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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 3;白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・幾望抄 1

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    麒麟を巡る話、第582話。
    驚愕する老賢帝。

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    1.
     西方、グリスロージュ帝政連邦首都、カプラスランド。
    「なんと……」
     何年かぶりに戻ってきた、自身の愛娘のように思っていた葛から聞かされた、そのとんでもない話を聞いた途端、フィッボ・モダス帝は難しい顔をした。
    「カズラ君、それは本気で言っていることか?」
    「はい」
     いつもニコニコと笑っていた彼女は、今は真剣な表情で、フィッボ帝と向き合っている。
    「……そうか」
     齢66を迎えたこの賢帝は一言だけ返して、そのまま黙り込んだ。
    「あ、あのー」
     沈黙に耐え切れず、葛は恐る恐る尋ねる。
    「ダメですか……?」
    「……」
     フィッボ帝は何も言わず、葛と、その横に立つ猫獣人の女性をじっと眺めている。
    「説明が欲しい、と言いたげな顔ね」
     ルナからそう返され、ようやくフィッボ帝が口を開いた。
    「察しが良くて助かるよ。君は、フラウス女史と言ったかな」
    「ええ」
    「トラス王国からの密使と言っていたが、この作戦は無論、王国からの要請であると考えて相違無いか?」
    「正式とは言えないけれどね」
    「それはそうだろう。私も中央の事情にそう詳しいわけではないが、トラス王国と言えば央北の3分の1強におよぶ共同体、『新央北』の宗主国だ。
     そのトラス王国が、我が国に『隣国と決戦せよ』などと主だって要請すれば、央北全土を焦土としかねない、恐るべき騒乱の火種になるだろう。
     何故なら我々にとっての隣国とは即ち、今は白猫党の配下であるプラティノアール王国なのだから」
    「ご説明、痛み入るわ。そう、だからこの話は決して外には漏らせない。もし交渉が決裂したとしても、他言しないでもらえると助かるわ」
    「こちらにとっても、話を漏らせば――交渉がどうなろうと、こちらがどう受け答えしようと――白猫党に攻めさせる口実を与えることになる。他言はしないよ」
    「ありがとうございます、陛下」
    「礼にはおよばない。……人払いしたとは言え、ここでできるような話では無い」
     フィッボ帝は玉座から立ち上がり、葛たちに付いてくるよう促した。
    「執務室に来てくれ。そっちの方が、謀議も気兼ねなくできるだろう」
     フィッボ帝に伴われ、葛たちは玉座の背後にある階段を上る。
    「ココ、入っちゃって大丈夫なんですか?」
     尋ねた葛に、フィッボ帝はくっくっと面白がるように笑って返す。
    「構わんよ。上には寝室と書斎と執務室しか無い。伝家の秘宝や軍事機密と言った重要なものは、上には置いていない。もっとも、秘宝などと言うものはそもそも我が城には無いがね。
     と言うか君が昔、まだ小さかった頃に訪ねてきた時、お姉さんと一緒に忍び込んでかくれんぼしていた覚えがあるが」
    「あぅ」
     葛は顔を赤くし、ぼそっとつぶやいた。
    「ソレで両親から怒られたので、……ちょっと苦手なんです」
     その返答を聞いたフィッボ帝は、今度は大笑いした。

     執務室に入り、鍵を掛けたところで、フィッボ帝は机に地図を拡げた。
    「さて、詳しく話してくれるかな。現時点で私には、君たちの話は甚だしく荒唐無稽であるとしか思えない。その疑念を解消してくれるか?」
    「ええ、勿論」
     ルナは地図上の、プラティノアール王国の辺りを指し示す。
    「2年前より、白猫党は隣国を西方侵略における本拠地として占拠し、支配下に置いているわ。
     とは言えこの国に対しては、今のところは直接の影響はなし。こっちの政治・経済に大きな影響を与えてるとは言えないわ。一方で、白猫軍の侵攻ルートも現在は西方北部方面に集中してるし、こちらに攻め込む可能性は非常に少ないと見ていい。
     でもこのまま看過すれば、いずれこちらへも手を伸ばしてくることは明白でしょうね」
    「その根拠は? 白猫党の声明によれば、『政治的に腐敗した国を打倒する』とのことだ。自画自賛するようで恐縮だが、我が国には現在、そんな汚点は無いと自負しているのだが」
    「その『腐敗』の基準は結局、白猫党が設けてる。党幹部が『帝国は腐敗している』と断言し、糾弾すれば、党員もそれにならって行動するってだけよ。
     言い換えれば、白猫党の奴らに世論や、被侵攻国の言い分を聞く耳は無い。攻めようと思えば攻めてくる、ってことよ」
    「ふむ。確かにその点は、私も懸念しないではない。
     しかしその懸念が本物である、即ち明日にでも白猫軍が国境を越えてくる可能性は0ではないとしても、本当にこちらから先制攻撃などすれば、国際的な誹りは免れないだろう」
    「彼らも非親交国からは、少なからず非難されている身よ。プラティノアールにしても侵攻される前、王政下にあった頃は、白猫党を『卑劣な手段で国を乗っ取る輩』と見なしてたらしいし。
     そんな奴らから攻め込まれよう、攻め込まれるかもと言う状況にあって『何も行動を起こさなかった』だなんて、そっちの方が非難されるんじゃないかしら」
    「一理ある。仮に非難されたとしても、その相手は白猫党の配下か親交国だろうな。我が国と国交を結ぶことは考えにくい。
     では第二の問題として、勝つ見込みがあるかを論じねばなるまい」
    「その見込みも、十分あるわ」
     フィッボ帝の問いに、ルナはにこっと笑って返した。
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