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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・偽計抄 1

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    麒麟を巡る話、第576話。
    煽り屋マロ。

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    1.
    「お招きいただきありがとうございます、っと」
     現在は白猫党の本部となっている、ヘブン王国の首都クロスセントラルの、その正に中心に位置するドミニオン城。
     その城門前でわざとらしく挨拶したマロと、そしてその隣に立つ女性を見て、シエナの右目はピクピクと痙攣していた。
    「……ざけんな」
    「はい?」
     思わず口から漏れてしまったのだろう――シエナはコホンと空咳をし、こう言い直した。
    「あなたの横にいるの、……いえ、いる人は何なの?」
    「忘れたか? オレだよ、オレ、オレ」
     ニヤニヤと笑いながらそう言い返した金毛九尾の狐獣人、克天狐に、シエナは右拳をプルプルと震わせながら、冷静を装った声を出す。
    「無論、覚えています。お久しぶりです、テンコちゃん。
     アタシが言いたいのは、何故、あなたが、マロと一緒にいるのか、と言うコトです」
    「理由は3つある。1つはマロの身の安全を守るためだ。前回だってお前ら、コイツに襲いかかったじゃねーか。マロは話し合いしようつったにもかかわらず、だ」
    「そ、ソレは……」
    「今回だってお前らの本拠地が話し合いの場だ。いくらお前らが口で『襲う気は無い』つったって、そんなもん誰が信じるよ?
     つーワケで、オレが同行してる。例えお前らの『最大戦力』がしゃしゃり出てこよーと、戦艦一隻ブチ込んでこよーと、コレなら安全ってワケだ」
    「だからって、何であなたが、わざわざ……」
    「2つ目。お前ら、オレが『島』にいなかった時に、何したよ?」
    「う……」
    「そのお礼参りも込めて、だ。ま、城ん中で暴れ回ったりはしねーが、ソレでもお前らがヘンなコトしようとしたら、それ相応の『お返し』はさせてもらうから、な」
     天狐に冷たい視線をぶつけられ、シエナの顔色が悪くなってくる。
    「そんで3つ目だが、マロがしようって話に、オレはまったく無関係ってワケじゃねーからな。いわゆる証人喚問ってコトだ」
    「そ、……そう。ええ、まあ、……そう言う事情なら、仕方無いですね。では、立ち話もなんですから、……中に、どうぞ」
     そう言って、シエナは背を向ける。
     そのあからさまに苛立った様子を見て、マロと天狐はパチ、とウインクし合っていた。
    (完璧だな)
    (ええ、計画通りですわ)

     城内に通され、廊下を進む間も、マロたちはシエナを煽っていた。
    「5年ぶりに来ても、全然変わってませんな」
    「そっか」
    「相変わらずみんな、シケた顔しとりますわ。よっぽどお忙しいようで」
    「ま、そうだろ。毎日人を蹴落とすコトばっかり考えてる、クソみたいなヤツらばっかりだからな」
    「あはは、そうですな」「ちょっと」
     先導していたシエナが立ち止まり、二人をキッとにらみつける。
    「黙っててもらえない?」
    「なんで?」
    「皆仕事中なのよ」
    「俺も仕事や」
    「ドコがよ」
    「何や? お前、金火狐からの勅命が仕事や無いっちゅうんか?
     おーおー、偉うなったもんやなあ! 天下の金火狐よりウチらの方が偉いぞーってか!」
    「声が大きいッ!」
    「大きいのんはお前や。さっさと案内せえや」
    「……~ッ」
     この時点で既に、シエナの顔は真っ赤になっていたが、それでも会議室に到着するまで、マロたちは散々にシエナや白猫党を腐していた。

    「会議を始める前に、……ちょっと、待っててちょうだい」
    「なんで?」
    「準備を整えるからよ」
     吐き捨てるようにそう返し、シエナは会議室を出る。
     ある程度会議室から離れたところで、シエナは近くにあった消火器をつかみ、窓に向かって投げつけた。
    「っらあああああッ! ふっざけんなあああッ!」
     がしゃん、と派手な音を立てて窓ガラスが割れ、外へ飛んで行った消火器が破裂し水が噴き上がるが、シエナの怒りは収まらない。
    「付け上がりやがってッ! クソッ、クソッ、ふざけんな、クソッ!」
     辺りにあった小物や調度品を片っ端から外に投げ始めたところで、トレッドが慌てて駆け寄ってくる。
    「そ、総裁、総裁! お収め下さい!」
     トレッドが彼女を羽交い締めするが、シエナはバタバタともがき、暴れるのをやめない。
    「アイツ何なのよ、マジで!? アタシが笑って許すとでも思ってんの!?」
    「気持ちは分かります! 分かりますがしかし、収めて下さい!」
    「……ぐっ」
     トレッドに諌められ、シエナはようやくもがくのをやめるが、それでも苛立った声が彼女の口から漏れる。
    「テンコちゃんがいなけりゃ、あんなクズさっさと……!」
    「総裁、言葉が過ぎます。殿中ですから、どうか収めて下さい」
    「……ええ、……そうね、……冷静にならなきゃ。
     そうね、こっちもテンコちゃんへの対抗策を用意しておきましょう。アオイを呼んでおいてもらえるかしら? 多分、寝室にいると思うし」
    「承知しました」
     シエナから手を離し、トレッドがその場を離れる。
     残ったシエナはほとんど枠だけになった窓に目を向け、はあ、とため息をついた。
    「冷静に、……よ」
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    当ブログのメインコンテンツなので、今後もどんどん小説を書いていきます。
    ただ、どちらかと言えば長編小説が多いので、読むのには時間と根気がいるかも知れません。

    自分のブログの宣伝にもなるので、気にせずアップしていただいて構いませんよ。
    むしろ「Oさん」などとにごさず、はっきり名前を書いていただいた方が、個人的には嬉しいです。

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    こんばんは。
    小説を続けて書いておられますね。
    (^_^)
    実はカレンダーをアップさせて頂きました。

    嫌なら いつ
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