「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・偽計抄 5
麒麟を巡る話、第580話。
摘発作戦。
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5.
マロと天狐が拘束されてから1週間後、党本部からの命令を受けた央中駐留軍、そして本部からの援軍を加えた大軍勢がコールマインに集結していた。
「いいか、敵には地の利がある。多少囲んだ程度では逃げられる可能性がある。入念かつ堅固に包囲を行い、一滴の水も漏らさぬような態勢で向かうのだ」
「了解であります」
例によってロンダはシエナから直に指揮を執るよう命令を受けており、かなりの人員を与えられて――と言うより、押し付けられていた。
傍から見れば滑稽とさえ映るその陣容に、ロンダも少なからず呆れていたのだろう。
「……とは言え、敵数名に対し――いや、敵と呼べるほどのものではないな――わざわざ1個連隊を差し向けるとは。まったく、総裁の重厚長大主義には時々、呆れさせられる」
上官からこぼれる愚痴に、指揮官たちも苦い顔で返す。
「はあ……」
「確かに」
「しかし総裁閣下直々のご命令ですし」
「うむ、それは絶対である。それは分かっているつもりだ。
だが軍事においては、我々の方が知識、経験ともに長じているのは事実だ。その我々にしてみれば、こんな大群を成して捕らえに向かうなど、どれほど馬鹿馬鹿しいと思えるか」
司令に任命された当初、ロンダのシエナに対する忠誠心は確かなものであったが、理不尽かつ効率を度外視した、非常識な命令を重ねて受ける内、その忠誠心はすっかり冷え込んでしまい、今ではこうして部下や同僚に対し、あられもなく愚痴を吐く場面が多くなっていた。
さらには幹事長のイビーザも事あるごとに叛意をほのめかす機会が増えており、その上、ヴィッカー博士が確信犯的に二人を煽り、それぞれに謀反を起こさせようとしているとさえ、党員の間でささやかれている始末である。
その流れは実は葵と、そして白猫が、結党当初より目論んでいたものだったのだが――かつて堅固なものであった白猫党の結束は今や、風前の灯となりつつあった。
「……作戦開始の時間だ。全員、速やかに所定の地点へ移動されたし」
「了解であります」
ロンダの号令に従い、兵士たちが散開する。
「我々の目的はあくまで拿捕だ。可能な限り無傷で捕らえること」
《はっ》
程なくして、あちこちから報告が入ってくる。
《潜んでいたレジスタンス2名を発見、拘束しました》
《同じく2名、捕獲》
《こちらも捕まえました》
これらの報告を受け、ロンダは肩をすくめた。
「呆気無いものだ。やはり過剰投下であったな。
全隊に告ぐ。拘束したレジスタンスは逐次、拠点へ連行せよ」
《了解しました》
「リーダーと目される、アレックス・トポリーノ氏は見つかったか?」
《はい。ちょうど今、投降しました》
「投降?」
《勝ち目が無いと悟った、とのことです》
「そうか。彼女も他の者と同様、連行してくれ」
《はい》
15分後、兎獣人の女性が兵士たちに囲まれる形で、ロンダの前に姿を表した。
「君がアレックス・トポリーノで相違ないか?」
「正しくはアレクサンドラ・トポリーノです、将軍閣下」
「あ、いや。司令ではあるが将軍ではない。我が軍に将軍職は設置されておらんのだ。……コホン、話が逸れたようだ。改めて自己紹介させてもらおう。
私は白猫軍司令、ミゲル・ロンダだ。トポリーノ女史、貴君らは我が党の領内において不法な放送電波を送出し、公共の利益を著しく害した容疑がかけられている。この事実に相違はあるかね?」
「公共の利益が害されたかどうか、私には分かりかねます。党の利益は害したかも知れませんが」
「申し開きがあるのであれば、然るべき場所に移ってから聞かせてもらおう。ともかく、貴君らが我々の認可しない放送を行ったと言う認識で間違い無いか?」
「それについては同意します。確かに我々は、あなた方が関与しない形で放送を行っていました。その事実は認めます」
「結構。それでは我々に付いてきてもらおう。くれぐれも逃亡や抵抗などはしないように」
「ええ、承知しています」
「……ふむ」
相手の落ち着き払った態度を受け、ロンダは首を傾げる。
「なかなか理知的な物腰だ。相当の教育を受けているようにお見受けするが、そんな貴君が何故、このような活動に身を投じているのだ?」
「知恵あるからこそです。我々は決して、あなたたちに搾取されるのを待つだけの家畜ではありません」
「あまり我々にいい印象を抱いていないようだな。高い技術を持っていると聞き及んでいたし、場合によっては協力を仰げないかと言う者もいたが、どうやらそれは叶わんようだ。
ともかく、これ以上の会話は不要だ。連行する」
ロンダは兵士たちにアレックスたちを縛るよう指示し、軍用トレーラーに乗り込んだ。
