黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・上弦抄 5

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    麒麟を巡る話、第574話。
    葛の葛藤。

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    5.
    「あれ?」
     と、葛が辺りを見回す。
    「そう言えば、タイカさんはー?」
    「先生? 帰ったわよ、とっくに」
     渾沌にしれっと返され、葛は目を丸くする。
    「え、帰っちゃったの? 魔力無くなったって言ってなかったっけ?」
    「なんか『思うことがある』とか言って、去年暮れくらいに『オリハルコン』の魔力を使って、さっさと。わたしは『ゆっくり休みたい』ってお願いしたし、しばらくこっちにいるつもりだけどね。
     あ、勿論ハーミット家との約束は、今も果たしてるわよ? ちょくちょくカプラスランドに行って、あなたのこと話したりもしてるし」
    「え、そなの? 元気してる? ママとパパとばーちゃん」
    「ええ、みんな元気よ。道場も軍での教官業も順調だし、家族仲も極めて良好。『帰ってきてほしいな』とも言ってたけどね。
     あなたと、葵が」
    「……んー……」
     渋い顔をした葛に、渾沌がこう続ける。
    「あなたにとっては憎い敵かも知れないけど、秋也とベルにとっては可愛い娘だし、ジーナさんにとっても可愛い孫なのよ、今でもね。わたしにしても、あの子とあなたは孫みたいなものだし。
     だから極端なことを言えば、何もかも15年前に戻って欲しいとさえ思ってるのよ。葵がまだ、のんびり眠っていられたあの頃に、……ね」
    「……ん、まあ、うん。そうだね、あたしもあの頃に戻れたらなって思うコト、一杯あるよ。でも、……ソレは、無理だよ」
    「どうして?」
    「あたしとアイツ、両方に問題があるもん。
     あたしはアイツのコトが許せないし、アイツは戻る気が無い。もし15年前と同じように、一緒に暮らそうとしても、きっと駄目。きっと、何かがおかしくなって、何かを掛け違えて、結局は大喧嘩になっちゃうよ」
    「それを正そう、正したいとは思わないの?」
    「思うよ。でも、……でも、ソレをやれる自信が、あたしには、無いの。
     アイツはあまりにも多くの人を不幸にし過ぎたし、あたしの身の周りも、15年前とはガラッと変わっちゃったんだよ? ソレを15年前に戻すコトなんて、誰もできないと思う」
    「そうね、確かにそれは、先生でもできないことだと思うわ。
     でも未来はまだ、いくらでも変えられるでしょ?」
    「未来を?」
    「ええ。もしかしたら、今あなたと葵に起こってる問題を解決する道が、どこかにあるかも知れない。
     そう思わないと、あなた――この先の人生に、希望を見出だせないでしょ?」
    「ソレ、……は」
    「あなたのおじいさんの、ネロ・ハーミット卿も言ってたことじゃない。『過去のいざこざに囚われたままじゃ、いい未来は訪れない。すぱっと割り切って、笑ってる方がいい』って。
     あなたがこのまま葵を倒すことだけを考えて、そしてそれが成就した、その時。あなたに何が残るのかしら?」
    「……」
    「あなたも分かってるんじゃない? きっと今よりもっとどうしようもない、底無しに暗い気持ちになるってことが」
    「……かも。……ううん、多分そうなる」
    「嫌でしょ?」
    「そりゃ、……うん。考えるだけでも嫌な気持ちになる。
     でも、どうすればいいの? あたし、どうしたらアイツのコト、折り合い付けられるの?」
    「それはわたしが出すべき答えじゃ無いわね」
     渾沌は肩をすくめ、こう返した。
    「あなたの人生は、あなたのものだもの。他の人には結局、あなたの苦しみと悩みは分からないわ。それは自分で折り合いを付け、整理し、片付けなければならないものよ。
     せいぜい悩むことね――困ってるのも自分。悩むのも自分。それならいつかきっと、自分が納得行くような良い答えを、自分で導き出せるはずよ。
     残念ながら葵は、そうじゃないみたいだけど」
    「……だね。白猫の言うコト聞いてばっかりだもんね」
    「だからこそ、葵は今、困ってるんだと思う。いいえ、もっとずっと昔から、悩み続けてるはずよ。白猫に会った、その日から。
     でも悩む自分と、答えを出す人が違う。きっと葵が望まない答えも、沢山出されてきたことでしょうね。
     ……こんな説教をしておいてなんだけど、葵のことはあなたが助けてあげて」
    「え?」
    「白猫の呪縛から解放してやれるのは、あなたしかいないわ。
     葵自身の力でそこから逃れることは、多分できない。あの子の思考の中に、そう言う道筋は全く用意されて無さそうだもの。
     あの子と最もつながりが深いのは葛、あなたよ。あなた以外に、葵を助けてあげられる人は一人もいないわ」
    「……」
     葛は答えず、その場から離れた。
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