけど天才だって話は聞くし、実際、一回話す機会があったんだけど、かなりウチの研究にも精通してて、ビックリした。その後タチバナ顧問と、めっちゃ難しい話してたし。
でも正規の研究員じゃないのに、なんで主任みたいなことしてるんだろう、……って」
「うーん……。元からウチって、そこら辺ユルいしなぁ」
「そうですっけ?」
「まあ、ウチって言うか、主任とか所長の周りが。いつの間にか人、増えてるし」
「あー、あるある。こないだも『狐』の、わりとデカい女が来たし」
「いたいた。あ、後さ、みょーに語尾伸び伸びの『猫』とか、ヒゲ面のいかつい『狼』とか」
「うんうん」
「見ました見ました」
と、別の研究員がまた、辺りを見回す。
「……私、思うんだけど。『フェニックス』って実はもしかして、なんかの秘密結社なんじゃないの?」
「なにそれ」
「だって変じゃない? 今言った人たち、みんな研究員って感じじゃないもん。むしろ武闘派って言うか……」
「……ちょっと、思う。そもそもできた当初から、何故かギアト護衛官が研究所をうろうろしてたし」
「あの人も変って言えば変ですよね。護衛官って言いながら、主任の側にあんまりいないですし」
「それに所長自体、何度か服をボロボロにして帰って来ることがあったよな。まるでどこかで一戦交えてきました、みたいな」
「あー、あるある。……確かに、……変だよなぁ」
「一度、聞いてみませんか?」
若手の研究員の一言に、場が静まり返る。
「……何を、誰に?」
「そりゃ、『フェニックス』って本当に再生医療研究チームなのかってことを、主任か所長か、それか顧問に」
「聞いて答えてくれるとは思えないけど」
「主任は答えてくれそうだと思う。わりと気が弱いから、強気で尋ねれば何かしらポロっと」
「ポロッと行く前に、所長が間に割って入ってきそうな気がする。あの人、そう言うところ目ざといし」
「かと言って顧問はなー……。なんか適当にあしらわれそう」
「あー、なんか分かる」
「となると、他に答えてくれそうな人っています?」
「うーん……」
その場にいた研究員は肩をすくめたり首を振ったりと、誰も答えられない。
と――。
「何をお聞きになりたいんですか?」
「おわっ、……で、殿下?」
話の輪に、ビッキーが割って入ってきた。
「い、いつからそこに?」
「つい今し方です。それで、何か疑問点が?」
「いや、その……」
「何と言いますか……」
他の研究員たちが口ごもる中、先程の若手が挙手する。
「殿下は『フェニックス』に出入りされている、非正規所員らしき方々のことをご存じでしょうか?」
「非正規と言うと?」
「緑髪の猫獣人の方とか、浅黒の狼獣人の方とか」
「ああ、カズラさんとウォーレンさん。ええ、存じております」
「あの人たちは明らかに研究員じゃ無さそうなんですが、何故この研究所に出入りされてるんでしょうか」
「ルナさんにご用事があるからです。
ルナさんはあまり市街地に出向かれない方ですから、自然とカズラさんたちがこちらを訪問される機会が多くなるのは自明でしょう?」
「あー、そっか」
「……ん、いや、でも」
「何か?」
「所長とその、カズラさんとか言う方たちに、何の関係が?」
「ルナさんは武人としても高名な方だそうです。教えを請いたいと言う方は少なくありませんから、そうした方が訪ねる機会は多くなります。
ほら、パラさんもフィオさんとよく格闘訓練なさってたでしょう? パラさんの戦闘技術は、お母さん譲りだそうですし」
「確かに……」
「そう言えばそうですね」
「文武両道なんだなぁ、所長って」
研究員たちが一様に納得した表情を浮かべたのを見て――ビッキーは内心、ニヤニヤと笑っていた。
(……ちょろいですね)
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「最近さー」
「うん」
「主任、見かけなくない?」
「……あー、確かに」
トラス王国、「フェニックス」研究所。
休憩時間に集まっていた研究員たちが、雑談を交わしていた。
