「双月千年世界 3;白猫夢」
白猫夢 第11部
白猫夢・幾望抄 5
麒麟を巡る話、第586話。
従兄弟の密談。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「何ですって? ……え?」
虚を突かれたような朱明の表情が、驚愕に変わる。
「……まさか!? いや、そんなはずが無い!」
「覚えててくれたみたいね。それなら分かるでしょ、あたしが『罪滅ぼし』と言った意味を」
「それで許されると思うのか、月乃」
そして朱明の表情は、怒りに満ちたものへと変わっていく。
「君が央南に、いいや、焔流にしたことを、無かったことにできると思うのか!?」
「できると思うならあんな提案もしないし、黄海に帰ってきたりもしなかった。
罪は罪よ。それも、償いようの無い類の、最低の罪。それはあたしがこの30年間、痛感し続けてきたことだもの。
もしもあなたが償えと言うのなら、どんなことでもするわ」
「それで白猫党を追い払ってやろうって言うのか? 虫が良過ぎる!
君にお願いすることなんて何も無いし、今更罪の償いなんてものもいらない。帰ってくれ!」
苛立たしげに怒鳴る朱明に、ルナは一転、冷たい口調で返した。
「……ここであんたがうなずけば、話は美談になるわよ」
「何だって?」
けげんな表情を浮かべた朱明に、ルナはニヤッと笑って見せた。
「黄家って言うのは本当、清濁併せ呑んでけろっとしてる奴ばっかりよね。あんたの母さんもあんた自身も。もしかしたらあたしもだけど。
曲がったことが大嫌い、尻尾の先まで真面目が詰まってますって変わり者は、あたしが知ってる限り二人しかいないわね。……いえ、三人かしら。
ま、異端児の話はどうでもいいわね。大事なのは朱明、あんたが正に『黄家の当主』だってことよ」
「な、何の話をしていると聞いてるんだ!」
「一時期は黄、柊、橘で黄州御三家だなんて呼ばれてたけど、今や橘家は黄家にとっちゃ疫病神そのもの。あんただって少なからず、そう思ってるんじゃない?」
「……っ」
橘の名前を聞き、朱明は顔をしかめる。
「そんなことは……」「無いなんて言わせないわよ? にっがい顔しちゃって」
ルナはもう一度、ニヤッと笑う。
「叔母さんもおじいさんも、ひいおじいさんも。黄家当主は代々、連合主席を務めたって言うのに、現当主のあんたにとっちゃ、今や手の届かないものになっちゃってる。
それもこれも全部、先々代の主席になった勘違いバカ女の飛鳥と、あたし以上のクズ野郎に成り下がった、春司のゲス兄貴のせい。
そのとばっちりで、本来ならあんたに譲られるはずだった連合の地位と権威、権力は、他の奴にそっくり奪われる羽目になった。……さぞや悔しいでしょうね」
「……」
朱明は顔を背け、黙り込む。
「さっきあたしをなじったみたいに、はっきり肚のうちを言ってみなさいよ。まさか今更、キレイゴト言って茶を濁したりなんてしないわよね?」
「……そ、の」
振り返った朱明は、ばつの悪そうな表情を浮かべていた。
「み、……認めよう。確かに僕はその地位が欲しい。
例え今は零落した組織だとしても、この央南を2世紀以上にわたって治めてきたのは連合であり、その主席と言う地位は、事実上の玉座だ。
黄家は代々にわたって、その玉座に就いてきたんだ。そりゃ僕だって……」
「そこで、取引ってわけ」
ルナはすうっと一歩、静かに詰め寄る。
「あんたは主席の椅子が欲しい。そして連合に栄光を取り戻したい。そうよね?」
「あ、ああ」
「一方で、あたしと楓は央南に平和を取り戻したい。目的は違うけど、達成するための手段は一緒よね?」
「それは、……なるほど、さっきの話になるわけか」
「ってことよ。実際に白猫党を央南から駆逐できれば、あんたは一躍、英雄になる。
そしてその英雄を迎え入れれば、ずっと信頼を失墜させてきた央南連合も、権威を回復できると踏む。諸手を上げて歓迎するでしょうね。もしかしたら『やっぱり黄家は央南の顔だ』なんて讃えられて、後世に残る美談、英雄譚にされるかも知れないし。
反面、このままあたしたちを帰して、これまで通りに事態を看過してても、何にも変わらないわよ? 少なくとも、連合の椅子は遠ざかったままでしょうね。
さーて、朱明。どうする? あたしと楓を帰すの? それとも応接間に戻って話の続きをするの?」
1分後――朱明はルナを伴って応接間へと戻り、どこかわざとらしい笑顔を浮かべながら、「フラウス女史の言葉に心打たれた。黄家は総力を挙げて協力する」と述べた。
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「何ですって? ……え?」
虚を突かれたような朱明の表情が、驚愕に変わる。
「……まさか!? いや、そんなはずが無い!」
「覚えててくれたみたいね。それなら分かるでしょ、あたしが『罪滅ぼし』と言った意味を」
「それで許されると思うのか、月乃」
そして朱明の表情は、怒りに満ちたものへと変わっていく。
「君が央南に、いいや、焔流にしたことを、無かったことにできると思うのか!?」
「できると思うならあんな提案もしないし、黄海に帰ってきたりもしなかった。
罪は罪よ。それも、償いようの無い類の、最低の罪。それはあたしがこの30年間、痛感し続けてきたことだもの。
もしもあなたが償えと言うのなら、どんなことでもするわ」
「それで白猫党を追い払ってやろうって言うのか? 虫が良過ぎる!
