「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・幾望抄 4
麒麟を巡る話、第585話。
二人の贖罪。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「えーと……」
今や黄家の当主となった黄朱明と、その妻である柊晶奈は、揃って対面の相手を眺めていた。
「言いたいことは分かるわ。確かにあたしは怪しく見える。それは認めるわ。
でも、……ちょっと、人前に出せる顔じゃないのよ。察してくれないかしら?」
師匠、克渾沌の面を被って黄州との交渉に望んだルナは、自分の姿についてそう説明したが、黄夫妻のいぶかしげな表情は緩まない。
「ええ……、確かに怪しいです。しかもお隣にいらっしゃる方って」
「あたくしのことをご存知なのですか?」
尋ねた楓に、朱明は深くうなずいて返す。
「それはもう。無礼を承知で申し上げれば、今や天原家の評判は地に落ちておりますから。その一端を担っていたのが他ならぬあなたであることも、十分に存じております」
「それで、……ええと、フラウス女史でしたっけ」
「ええ」
「あなたがその央南の面汚しと共に、我が黄海へ訪れた理由は何でしょうか?」
晶奈のずけずけとした物言いに、朱明が困った顔をする。
「晶奈、それは言い過ぎじゃ……」
「いいえ、朱さん。この人たちには、はっきりと言わなければ。私には臭いで分かる。此奴らはまともな輩では無い。そんな雰囲気が、ぷんぷんと臭ってくるもの」
あまりに刺々しい晶奈の言葉に、元来血の気が強い楓が憤る。
「人を生ゴミみたいに仰らないで下さるかしら?」
「生ゴミでなくて何だと言うのです!? あなたが余計なことをしなければ、此度の戦は東部で食い止められたはずだと言うのに……!」
「それは……」「晶奈、言い過ぎだ。それ以上は駄目だよ」
と、ここで朱明が晶奈の弁をさえぎった。
「仮に天原家が画策しなくとも、東部陥落は免れなかったろう。
そもそも緒戦においては、この人が東部の最前線で白猫党を追い返したんだ。それは紛れもない事実だ。違うかい?」
「……あなたがそう言うのであれば、これ以上は責めない」
そう返し、晶奈は不機嫌そうに黙り込んだ。
「失礼しました。……あなたを弁護するようなことを言いはしましたが、一方で央南連合の総力を懸けた奪還作戦が、あなたが率いた部隊の全滅により灰塵に帰したこともまた、厳然たる事実です。
天原柏氏は敗北の責任を追求され、さらには主席就任以前から買っていた恨みも加算された末、現在は懲役500年と言う前代未聞の極刑を課せられ、投獄されています。
あなた自身も、もしも生きていると判れば、それに比類する罰が課せられるでしょう。その危険を冒してまで私に接触しようとしたのは、一体どんな理由があってのことでしょうか?」
「罪滅ぼし、と言うにはあまりに虫のいい話ですが」
ルナはそう前置きし、西方でも話していた「作戦」を説明した。
「……如何でしょうか? この計画が実れば、白猫党を央南から完全に撤退させることができます」
「なるほど。確かに聞く分には、勝算はある程度は高そうだ。
しかし、やはり胡散臭い。何故ならあなた方の利益がどこで出るのか、まるで見えてこないからだ」
朱明は大きく首を振り、こう続けた。
「商人と言う人種は、明確かつ物理的、合理的な利益が無ければ納得しないものです。
ですので、この作戦の成就によってあなた方がどんな利益を得るのか? それを説明していただかなければ、この話ははじめから聞かなかったものとするしかありません」
頑とした朱明の態度に、ルナは小声で悪態をついた。
「……変わんないわね、この頭でっかち」
「な、……何ですって? 今、何と?」
「いいえ、何でも。分かりました。では明確かつ物理的な理由を説明しましょう。
先程仰った通り、この天原楓女史はこのまま央南に戻れば即、拘束される身にあります。では、その罪状とは何か? それは白猫党の侵略を止められず、易々と突破させてしまったことに起因します。
となればその白猫党を駆逐しさえすれば、彼女の罪は帳消しになるのでは?」
「ふむ。丸っきり無罪とは行かずとも、相当な減刑は考慮されるでしょう。その点においては納得できなくも無い。
しかしそれは、天原女史に限ってのこと。ルナさん、あなたの利益は何があるのです?」
「……あたしも罪滅ぼし、かしらね」
「え?」
「失礼、黄大人」
面食らった様子の朱明の手を引き、ルナは部屋から離れ、廊下へと出た。
「な、何です、一体?」「朱明」
廊下に誰もいないことを確認し、ルナは仮面を外した。
「あたしの顔に見覚え、無い?」
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二人の贖罪。
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「えーと……」