「いや、来てるっぽいんだけど、なんか勤務時間一杯、新設された棟にこもってるみたい」
「何してるんでしょうね?」
「んで、代わりにさー」
「代わりに?」
一人が辺りを見回し、小声になる。
「主任の妹……、ビクトリア姫が来るようになったよね」
「あー、うん」
「いや、確かにちょっと変だけど天才だって話は聞くし、実際、一回話す機会があったんだけど、かなりウチの研究にも精通してて、ビックリした。その後タチバナ顧問と、めっちゃ難しい話してたし。
でも正規の研究員じゃないのに、なんで主任みたいなことしてるんだろう、……って」
「うーん……。元からウチって、そこら辺ユルいしなぁ」
「そうですっけ?」
「まあ、ウチって言うか、主任とか所長の周りが。いつの間にか人、増えてるし」
「あー、あるある。こないだも『狐』の、わりとデカい女が来たし」
「いたいた。あ、後さ、みょーに語尾伸び伸びの『猫』とか、ヒゲ面のいかつい『狼』とか」
「うんうん」
「見ました見ました」
と、別の研究員がまた、辺りを見回す。
「……私、思うんだけど。『フェニックス』って実はもしかして、なんかの秘密結社なんじゃないの?」
「なにそれ」
「だって変じゃない? 今言った人たち、みんな研究員って感じじゃないもん。むしろ武闘派って言うか……」
「……ちょっと、思う。そもそもできた当初から、何故かギアト護衛官が研究所をうろうろしてたし」
「あの人も変って言えば変ですよね。護衛官って言いながら、主任の側にあんまりいないですし」
「それに所長自体、何度か服をボロボロにして帰って来ることがあったよな。まるでどこかで一戦交えてきました、みたいな」
「あー、あるある。……確かに、……変だよなぁ」
「一度、聞いてみませんか?」
若手の研究員の一言に、場が静まり返る。
「……何を、誰に?」
「そりゃ、『フェニックス』って本当に再生医療研究チームなのかってことを、主任か所長か、それか顧問に」
「聞いて答えてくれるとは思えないけど」
「主任は答えてくれそうだと思う。わりと気が弱いから、強気で尋ねれば何かしらポロっと」
「ポロッと行く前に、所長が間に割って入ってきそうな気がする。あの人、そう言うところ目ざといし」
「かと言って顧問はなー……。なんか適当にあしらわれそう」
「あー、なんか分かる」
「となると、他に答えてくれそうな人っています?」
「うーん……」
その場にいた研究員は肩をすくめたり首を振ったりと、誰も答えられない。
と――。
「何をお聞きになりたいんですか?」
「おわっ、……で、殿下?」
話の輪に、ビッキーが割って入ってきた。
「い、いつからそこに?」
「つい今し方です。それで、何か疑問点が?」
「いや、その……」
「何と言いますか……」
他の研究員たちが口ごもる中、先程の若手が挙手する。
「殿下は『フェニックス』に出入りされている、非正規所員らしき方々のことをご存じでしょうか?」
「非正規と言うと?」
「緑髪の猫獣人の方とか、浅黒の狼獣人の方とか」
「ああ、カズラさんとウォーレンさん。ええ、存じております」
「あの人たちは明らかに研究員じゃ無さそうなんですが、何故この研究所に出入りされてるんでしょうか」
「ルナさんにご用事があるからです。
ルナさんはあまり市街地に出向かれない方ですから、自然とカズラさんたちがこちらを訪問される機会が多くなるのは自明でしょう?」
「あー、そっか」
「……ん、いや、でも」
「何か?」
「所長とその、カズラさんとか言う方たちに、何の関係が?」
「ルナさんは武人としても高名な方だそうです。教えを請いたいと言う方は少なくありませんから、そうした方が訪ねる機会は多くなります。
ほら、パラさんもフィオさんとよく格闘訓練なさってたでしょう? パラさんの戦闘技術は、お母さん譲りだそうですし」
「確かに……」
「そう言えばそうですね」
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