黄輪雑貨本店 新館


    「白猫夢」
    白猫夢 第11部

    白猫夢・弄党抄 2

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    麒麟を巡る話、第589話。
    歴史は繰り返すのか。

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    2.
     シエナの指示に従い、白猫軍の実に4割を超える兵力がすぐさま、央南と西方に送られた。
    「総裁の判断をどう思います、博士?」
     これについて財務本部長オラースは、ヴィッカー博士と意見を交わしていた。
    「どう、と言うのは?」
    「私は職業柄、故事を紐解く機会が多いのですが――『歴史は繰り返す』と言いますか、まるで今起きているこの現状は、黒白戦争のように思えるのです」
    「なるほど。言われてみれば、うなずける点はあります。
     双月暦4世紀でしたか、当時の中央政府に対する反乱軍が央北の四方から攻め込み、それに慌てた中央軍は、その四方に全兵力の半分以上を傾注した、と」
    「ええ。しかしその分、本拠の防衛は疎かになった。そのせいで密かに侵入した反乱軍の猛攻を防ぐことができず、あえなく陥落してしまったと聞きます。
     もしも今、この故事と同様に『新央北』やその他の勢力が攻め込んできたら、それこそ致命的な事態に陥るのではないかと、私は懸念しているのです」
     猫耳を伏せ、不安げな顔でそう話したオラースに対し、ヴィッカー博士は冷笑で返す。
    「ククク……、すっかり頭取も、白猫党に染まったようですな」
    「私はとっくに頭取を退いています。それはさておき、自分の属する組織が危機に瀕しているとなれば、でき得る限りその回避に務めようとするのは、極めて常識的な考えであると思うのですが」
    「一理ありますな。ま、それはそれとして、確かに今、トラス王国や金火狐が重い腰を挙げたりなどしてきたら、静観してはいられない。
     しかし、仮にそうした勢力が押し寄せてきたとして、それを押し返せぬほどの兵を送ったわけではありません。いや、そもそもこの本拠地、クロスセントラルにまで侵攻することは、現実的には到底不可能。
     敵を『新央北』と仮想した場合、陸路から攻めてくることとなりますが、まず互いの勢力圏境を越え、中間にあるいくつもの国を陥とし、それでようやく、クロスセントラルの防衛網にたどり着くこととなりますが、それにはどれほどの時間がかかるか。その間に、央南や西方に送った兵が戻ってきます。そうなれば相手も撤退せざるを得ない。
     央中の金火狐が動くと仮定しても、まずは央中の駐屯基地、カンバスボックスへ侵攻するはず。しかしそこにはロンダ司令が陣取っている最中。彼の統率力と指示能力を以って迎え撃たれては、とてもカンバスボックス基地の陥落には至らないでしょう。
     ましてや央北に攻め入るには、『新央北』以上のコストを要します。そこまで費用をかけて失敗すれば、総帥の責任問題に発展することは必至。とても今の地位を保ってなどいられない。総帥自身にとっても、金火狐財団にとってもです。
     ここまで考える頭があれば、とても侵攻するなどと言う決断はしない。そして実際に、トラス王や金火狐総帥は、その水準の頭脳を有している。そうではありませんか?」
    「しかしその両者が結託したとしたら? 故事と同様、四面侵攻と言う事態に発展してしまうのでは?」
    「考えられなくはありません。しかし結託したとしても、両者が実際に戦う敵、攻める順路に変更はありません。『新央北』は央北を横断せざるを得ず、金火狐は央中基地を攻めざるを得ない。対敵する相手を交換する意味も無いですからね。
     結局、外からの侵攻に関しては、我々が悩むことは何も無いのです」
    「……」
     間を置いて、オラースが尋ねる。
    「では博士は、むしろ我々の側に問題があると? 今の仰りようからすると、そう考えておられるように思えますが」
    「さて、どうでしょうね。それは今のところ、私の口からは言えません」
    「あなたの得意芸でしょう? 2人きりの折に他言無用で話を展開するのは」
    「ははは……、そう言われては敵いませんね。仕方ありません。
     では少しだけ、持論をば」
     ヴィッカー博士はニヤッと笑い、こう述べた。
    「党は今、分裂の危機に差し掛かっていると言っても過言ではありません。
     チューリン党首とイビーザ幹事長が対立を強めつつあり、一方でロンダ司令も、党首に対する不信感を年々、募らせています。
     辛うじてトレッド政務部長は党首の側に付いてはいますが、それが却って党首に対する不信感を、党全体に広めている結果となっていることも明らか。
     今のところ中立を保っているのはアローサ管理部長と財務部長、あなたの2人ですな」
    「うーむ……」
     オラースは殊更に渋い顔をし、腕を組んでうなる。
    「今後どうされるおつもりです? 党首に付くか、幹事長に付くか、あるいは司令か。それともまさか、ご自身が対抗されるおつもりでも?」
    「馬鹿な。私までもが参加すれば、それこそ党の分裂は確実、決定的になります。そもそも私は、これほどの大組織を率いるような器ではありません。
     私は静観するのみです。あくまで職務を、ひたすら忠実にこなすのみです」
    「でしょうな。いや、責めるつもりなどありません。それはそれで尊重すべき意見であり、党のことを思えばこその判断。
     しかしくれぐれもお気を付け下さい、財務部長。きっと近いうち、その3人のうち誰かが、あなたを自分の側に付くよう強要するはずです。うかつな受け答えをすれば、党が破綻する前に本部長ご自身の破綻を招くであろうと言うことを、重々ご留意下さい」
    「ええ。助言に感謝します」
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