黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・上弦抄 2

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    麒麟を巡る話、第571話。
    うろうろビッキー。

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    2.
    「と言う感じでごまかしてます」
    「ありがとう、ビッキー。助かるよ」
     研究所に新設された部屋に一人こもって作業していたマークは、ビッキーからの報告に苦笑していた。
    「いつもならそう言う根回し、ルナさんがやってくれるんだけど、あの人も今、色々忙しいからね」
    「それなんですけどね」
     と、ビッキーがすい、と一歩、マークに詰め寄ってくる。
    「わたしもそろそろ、研究員にしていただけません? 自然には研究所に入りづらいですし、所員の方々にも今ひとつ、打ち解けてもらえませんから。
     ルナさんにお願いしようと思っていたのですけれど、お会いできませんし」
    「それはちょっと……」
     難色を示したマークに、ビッキーはぷく、と頬を膨らませる。
    「理由は何故です?」
    「確かに君も才能ある人間だし、うちの研究所に入ってくれるなら、本当に心強い。裏の事情も良く知ってるわけだし。
     でもさ、僕も君も『フェニックス』にってなったら、父上が嫌な顔をするのは目に見えてるだろ?」
    「ええ、想像に難くありませんね。跡継ぎがどうの、体面がどうのと、ぶつぶつ文句を漏らす声まで聞こえてきそうです」
    「だろ? 他の妹たちもまだ幼いし、僕か君のどっちかが継ぐって意思を表明しとかないと、父上は絶対、いい顔しないよ」
    「面倒なお話ですね」
     ビッキーは大仰に、はあ、とため息を吐いてみせる。
    「王族なんてこだわり、何の価値があるものでしょうか。今の世の中、既に王政を廃した国も大勢あると言うのに」
    「だからこそじゃないかな」
     マークは眼鏡を外し、眉間を揉みながらこう返す。
    「世界が目まぐるしく形を変える中、国の形だってコロコロ変わっていってる。
     でも変わっていくモノ、既に変わったモノが全部いいモノかって言ったら、断言できないだろ? 事実、白猫党が作ってきた新しい国がいいモノだとは僕にも思えないし、君も思ってないよね」
    「まあ、確かに」
    「父上は父上なりに、今のこの国の形がいいモノと思って、後世へ遺そうとしてるんだよ。と言っても、その意見が正しいってことも、断言できないけどね」
    「まるで日和見主義の学者みたいなことを言いますね。はっきりしない物言いですこと」
     ビッキーはぷい、と顔を背け、こう続ける。
    「わたしの知る一番の学者さんは、物事をものすごーくはっきり、ズバッと断じて仰ってくれるから大好きなんですけれどね」
    「それ、カズセちゃんのこと?」
    「ええ。今まで出会ったどんな先生よりも素晴らしい見識と遊び心のある方です。わたし本当に、あの方にご指導いただけて良かったと思っております」
    「カズセちゃんが聞いたら、顔を真っ赤にして『んな恥ずいコト真顔で言うんじゃねーよ』って言ってきそうだね」
    「それもあの方の魅力ですね。決して奢らず、偉ぶらない方ですもの」

     兄に諭されたものの、研究員になることを諦めきれないビッキーは、本来頼み込もうと考えていた相手――ルナを探しに出た。
    (と言っても、あの方が行かれそうな場所って、さっぱりなんですけどね。研究所にいらっしゃらないと、本当にどこにいらっしゃるやら)
     情報を集める意味も含め、彼女はまず、市街地に住むフィオとパラ夫妻のところを訪ねた。
    「あれ、ビクトリア殿下? 一体どうしたんですか?」
     出迎えたフィオは、きょとんとした顔をしている。
    「わたしが訪ねてくるなど、思いもよらなかったというお顔ですね」
    「ええ、まあ」
    「ルナさんのことをお伺いに参りまして。お二人ならあの人が研究所以外、どこにいらっしゃるかご存じではないかと」
    「ん? うーん……?」
     フィオはくる、と振り返り、奥に向かって尋ねる。
    「パラ、ちょっといい?」
    「なんでしょう」
    「ルナさんって研究所以外だと、どこにいそう?」
    「王国内で、かつ、研究所以外と言う条件ですと、確実性の高い回答はありません」
    「『知らない』と言うことですね」
    「はい」
     家の奥から、パラがタオルで手を拭きつつ現れる。
    「お母様に何かご用事が?」
    「ええ。お願いしたいことがございまして。
     ちなみにパラさん、王国外で思い当たるところはございますか?」
    「数点ございますが、ビクトリア殿下が有する移動手段および移動能力では、いずれも到達不可能な場所です」
    「例えば?」
    「南海南東部の……」「それ以上は言っちゃ駄目よ、パラ。その子の性格だと、マジで行こうとしかねないもの」
     声をかけられ、三人の視線が一斉にそちらへ向く。
    「あら、お母様」
    「ただいま。で、ビッキー。あたしを探してたって?」
     そこには、にこにこと笑うルナが立っていた。
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