君にお願いすることなんて何も無いし、今更罪の償いなんてものもいらない。帰ってくれ!」
苛立たしげに怒鳴る朱明に、ルナは一転、冷たい口調で返した。
「……ここであんたがうなずけば、話は美談になるわよ」
「何だって?」
けげんな表情を浮かべた朱明に、ルナはニヤッと笑って見せた。
「黄家って言うのは本当、清濁併せ呑んでけろっとしてる奴ばっかりよね。あんたの母さんもあんた自身も。もしかしたらあたしもだけど。
曲がったことが大嫌い、尻尾の先まで真面目が詰まってますって変わり者は、あたしが知ってる限り二人しかいないわね。……いえ、三人かしら。
ま、異端児の話はどうでもいいわね。大事なのは朱明、あんたが正に『黄家の当主』だってことよ」
「な、何の話をしていると聞いてるんだ!」
「一時期は黄、柊、橘で黄州御三家だなんて呼ばれてたけど、今や橘家は黄家にとっちゃ疫病神そのもの。あんただって少なからず、そう思ってるんじゃない?」
「……っ」
橘の名前を聞き、朱明は顔をしかめる。
「そんなことは……」「無いなんて言わせないわよ? にっがい顔しちゃって」
ルナはもう一度、ニヤッと笑う。
「叔母さんもおじいさんも、ひいおじいさんも。黄家当主は代々、連合主席を務めたって言うのに、現当主のあんたにとっちゃ、今や手の届かないものになっちゃってる。
それもこれも全部、先々代の主席になった勘違いバカ女の飛鳥と、あたし以上のクズ野郎に成り下がった、春司のゲス兄貴のせい。
そのとばっちりで、本来ならあんたに譲られるはずだった連合の地位と権威、権力は、他の奴にそっくり奪われる羽目になった。……さぞや悔しいでしょうね」
「……」
朱明は顔を背け、黙り込む。
「さっきあたしをなじったみたいに、はっきり肚のうちを言ってみなさいよ。まさか今更、キレイゴト言って茶を濁したりなんてしないわよね?」
「……そ、の」
振り返った朱明は、ばつの悪そうな表情を浮かべていた。
「み、……認めよう。確かに僕はその地位が欲しい。
例え今は零落した組織だとしても、この央南を2世紀以上にわたって治めてきたのは連合であり、その主席と言う地位は、事実上の玉座だ。
黄家は代々にわたって、その玉座に就いてきたんだ。そりゃ僕だって……」
「そこで、取引ってわけ」
ルナはすうっと一歩、静かに詰め寄る。
「あんたは主席の椅子が欲しい。そして連合に栄光を取り戻したい。そうよね?」
「あ、ああ」
「一方で、あたしと楓は央南に平和を取り戻したい。目的は違うけど、達成するための手段は一緒よね?」
「それは、……なるほど、さっきの話になるわけか」
「ってことよ。実際に白猫党を央南から駆逐できれば、あんたは一躍、英雄になる。
そしてその英雄を迎え入れれば、ずっと信頼を失墜させてきた央南連合も、権威を回復できると踏む。諸手を上げて歓迎するでしょうね。もしかしたら『やっぱり黄家は央南の顔だ』なんて讃えられて、後世に残る美談、英雄譚にされるかも知れないし。
反面、このままあたしたちを帰して、これまで通りに事態を看過してても、何にも変わらないわよ? 少なくとも、連合の椅子は遠ざかったままでしょうね。
さーて、朱明。どうする? あたしと楓を帰すの? それとも応接間に戻って話の続きをするの?」
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