今や黄家の当主となった黄朱明と、その妻である柊晶奈は、揃って対面の相手を眺めていた。
「言いたいことは分かるわ。確かにあたしは怪しく見える。それは認めるわ。
でも、……ちょっと、人前に出せる顔じゃないのよ。察してくれないかしら?」
師匠、克渾沌の面を被って黄州との交渉に望んだルナは、自分の姿についてそう説明したが、黄夫妻のいぶかしげな表情は緩まない。
「ええ……、確かに怪しいです。しかもお隣にいらっしゃる方って」
「あたくしのことをご存知なのですか?」
尋ねた楓に、朱明は深くうなずいて返す。
「それはもう。無礼を承知で申し上げれば、今や天原家の評判は地に落ちておりますから。その一端を担っていたのが他ならぬあなたであることも、十分に存じております」
「それで、……ええと、フラウス女史でしたっけ」
「ええ」
「あなたがその央南の面汚しと共に、我が黄海へ訪れた理由は何でしょうか?」
晶奈のずけずけとした物言いに、朱明が困った顔をする。
「晶奈、それは言い過ぎじゃ……」
「いいえ、朱さん。この人たちには、はっきりと言わなければ。私には臭いで分かる。此奴らはまともな輩では無い。そんな雰囲気が、ぷんぷんと臭ってくるもの」
あまりに刺々しい晶奈の言葉に、元来血の気が強い楓が憤る。
「人を生ゴミみたいに仰らないで下さるかしら?」
「生ゴミでなくて何だと言うのです!? あなたが余計なことをしなければ、此度の戦は東部で食い止められたはずだと言うのに……!」
「それは……」「晶奈、言い過ぎだ。それ以上は駄目だよ」
と、ここで朱明が晶奈の弁をさえぎった。
「仮に天原家が画策しなくとも、東部陥落は免れなかったろう。
そもそも緒戦においては、この人が東部の最前線で白猫党を追い返したんだ。それは紛れもない事実だ。違うかい?」
「……あなたがそう言うのであれば、これ以上は責めない」
そう返し、晶奈は不機嫌そうに黙り込んだ。
「失礼しました。……あなたを弁護するようなことを言いはしましたが、一方で央南連合の総力を懸けた奪還作戦が、あなたが率いた部隊の全滅により灰塵に帰したこともまた、厳然たる事実です。
天原柏氏は敗北の責任を追求され、さらには主席就任以前から買っていた恨みも加算された末、現在は懲役500年と言う前代未聞の極刑を課せられ、投獄されています。
あなた自身も、もしも生きていると判れば、それに比類する罰が課せられるでしょう。その危険を冒してまで私に接触しようとしたのは、一体どんな理由があってのことでしょうか?」
「罪滅ぼし、と言うにはあまりに虫のいい話ですが」
ルナはそう前置きし、西方でも話していた「作戦」を説明した。
「……如何でしょうか? この計画が実れば、白猫党を央南から完全に撤退させることができます」
「なるほど。確かに聞く分には、勝算はある程度は高そうだ。
しかし、やはり胡散臭い。何故ならあなた方の利益がどこで出るのか、まるで見えてこないからだ」
朱明は大きく首を振り、こう続けた。
「商人と言う人種は、明確かつ物理的、合理的な利益が無ければ納得しないものです。
ですので、この作戦の成就によってあなた方がどんな利益を得るのか? それを説明していただかなければ、この話ははじめから聞かなかったものとするしかありません」
頑とした朱明の態度に、ルナは小声で悪態をついた。
「……変わんないわね、この頭でっかち」
「な、……何ですって? 今、何と?」
「いいえ、何でも。分かりました。では明確かつ物理的な理由を説明しましょう。
先程仰った通り、この天原楓女史はこのまま央南に戻れば即、拘束される身にあります。では、その罪状とは何か? それは白猫党の侵略を止められず、易々と突破させてしまったことに起因します。
となればその白猫党を駆逐しさえすれば、彼女の罪は帳消しになるのでは?」
「ふむ。丸っきり無罪とは行かずとも、相当な減刑は考慮されるでしょう。その点においては納得できなくも無い。
しかしそれは、天原女史に限ってのこと。ルナさん、あなたの利益は何があるのです?」
「……あたしも罪滅ぼし、かしらね」
「え?」
「失礼、黄大人」
面食らった様子の朱明の手を引き、ルナは部屋から離れ、廊下へと出た。
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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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NoTitle
腹を割る必要があるといえ、思い切ったことしましたねルナさん。
これが吉と出るか凶と出るか……展開拝見。
これが吉と出るか凶と出るか……展開拝見。
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NoTitle
相手も色々びっくりしたことでしょう。