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摘発作戦。
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マロと天狐が拘束されてから1週間後、党本部からの命令を受けた央中駐留軍、そして本部からの援軍を加えた大軍勢がコールマインに集結していた。
「いいか、敵には地の利がある。多少囲んだ程度では逃げられる可能性がある。入念かつ堅固に包囲を行い、一滴の水も漏らさぬような態勢で向かうのだ」
「了解であります」
例によってロンダはシエナから直に指揮を執るよう命令を受けており、かなりの人員を与えられて――と言うより、押し付けられていた。
傍から見れば滑稽とさえ映るその陣容に、ロンダも少なからず呆れていたのだろう。
「……とは言え、敵数名に対し――いや、敵と呼べるほどのものではないな――わざわざ1個連隊を差し向けるとは。まったく、総裁の重厚長大主義には時々、呆れさせられる」
上官からこぼれる愚痴に、指揮官たちも苦い顔で返す。
「はあ……」
「確かに」
「しかし総裁閣下直々のご命令ですし」
「うむ、それは絶対である。それは分かっているつもりだ。
だが軍事においては、我々の方が知識、経験ともに長じているのは事実だ。その我々にしてみれば、こんな大群を成して捕らえに向かうなど、どれほど馬鹿馬鹿しいと思えるか」
司令に任命された当初、ロンダのシエナに対する忠誠心は確かなものであったが、理不尽かつ効率を度外視した、非常識な命令を重ねて受ける内、その忠誠心はすっかり冷え込んでしまい、今ではこうして部下や同僚に対し、あられもなく愚痴を吐く場面が多くなっていた。
さらには幹事長のイビーザも事あるごとに叛意をほのめかす機会が増えており、その上、ヴィッカー博士が確信犯的に二人を煽り、それぞれに謀反を起こさせようとしているとさえ、党員の間でささやかれている始末である。
その流れは実は葵と、そして白猫が、結党当初より目論んでいたものだったのだが――かつて堅固なものであった白猫党の結束は今や、風前の灯となりつつあった。
「……作戦開始の時間だ。全員、速やかに所定の地点へ移動されたし」
「了解であります」
ロンダの号令に従い、兵士たちが散開する。
「我々の目的はあくまで拿捕だ。可能な限り無傷で捕らえること」
《はっ》
程なくして、あちこちから報告が入ってくる。
《潜んでいたレジスタンス2名を発見、拘束しました》
《同じく2名、捕獲》
《こちらも捕まえました》
これらの報告を受け、ロンダは肩をすくめた。
「呆気無いものだ。やはり過剰投下であったな。
全隊に告ぐ。拘束したレジスタンスは逐次、拠点へ連行せよ」
《了解しました》
「リーダーと目される、アレックス・トポリーノ氏は見つかったか?」
《はい。ちょうど今、投降しました》
「投降?」
《勝ち目が無いと悟った、とのことです》
「そうか。彼女も他の者と同様、連行してくれ」
《はい》
15分後、兎獣人の女性が兵士たちに囲まれる形で、ロンダの前に姿を表した。
「君がアレックス・トポリーノで相違ないか?」
「正しくはアレクサンドラ・トポリーノです、将軍閣下」
「あ、いや。司令ではあるが将軍ではない。我が軍に将軍職は設置されておらんのだ。……コホン、話が逸れたようだ。改めて自己紹介させてもらおう。
私は白猫軍司令、ミゲル・ロンダだ。トポリーノ女史、貴君らは我が党の領内において不法な放送電波を送出し、公共の利益を著しく害した容疑がかけられている。この事実に相違はあるかね?」
「公共の利益が害されたかどうか、私には分かりかねます。党の利益は害したかも知れませんが」
「申し開きがあるのであれば、然るべき場所に移ってから聞かせてもらおう。ともかく、貴君らが我々の認可しない放送を行ったと言う認識で間違い無いか?」
「それについては同意します。確かに我々は、あなた方が関与しない形で放送を行っていました。その事実は認めます」
「結構。それでは我々に付いてきてもらおう。くれぐれも逃亡や抵抗などはしないように」
「ええ、承知しています」
「……ふむ」
相手の落ち着き払った態度を受け、ロンダは首を傾げる。
「なかなか理知的な物腰だ。相当の教育を受けているようにお見受けするが、そんな貴君が何故、このような活動に身を投じているのだ?」
「知恵あるからこそです。我々は決して、あなたたちに搾取されるのを待つだけの家畜ではありません」
「あまり我々にいい印象を抱いていないようだな。高い技術を持っていると聞き及んでいたし、場合によっては協力を仰げないかと言う者もいたが、どうやらそれは叶わんようだ。
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